先代勇者に再戦願い?
十日以上もお待たせして真に申し明けありませんでした。ようやくの最新話でございます。
展開を急ぐあまり少々駆け足気味になってります。申し訳ない。
ところで、二巻の発表がいつの間にか出てましたね。表紙が見れるのが楽しみな今日この頃。
ではまた次回。お楽しみに!
辺りも暗くなり夜となった頃、ベ・イオのギルド兼酒場には溢れ返る程多くの客が集まっていた。
普段なら行商関係の人物が多く利用しているのだが、魔装演武の予選日である今日は参加者や観戦者達がその大半だ。
そんな人たちが集まって話す事と言えば、もちろんつい先ほどまで熱戦が繰り広げられていた魔装演武のことだ。
優勝は、ヘリオット組の若頭クオン・ヘリオット、サザーランド王国救国の雄『中年騎士』ファルハット・エンハンス、各国を放浪する肉体派の神父『拳骨神父』ことウルガンらでは?と思われていたのだが、その内二人を打ち破る少年が現れた。
だがその少年は優勝者を決める場面で棄権してしまったのだ。
大陸最強を決める魔装演武とはいえ、予選でこれほどの大荒れを見せるとは誰も予想してはいなかっただろう。
挙句の果てには優勝したクオン・ヘリオットに八百長疑惑すら上がるほどだ。
優勝目前で棄権した少年の情報は少なく、
・黒髪
・武器を戦場で広って戦う
・ファルハットとウルガンを破った
と言うのが共通認識なのだが、ある者はこうも言った。
「魔人の如き動きで剣を振るった」、と。
またある者は言う。
「返り血を浴びながら嬉々として戦う戦闘狂」、と。
噂話と言うのは往々にして誇張が見られるものだ。噂話をしていてテンションが上がり、そのテンションで語るのだから内容のテンションも上がるのは仕方ないと言えよう。
噂の渦中の少年が同じ酒場でテーブルの突っ伏してるのも知らずに、噂好きな男達の夜は今日も続く。
◇
「……死にたい」
「……右におなじです」
待ち合わせのためギルド兼酒場に集まっていた俺達は、隅っこのテーブルで突っ伏していた。
突っ伏してる理由はと言うと、二人揃って優勝を逃し、ヴォーダン氏と会う機会を逃したのと、テンション上がり過ぎて後先考えずに暴れたことへの自責からだ。
魔人ってなんだよ、返り血なんて浴びてねぇよこんちくしょう。
「うぅっ、申し訳ないです」
そして俺と同じように突っ伏しているベルナデットは、自分が脚を引っ張ったことで落ち込んでいた。
実はベルナデット、重度のカナヅチらしく、溺れかけていた所を俺が助けたのだ。
助けるために海水に飛び込んだもんだから当然俺も失格。だから自分のせいだと落ち込んでいるのだ。
「待たせた。首尾はどうだ?」
そこにカッポカッポとケンタウロスのクーシェが現れる。俺達(当初はベルナデットだけだった)が大会に出ている間に、街で聞き込みをしていたのだ。
「残念ながら敗退。そっちは?」
「……どうやらこの街の中でも誘拐事件が起きているらしい」
負けたと聞いて小さくため息をしたクーシェが椅子を二つ並べて座った。
「この街でも? そいつはまた……」
「だから、ヴォーダン氏と面会が許されれば今回の件、確実に協力を得られるだろうと期待してたのだが……」
「面目無い」
「面目ないです」
俺とベルナデットが同時に謝ると、またクーシェは小さくため息をついた。
「うぎぎ……仕方無い、最後の手段、正面突破しか……」
俺が越えてはならない一線を越えようか迷っていると、周囲がざわめいているのが聞こえた。
「おい、あの二人……」
「ファルハット・エンハンスに、ウルガンじゃねぇか! なんでこんなところに……」
何か起こるのではないかと危惧した客達が席を動かし、酒場にでモーゼの如く人垣が割れ、そこから二人の男が俺の目の前に現れた。
「やぁ、また会ったね、ヤシロ君」
「何やら困っているようだな。我らで良ければ相談に乗るぞ?」
「ファルハット、……さんに、神父のおっさん!?」
身体のあちこちに包帯を巻いた二人の男は、俺が戦った相手の二人だった。
◇
「成る程、誘拐か……許せないね。……その件、私も協力させてくれないかい?」
「右に同じく。このウルガンで良ければ手を貸そう」
誘拐事件の事をあらかた話すと、椅子に腰掛けた二人は即断とも思える速度で協力を申し出てくれた。
「協力してくれるのはありがたいっすけど、……二人とも、そんな簡単に請け負って大丈夫なんですか?」
俺が問うとファルハットとウルガンは頷いた。
「元々、私はこの街の新しい神父となるために派遣されてきた。前の神父は齢70過ぎのご老体でな。まだ若輩な我が身だが、死力を尽くして街の平和に貢献するつもりだ」
熱いスローガンを言い終えたウルガンはテーブルに置かれたコップに注がれていた冷や水を一口で飲み干した。それ俺のだ。
「歳を取っても私は騎士。騎士道を歩む者が、外道を見て背を向ける事はありませんよ」
微笑みながらも、誘拐と言う行為に怒りを覚えたのだろう。ファルハットは右手をテーブルの下に隠そうとして、隠す一瞬、拳が強く握られているのに俺は気づいた。
「助かります」
「それで、私達は何をすればよいのかな?」
「あー、……実はそこで行き詰ってまして。二人はヴォーダン氏に通ずるコネってありますか?」
「ヴォーダン氏の、か。生憎、生涯を剣を振って生きてきたせいかそう言うものは全くと言って良いほど無くてね。……いや、姫様を頼れば……イカンイカン。あの方が入ると話が拗れるからなぁ……」
ファルハットは思い当たる人物が居るのか、まるで究極の二択を迫られたよう顔でぶつぶつと独り言を始めた。
「私も、個人的な伝手は無いが、新しくこの街の教会に任された者だ、と一度挨拶をしようと思っていたのだ」
「おお! ならその挨拶の時に俺達もついていけば……」
ウルガンの言葉に喜んだ俺だったが、ウルガンが難しそうな顔をするのを見て、ウルガンが何を言いたいか、何となく気が付いた。
「そちらも、断られたって事ですか?」
「そうだ」
同じく気づいたベルナデットが聞くと、ウルガンはコクン、と頷いた。
「恐らくヴォーダン氏の身に何か起こったのだろう。あの肌を刺すようなピリピリとした空気は、高い警戒心から来ているように思える」
なるほど、多忙などとは言ってはいたが、恐らく怪我や何かしたのだろう。それも、何者かによって。
組と組との抗争とかは良くわからんが、今は他の組からの刺客を警戒してるんだろう。
「ああ。勇達が探している誘拐犯の上位組織により暗殺を受けたのだよ。幸運にも暗殺は失敗。ヴォーダン氏も軽傷で済んだが、そのせいで構成員の方々が殺気立ってしまったのだ」
あー、やっぱりか。しかしそうとなると今ヴォーダン氏と会うのは容易じゃないぞ。
「それはそうと、ヴォーダン氏のご子息、クオン・ヘレオットが勇との再戦を希望しているようだ」
「え? ヴォーダンさんのって……あの狐耳か?」
「ああ。どうやら勇と戦えなかったことが不満らしいのだ。渡りに船、とはこの事だとは思わないか?勝負さえすれば、ヴォーダン氏に会わせてくれるかもしれない」
「なるほど……」
色々と忘れたい事が多くてテンションだだ下がり中だったが、そんな事でヴォーダン氏と会えるのならやって損はない。……って言うか。
「ジャン! 前振りも無くいきなり会話に参加してんじゃねぇよ!」
読者がわかり辛いだろうが!
ダンッ、とテーブルを叩き、しれっと椅子に腰掛けていたジャンを睨む。
「おや、これは失敬。私の名はジャン・ジャック・ユースタス。以後お見知りおきを」
だがジャンは気に留めた様子も無くボロロンとギターを弾きながら名乗る。……相変わらずのマイペースっぷりだなおい。
「そ、それなら私が戦います! 今度は無様な姿は見せません!」
ガタッ、と音を立てて立ち上がったベルナデット。
狐耳に負けてしまい、この状況を作ったと自責の念に駆られているのだろう。まあベルナデットの気持ちは分かなくもないが……。
「いや、駄目だ」
「っ、次は絶対に負けません!」
「あー、いや、違うんだ。何もベルナデットが信じられないとか、そんな事じゃあないんだ。……ただ、そこまで俺に執着する理由が気になるんだ」
そう、あの狐耳は俺と戦いたがっているのだ。どんな理由かは知らないが、それこそ再戦を希望するくらいには。
「……わかり、ました」
見るからに落ち込んだベルナデットは、椅子に座って俯いてしまった。
「決まり、のようなな。では、日程は明日の正午。ヘレオット邸にて、また会おう!」
言うや否や、ジャンはマントをバサッと翻しながら立ち上がり、いつの間にか飲み干していた俺のミルクの代金をテーブルに置いて立ち去ってしまった。
いきなり現れたと思ったらいきなり消えるって嵐のような奴だな。……って、
「代金足んねーよ!」
水一杯分程度の金額しか置いてないぞおい!
俺は既に姿が見えなくなったジャンに向かって叫ぶのであった。




