先代勇者と闘技場 四
「ほぅ。……一目見ただけでわかります。我が魔剣に並ぶ程の業物!」
「主な材料は雌雄のバジリスクの体鉱とハーレムの長の魔眼。人相手に使った事が無いからまだわからないけど、刀身に使われた体鉱に麻痺毒が仕込まれてる。死にはしないが、物凄く痺れるらしいぜ?」
勇は腕が折れた右手で蒼玉の宝剣を持ち、左手で碧玉の宝剣を掴む。
右手で剣の握り心地を確かめるように強く握ったり弛めたりを繰り返す。
(……良し。何とか動かせれるレベルにまでは右腕は回復したか)
勇が右腕の調子を確認していると、ファルハットは驚いたように勇を見る。
無理も無い。実際、勇の腕の骨は折れると言うよりも砕けたって表現の方が正しいくらいな折れ方をした。
それが少し経ったら普通に動いてるんだ。驚くなと言う方が酷だ。
「驚いた。……それが、その魔剣の能力かい?」
「さてね。企業秘密って奴さ」
もちろん聖剣の力、その副作用です。とは口が裂けても言えない。
しかし完治にはほど遠いらしくギシギシと骨が軋む感覚があり相応の痛みも走る。次に強い衝撃を受けるとまた折れてしまいそうだ。
「さぁ、第二ラウンドだ、騎士のおっさん!!」
だがそんな事は関係無い。動くのならば問題は無い。その時起こる激痛は気合でやわらげる!
「はは。では改めて……参る!!」
剣を地面から抜き、再び構えたファルハットが地面を蹴る。
「ッ!!」
それに対し勇は、同じく地面を蹴って騎士に肉迫する。
互いに駆け、勇と騎士の両者の距離が一瞬で縮まる。
「はぁっ!!」
騎士の魔剣が横薙に振り抜かれる。
それを勇は姿勢を引くし、最早倒れ込む直前のような角度の前傾姿勢で避け、避けた瞬間には身体を捻り、回転しながら双剣の一撃を騎士の懐へ打ち込んだ。……が、
「っ、すげぇっ……! 今の引き《・・》は、驚いた!」
交錯した瞬間の攻防。勇の双剣の一撃を、騎士は恐ろしい程の速度で、振り抜いた剣を引き戻して防いだのだ。
「いや、ははは。一太刀浴びせるつもりが一撃入れられ防御の姿勢を取らされるとは……!」
勇が踏み込んで来るのを予想し、引き戻し易い振り方をしてたって事なのだろうか。
俺の攻撃が一瞬でも遅れてたら……、
「くそっ、ゾクゾクするじゃねぇか!!」
アグニエラ達と死闘を演じた三年前にも感じた高揚感に心臓が高鳴る。
騎士の背後を取った勇は、双剣を逆手に持ち、両手の親指、人差し指、中指を伸ばし、双剣を持ったままの四脚立ちの姿勢になった。
「むっ!?」
勇が両手両脚全部を使い右に跳ぶと、一瞬前に居た位置に魔剣が振り下ろされ、岩でできた闘技場が砕かれた。
そして勇は魔剣を振り下ろした騎士に向かい反転、縮地で瞬時に距離を詰める。
「ぜらあああぁっ!!」
「ははっ、やらせはしませんよ!」
双剣による高速の連撃を、騎士は剣を小刻みに動かし、太刀筋を流すように打ち返して来た。
一撃一撃を流され、俺の攻撃は大振りに、騎士の動きはどんどんと鋭くなって行く。
最小の動きで敵の手数を減らし、最大の手数を稼ぐその技量の高さに、勇は押されつつありながら思わずへへっ、と笑っていた。
逆手に持っていた宝剣を持ち直し、連撃の速度を上げる。
勇の攻撃は線の軌道の斬撃から点を狙う刺突へと変わって行く。
「っ、熾烈!」
「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッッ!!」
目にも留まらぬ速さで放たれる突きの猛襲と、それを受け流し続ける騎士の防御の構え。
矛と盾の諺を再現するようなその攻防は、一呼吸もせず、一瞬で瓦解した。
勇が打ち込んだ場所が悪かったか、腕の激痛に集中力が途切れたのか、右手で繰り出した突きは隙を待ち続けたファルハットに弾かれた。
ファルハットが、攻撃に転じる!
轟ッ!
大地を砕く剛剣が風を切って薙払われる。
それを防ぐように勇は左手で持った逆手の碧玉の宝剣で防いだ。
先ほど以上の強い衝撃が勇の腕に走る。
その衝撃だけで腕が折れるような錯覚を覚えたが、勇は構わずに次手に移る。
右手に掴む蒼玉の宝剣。それを碧玉の宝剣と連結させ、次いでハンドルを右に切るように勢いよく回転させたのだ。
「なっ……!?」
騎士ファルハットの魔剣はクルクルと宙を回転し、カツンッ! と、甲高い音を立てて闘技場に突き刺さった。
彼の、遙か後方で。
「……降参だ」
驚愕し、どこか嬉しそうにファルハットは首筋に当てられた真紅の刀身の両剣を見てそう呟いた。
◇
いや~、参ったのはこっちの方だぜ。まさかレオと並ぶ程の技量を持ってるとは。
切りかかってたら間違いなく防がれてたろう。……だから,
あの騎士のおっさんの動きを『思考』で一瞬止めるくらいインパクト有る動作が必要だった。剣と剣が合体するとは思ってなかった騎士のおっさんはまんまと驚き、一瞬だけ動きを止めた。
まぁ一種の賭けだったんだけどね。騎士のおっさんが吊られずにいたらそのままもう一撃やられたか守りの体勢になっていたかも知れない。
でもまぁ、賭けにでも走らなけりゃもっと長引いてただろう。見本の様に洗練された技術は対処が楽なように見えてその実殆ど弱点が無いのだ。
真っ向からやり合ってたら多分日が暮れてたことだろう。
「……さて、敗者は潔く去るとしましょう。けれどその前に、君の名を聞いても良いかな?」
魔剣を鞘に収めた騎士のおっさんは人の良い笑みで手を差し伸べて来た。
そう言えば騎士のおっさんは名乗ってたっけ。
「ユウ・ヤシロ。えーと、……ファルハット、なんだっけ?」
「エンハンス。ファルハット・エンハンスですよ、ヤシロ君」
俺が手を差し出し返すとファルハットは篭手に包まれた手で俺の手を握った。
「ははは、久しぶりに気分が良い。ではまたどこかで君と再戦できる事を願うよ」
騎士のおっさん、ファルハットはそう言って笑いながら場外の海水の飛び込んで行った。……鎧を着込んだまま。
「って、溺れるぞ!?」
重装備で溺れかけた経験があった俺は助けだそうとするも、直ぐにやめた。
鎧を纏ったまま、ファルハットはスイスイと選手控えまで泳いで行ったのだ。
「……全く、世界は広いね」
騎士のおっさんは、魔法は使わなかったからわからないが剣技なら人類最高峰の戦士のレオとも渡り合える物を持ってた。
まだ俺はこの世界の全部を知らない。今回の戦いで俺はそう思い知らされてた。
「さて、そろそろ終わったかな? ……ん?」
ベルナデット達の方へ視線を向けようとすると、目の前を黒い物体が通り過ぎていった。
気になりチラと見ると、場外で水柱が上がった。
「そっちも終わってたみたいだね」
声が掛けられた方に振り返ると、道着みたいな服を着た、俺と同い歳くらいの狐耳の金髪少年が不敵な笑みを見せていた。
お待たせしました、最新話です。
ファルハット卿の剣が飛んだのは、小学生の頃高速回転する扇風機に鉛筆を差込み、鉛筆を飛ばされた実体験から、いつか書きたいと思ってた描写だったりします。ちなみに鉛筆は砕け散りました。
シリアスは今話で終わりです(笑)次回をお楽しみに!




