先代勇者と六代目
「ハハハ。もう勇も気づいているだろうが、ヘレオット家と私の実家であるシュネーヴ家は何代も前からの付き合いがあってね。クオン君とも幼少の頃からの付き合いなんだ。だから三年前、戦いが終わった後、顔を見せにここベ・イオまで来た際に君の英雄譚を詠ったんだ。ある時は魔を退け、またある時は邪な考えを持つ者達を征伐した無双の英雄としてね。いやぁ、思いのほか気に入ってくれてね。会わせてくれ、紹介してくれとうるさくて。……まぁ良いじゃないか、弟子の一人や二人。減るもんでもないだろ?」
ジャンを問い詰めた時の言い訳がこれである。もはや言い訳じゃねぇよ。
「つかなんだよ無双の英雄って」
「流石に『勇者』として詠うわけにはいかないからね。私がシルヴィア陛下に殺されてしまう」
いっそ斬られちまえ。
さて、英雄譚の俺に憧れていたらしいクオン君(少々恥ずかしいが悪い気はしないので呼び方を変える)。そもそもガチバトルはするつもりは無く、ジャンの言ってた事が本当か知りたかっただけらしい。
少し乱した胴着を直しながら彼がそう言っていた。
「つか弟子とか無理だぞ。俺は旅をしてんだぜ?」
「ガラリエへ向かってるのだろう? なら問題は無い。何せクオン君も地区戦の優勝者とて行かなければならないしな!」
ハッハッハッ! と愉快に笑うジャンの足を払い床に叩きつけてからクオン君の方を見る。
「ヤシロの兄貴!」
尊敬の眼差しを俺に向けてくれるのは正直嬉しい、しかし誰がアニキだ誰が。
「あー……悪いが、弟子の件については後回しだ」
「アニキの頼みだ、構わねぇ。オヤジと会いたいんだろ?」
あら漢らしい。弟子にしないと会わせないとか言うと思ってたくらいだ。
「アニキがオヤジと会いたがってる理由はジャンから大体聞いてる。アニキが急ぐのも無理ないからな!」
そう言って先頭に立ち案内してくれるクオン。……ううむ、最初のイメージから随分違うな。
こんな聞き分けがいい奴とは。
「クオン君はよくも悪くも子供っぽい部分があるからな。憧れのヒーローの助けになるとあらば喜んで、と言ったところだろう」
「またどうせ大仰に言ったんだろ?」
「うむ。そのせいで大いに興奮してしまい、是非戦いたいと請われたのだ。すまん」
なら普通に戦わせればいいのに魔装演武に出させる辺り、こいつが捻くれているのが良くわかる。
「仕方無いだろう。私は奏者でありながら演出家なのだから」
当然と言った風に胸を張るジャン。こいつのマイペースっぷりはオリヴィアやギレーのおっさんの姉と並ぶほどだ。
「何が仕方無いだ。……ベルナデット?」
ジャンの台詞にため息を漏らしていると、ふとベルナデットが付いて来てないことに気付いた。
「…………」
俯いたままので立ち止まってるベルナデット。どうかしたのか?
「おーい、ベルナデットさーん」
「……」
「俺を無視とはいい度胸だなこのバカシスター」
「……」
「……今だ! 必殺πタッーチ!」
むにゅっ、
「ひゃぁっ!? な、なな何をするんですかぁ!」
「お、気がついおぶぁ!?」
視界が回転すると同時に頬に痛みが走ると、次の瞬間には、俺は地面に転がっていた。
どうやらビンタを喰らったみたいだ。
「なにすんだこの野郎!」
「いやいや、こちらの台詞ですよね!?」
胸を両手で隠して顔を赤くベルナデット。ふむ、いつも通りの反応だ。どうやら正気に戻ったようだな。
「で? どうしたんだ? 急に暗くなっちまって」
「そ、それは……その…」
俺が立ち上がりながら聞くと、ベルナデットは口ごもった。なんだ? なんか言えない様な事でも考えてたのか?
「まぁ良いや。ほら、行くぞ? やっとヴォーダンさんに会えるんだ」
「……」
俺が促がすも、ベルナデットは俺から視線を逸らすだけだ。
「勇。彼女なりに考えがあるんだ。そっとしておいてあげよう」
視線を逸らされ苛々し始めた俺に、ジャンが小声で言ってくる。……ジャンには何かわかったのか?
「わかった。……具合が悪いんだったら宿に戻ってろよ?」
「……はい」
ベルナデットはコクンと頷き、再び俯いた。
◇
ベルナデットと別れた俺たちは、クオンの案内の案内でヴォーダン氏の書斎に来ていた。
高級そうな黒革のソファに腰掛けていると、書斎の扉が開き、スーツを着た数人の男が入って来た後に、着物の上に長袖の羽織を羽織り、顔に大きな傷痕のある壮年の男性が入って来た。先の尖った狼耳が、彼を狼族と教えてくれる。
この人がヴォーダン氏、か。顔の傷痕も相まって、かなり怖い顔になってる。
「俺がヘレオット組、六代目組長の『ヴォーダン・ヘレオット』だ。君が、閣下からの祝い品を預かって来てくれって言う……」
「は、はいっ! ユウ・ヤシロと言います!」
渋い声とともにギロリとヴォーダン氏の視線が俺に向けられる。ギレーのおっさんを上回る迫力に俺はソファから立ち上がる。
腰のバックから箱に入った鈴を恐る恐る手渡すと、ヴォーダン氏は箱を開け、微笑んだ。
「いやぁ、閣下のお心使い、真にありがたや。……ほらクオン、お前の鈴だよぉ」
俺がビクビクとおびえていると、突如としてヴォーダン氏の声が豹変した。ドスの聞いた低い声から、猫撫で声にクラスチェンジしたのだ。
そしてその表情も厳つさが吹っ飛び、満面の笑みになる。
「す、鈴なんて誰が付けるもんか!」
「いやしかし、お前ももう十六だし……」
「んなもん、恥ずかしくて付けてられっかってんだ!!」
狐耳を逆立たせ顔を真っ赤にして嫌がるクオンと、荒れる息子に耳をへたらせながらおろおろと慌てるヴォーダン氏。
……なんなんだこれは。
「ヴォーダン氏は奥方を早くに亡くなられ、男手一つでクオン君を育てたんだ。そのせいか元々なのか、奥方に良く似たクオン君を大変可愛がってるんだ」
「なるほど、そう言う事か。一瞬何を見てるのか理解できなかった」
唖然としていた俺に、ジャンが小声で教えてくれる。それで漸く、ヴォーダン氏が親バカな人なんだと理解できた。それくらい受けた衝撃が大きかったのだ。
「それより! 今はヤシロの兄貴の話だ」
何故か鈴を頑なに拒否するクオンは話題を変えようと俺の名を出す。
「最近街でも問題になってる誘拐事件を、何の関係も無い筈のヤシロの兄貴が解決してくれようって訳さ! ここで指咥えて見てるようじゃあ、ヘリオット組の名折れだぜ? 親父、兄貴に手を貸そう!!」
軽く興奮して語るクオンだが、ヴォーダン氏はキセルを口に咥え低く唸るだけだ。
数秒の間が開き、クオンが再び口を開き掛けた所で、ヴォーダン氏は俺に視線を向け、ゆっくりと口を開いた。
「ヤシロ、と言ったか? ……悪いが今回の件、組を動かすわけにはいかねぇ。……いかねぇ理由がある」
その鋭い眼光の奥に、俺は僅かだがやましさを見た。
メリークリスマス!どうも最新話です!
ようやくヴォーダン氏と会えた勇に告げられたのは、拒否の言葉。その理由とは!?
ではまた次回!お楽しみに!!
…………クリスマスとかやる意味あんのかよ(ボソッ)




