先代勇者と闘技場 参
前話から登場した拳骨僧侶ウルガン。諸事情により僧侶から神父に変更しました。
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
「ぬううううぅぅっっ!!」
拳と拳がぶつかり合い、パァンッ、と炸裂音が響く。そしてその次の瞬間にはまた炸裂音が響く。
拳と拳が、連続で追突し合う。常人であるならば骨が砕けて拳など振るえない状態になっている事だろう。しかし、闘技場の上でぶつかり合う俺達は拳をぶつけ合い続ける。
叫びとも咆哮とも取れぬ声を上げ、二人の男は激突し合う。
そして一際大きな音が鳴ると、どちらからともなく大きく距離を開けた。
そして神父ウルガンが得心がいったとばかりに頷いた。
「なるほど……」
「? 何がなるほどなんだ?」
俺がそう問うと、目の前の神父はわざとらしくため息をついた。
「拳の撃ち合いも良いが……そろそろ得物を使ったらどうだ?」
「あ、やっぱわかる?」
「わかるさ。今まさに拳で語り合ったのだから」
「本気を出してないわけじゃあなかったが……、わかった。全力で応えるよ」
魔装演武に参加した選手の物だろう。近くに突き刺さっていた刃渡り90㎝ほどの長剣を抜き取る。
「ふむ、やはり剣か」
「まね。やっぱスタンダードが一番でしょ」
身体の上半身を捻り相手から見て背を前に、剣を後ろに隠すように構える。
「構えが既に基本ではないが?」
「へへっ。我流でね」
「まあ良い。前進し、制圧するのみだ」
神父の口から出たとは思えない言葉だなぁおい。
俺は柄を握る力を強めて苦笑する。
「受けてみよ、我が一撃!」
「応えてやるよ、その一撃!!」
言葉の応酬の次の瞬間には、岩すら砕く剛拳が眼前に迫っていた。
轟ッ!!
顔の直ぐ目の前を剛拳が唸りと共に通り過ぎて行く。
「何っ!?」
「取った!!」
伸ばしきった腕、奴の拳は俺を掠めただけで終わった。
左足で奴の右肩を押さえて拳が届くまでの刹那のような一瞬を稼ぎ、そしてその刹那の間に片足だけで上体を逸らし奴の一撃を回避したのだ。
伸び切った奴の腕を切り落とそうと悪い体勢の中剣を振り上げる。
が、
「ぐっ、うぅっ!?」
咄嗟に剣では無く盾を動かし、横腹に叩きつけられた奴の左の拳を防ぐ。
いや、防ごうとした。
「っ、がッ!?」
盾は砕かれ、俺の右腕の骨をバキバキと砕きながら、奴の強烈なボディブロウが俺に叩きつけられる。
激痛に一瞬意識が飛び、そしてその一瞬で俺は場外にまで叩き出された。
(しまっ……!)
しまった、と思考するよりも速く、場外の壁、観客席を蹴ってウルガロに向かい飛び掛かる。
「撃ち落としてくれる!!」
腰を大きく捻り、繰り出された破壊神父の一撃。
もはや振り抜いた時に生じる風圧だけで吹き飛ばされてしまいそうな程の一撃。
「なんとおおおぉぉっ!!」
その拳に乗り、腕の上を駆け、俺は奴、ウルガロの頭にボールを蹴り飛ばすような鋭い蹴りを叩きつける。
「……!」
一撃で落ちたのか、二メートルを超す巨体が音を立てて倒れる。
「たく、世界は広いね、全く」
徒手空拳での攻撃力でなら間違いなくこの神父は人類の中でも最強クラスだろう。
まだこんな奴が居たなんて事には驚いたぜ。
「さて、ベルナデットは終わったかな? ……」
一息付き、ベルナデットの方に意識を向けようとした時に、周囲の異常さにようやく気づいた。
今この闘技場の上で戦ってる組み合わせは一組。
ベルナデットと狐野郎だ。
そして、残った人数は俺含めて4人。
「驚いたな……あの数の連中、おっさん一人で倒したの?」
リングの上、激闘を続けるベルナデットと狐少年達から離れた場所で、まるで俺を待っていたように突き立てた剣の柄頭に手を置き、待機していた男が居た。
使い古された騎士甲冑、壮年期を過ぎて少し老いた、ともすれば中年と呼ばれるような風貌のその男は、微笑みと共に、鷹のようなその瞳で俺を射抜く。
「いや、ははは。半数は君達の戦いの余波だよ」
横槍も入れず、俺と神父との戦いが終わるのを待っていた中年の騎士。
その老いを感じさせる容姿と、それに反比例しているかのように俺の肌をピリピリと刺すような闘志を隠そうとしないその気質。
間違いない。こいつも、俺達と同じ戦闘馬鹿だ。
戦うのが好きで、自分より強い奴に会いに行きそうな、そんな戦達者な男だ。
「つまり、もう半分はやったって事だろ?」
今の俺はいつもならやらないような、挑発的な笑みを浮かべていることだろう。
だけど、抑えられない。強敵との連戦! この興奮、男なら、抑えられるはずがない!!
「本戦に行くつもりも無く腕試し程度の気概で参加したのですが、……そんな時に君達の戦いを目の前で見せられていたのだ。八つ当たりもしたくなる」
八つ当たりで参加者の約半分を場外送りか。
俺が言うのも何だけど、この人も中々ぶっとんでんな。
「片腕しか使えず不自由でしょう。……ですが、このファルハット・エンハンス。卑怯者と罵られようと、貴公を倒させて貰う!」
「望む所ッ!!」
長剣を両手で持ち、騎士の構えを取ったファルハットが吼え、俺もそれに応えるように叫ぶ。
「推して参る!!」
ダッ! と地面を蹴った騎士が、白銀の剣を振りかざす。
「こいつ……魔剣!?」
振り下ろされる白銀の剣。その剣の異質さに、俺はそれが魔剣だと瞬時に理解した。
――ギィンッ!!
振り下ろされた魔剣を左手で掴んだ剣で打ち合うように防ぐ。
甲高い音と共に衝撃が腕に伝わり、同時に魔剣の能力を理解した。
「っ、重量軽減、いや、それだけじゃない……この感覚は衝撃増加!!」
「はは、見切られましたか」
華やかな装飾の無い無骨な剣。その剣に秘められた力は所持者への重量負荷を軽減する能力。そして相手に与える衝撃を増加させる衝撃増加。
二つの能力が互いに作用し、凄まじい衝撃を俺に伝えた。
もっともこの程度の衝撃ならまだテラキオに喰らった時の方が上だ。……しかし、俺は耐えられても、質の低い剣は悲鳴を上げるかのようにピシリ、と音を立てて崩れていった。
「魔剣『シェラザード』。かつて高名な鍛冶師が想い人の為にと打った魔剣。……我が家の宝剣でもあります」
刀身が砕け、使い物にならなくなった剣を捨てた俺に、騎士は追撃せず無骨な魔剣を地面に突き立てた。
そして最初に待っていたように、騎士は柄頭に手を置いて俺を見る。
「君も持っているのでしょう。この剣に勝るとも劣らない剣を。……いや、君ほどの達人が、剣の使い手が、持っていないわけがない」
もはや断定だ。しかし、その言葉には確信が見て取れる。
彼の騎士は俺が魔剣を持っていることに気づいてる、確実に!!
「良い勝負を、したい」
そしてその一言に、心の中にあった、「身バレ」を恐れる小さな不安も、吹き飛んだ。
「宝剣『クリスタル・ヴェノム』。……俺の魔剣だ」
蒼玉と碧玉の双剣を地面に突き立てて、俺は騎士ファルハットと対峙する。
戦闘って書いてて楽しいですよね(笑) お待たせしました、最新話です(投稿三分前)
不遇な二つ名中年騎士ファルハット・エンハンス。これ実は頭の中で没にした、形にならなかった作品のタイトルなんですよね。
小国の英雄(中年)が大国のお姫様(美少女)に婚約を申し込まれ、その過激なアプローチに辟易する毎日。って感じです。ファルハットもその主人公だったりします。
だからなんだ、とは言われるでしょうがなんとなく発表。
ではまた次回。




