代行者の心情
「……はぁ」
勇と別れ、宿に向かい帰路についていたベルナデットは今日何度目かわからないため息をついていた。
表情も暗く思い詰めたように見え、明らかにいつもの元気が見られない。
「……ヤシロさんが、あんなに、強かっただなんて……」
ベルナデットにとって勇は、守るべき対象だった。
あまり質が良いと言えない装備で『世界中を旅する』と言った勇を、ベルナデットは危なっかしいと思った。
だからこそ、帰還命令が来ていたのに教団本部に無理を言い、彼の護衛を申し出たのだ。
同業の代行者からだけでなく、魔物や夜盗など、彼を襲う全てから守ろうと思った。
……でも、
「私は、必要なかったんですね……」
ベルナデットとクオンは、実際ほぼ互角と言っていい。
魔銃による強化や、二挺での戦闘はしなかったものの、ベルナデットは本気でクオンと戦った。
実力は拮抗していたが、突然背後を取られ場外に出されて、負けた。
そのクオン相手に勇は善戦どころか、終始余裕を崩さなかった。(クオンはクオンで本気を出しているようには見えなかったが)
勇は自分と同じか、それ以上の実力を持っているであろう。そう理解した瞬間に、足元が崩れ去ったような感覚を覚えたのだ。
「ん? ……確か名は、ベルナデットだったか?」
ふらふらと、覚束ない足取りで歩くベルナデット。そんな彼女を呼び止める者が居た。
「貴女は……」
「今頃はヴォーダン氏の邸宅に居ると思っていたのだが?」
下半身は馬で上半身は人の亜人、ケンタウルスのクーシェだ。
ベルナデットがクーシェに気づいて辺りを見渡すと、昨夜泊まっていた宿が直ぐ目の前に現れた。
クーシェに呼びかけられるまで気づかなかったのだ。
「その様子では……失敗したのか?」
ベルナデットの様子から、ヴォーダンと会えなかったのかと思ったらしいクーシェ。
「い、いえ。今頃、ヤシロさんが会っているかと……」
「ヤシロ……あの破廉恥な人間か。それなら、お前は何故ここにいるのだ?」
クーシェがその問いをするのは当然だ。
「私は……ヤシロさんのお邪魔にしかならないと思って……」
「……」
うつむき、さらに暗い雰囲気を出すベルナデットに、「しまった」と心の中で叫ぶクーシェ。
ベルナデットの纏う雰囲気が、どんよりとしたものに変わっていく。
「あー……その、なんだ。私の方からも報告することがある。歩きながら話さないか?」
場の雰囲気を変えようと言ったクーシェの言葉にベルナデットは小さく頷いた。
◇
「ふむ、なるほど。……しかし、流石に出会いがしらに殺しかけるのはどうかと思うぞ?」
「で、ですから! それは間違えてしまっただけなんですってばぁ!」
ベ・イオの街を歩きながら、勇と初めて会ってからのことを話したベルナデットに、クーシェは苦笑気味に返した。
勇者≠勇と認識している今のベルナデットにとっては黒歴史にも近い事を言われ、顔が赤くなる。
「まぁ冗談は置いておこう。……そういった迷惑を何度かかけてしまったから役に立ちたかった、という事だな?」
「はい……」
クーシェの問いに、ベルナデットは消え入るような声で返した。
「……私から言わせて貰えば、お前が勝手に頑張って勝手に落ち込んでいるようにしか見えんな」
腕を組んで少し思考したクーシェが、あえてバカにするような口調で言う。
「っ……」
クーシェの言葉に、ベルナデットは思わずクーシェを睨むが、クーシェは構わず続ける。
「あの男は何かお前に求めたのか?」
「い、いえ……」
「なら気にする理由もあるまい。……破廉恥な男の事だ、大方お前の体を眺めているだけで満足しているのだろう」
そう言って苦笑するクーシェに、ベルナデットも笑う。
「あはは。ヤシロさんは変態ですし、あり得ますね!」
ようやく笑みを見せたベルナデットに安堵したクーシェは、表情を真剣な物へ変えた。
「先ほど伝令があった。オルテーヌの街で、誘拐されていた者たちの所在が掴めたらしい」
「本当ですか!?」
「ああ。私も、この街を立ち、オルテーヌへ向かう。……お前たちに、族長であるイーリェからの言葉を預かっている。……『異種族でありながら我らへの協力、感謝する。君達の進む道に幸あれ』……この言葉、あの男にも伝えて欲しい」
そう言って拳を胸に当てるクーシェ。
「は、はい。……お伝えします!」
クーシェの真似をして胸に拳を当てたベルナデット。
二人が向かい合って少し経つと、クーシェは、ふっ、と小さく笑った。
「人間は嫌いだ。……しかし、お前たちはそこまで、嫌いではなかった」
そう言って踵を返したクーシェ。去り際に、わざと聞こえにくいように言った言葉に思わず笑うベルナデット。
「…………え?」
その笑みが凍り付いた。
ベルナデットは、二人組の男が、少女の口に布を当てながら路地裏へ引きずり込む瞬間を見ていた。
お待たせしました、最新話です。
最近surfaceなるものを買いまして、慣れようとしてたらこれだけ遅れてしまいました。申し訳ありません。




