先代勇者と闘技場
魔装演武の闘技場は変わった作りをしていた。
海水を引いて来たのかわからないが、大量の水が観客席とステージの間で波うっている。
ステージを水で囲んだような姿だ。
これは恐らく本戦のガラリエを想定した闘技場なのだ。
水の都の名に相応しいこの闘技場はきっとガラリエにも存在するのだろう。
「「「わあああああぁぁぁっっ!!」」」
白地に36と数字が書かれたゼッケンを胸の前と背中に付けた俺は周囲の参加者達からの視線や観客席からの歓声に包まれていた。
リズワディア程の席数ではないが立ち見席まで満員となっている。
予選からこの盛り上がり様、魔装演武がどれだけ人気かがよくわかる。
さて、このゼッケン番号からわかる通り、参加者は30人を越える大人数が集まっている。と言うより俺が最後らしいから36人だな。
誰も彼もみな武芸者や腕の立ちそうな野郎達ばかりだ。
「この連中じゃ俺の勝ちだな」
自分の勝利を信じて疑わない奴や、
「シュッ、シュッ!」
イメージトレーニングを怠らない奴。
「この日のためにノルドヨルド迷宮で特訓したんだ。俺なら、やれる!」
己を鼓舞し、勝利を目指す奴。
「ククク……今宵の剣は血に餓えておるわ……クヒッ、クヒヒヒヒヒッ!!」
邪道に走り剣に乗っ取られた奴。
「オレ、オマエラ、マルカジリ」
既に人間やめてる奴。
様々な戦士が集っていた。
……と言うか最後の二人は良くエントリーできたな!
認めた方も危険だぞおい。
その中でも目立つのは観客席をキョロキョロと見ているのか落ち着きのない修道服の女、ベルナデットだ。
「何やってんの?」
「え、ええ!? なぜヤシロさんがこちらに来ているのですか!?」
声を掛けると、オーバーリアクションとも取れるくらいの大きな動きでベルナデットが驚く。
ベルナデットの言うこちら、と言うのは恐らくステージ上にと言う事だろう。
「まあ、ちょっとあってな」
「?」
ふと視線を逸らすと、普通の人間や狼人族達に囲まれてないながらやけに存在感を持つ、あの金髪狐野郎。
「? あの少年が何か?」
「ヴォーダン氏の息子さんだそうだ」
「え? 狐族ですよね? 狐の尻尾とか見えますし」
「養子かなんかだろう」
俺達の視線に気づいたのか、狐野郎は俺達を見て、ニヤリと笑った。
「カッチーン! なんですかあの見下したような目は! ヤシロさん、私決めました。あの人は私が倒します!」
ジャカッ、と魔銃を取り出したベルナデット。しかし、取り出した魔銃は見覚えの無い銃だった。
「散弾仕様の『ミストルティン』です!」
あ、確かにベルナデットが持ってた魔銃っぽい。けど銃身の長さが伸びて、さらには銃身にスライドするであろうハンドグリップが付いていた。
「ふふふ……これで一網打尽です!」
ブンブンと音を鳴らしながら銃を指で回すベルナデット。若干目が怖いぞ。
「レディース&ジェントルマン!! お待たせ致しました。これより、ガラリエ魔装演武予選大会の幕開けとなります!
総勢三十六名の戦士達が、本戦への出場のため命を賭して戦う姿をご覧ください!!」
「「「うおおおおおぉぉっっ!!」」」
マイク片手に実況席のアナウンサーが叫ぶと、観客達はマイクを通して出た声以上の大歓声で答えた。
「熱狂、だな」
「当然ですよヤシロさん。ガラリエで行われる魔装演武本戦出場を賭けた戦いなのですから!」
「それにしたら参加者が少なくないか?」
そう、そんなお祭り状態の筈なのに、この予選の参加者は随分と少ないのだ。
「ああ、それですか。力試し程度の覚悟では大けがを負ってしまうんです。と言うか死んじゃいますし」
「は? 死ぬ? ……あぁ、そりゃどんなに頑張っても不慮の事故ってのはあるしね」
「いえ、殺されちゃうんです」
「……は?」
ベルナデットの言葉に死、とか殺す、とかそんな不穏な言葉が漂い始めた辺りから、また久しぶりに俺の勘が、「危険です! 即刻退避してください!」と訴える。
……い、嫌な予感がする。
そして俺の予感はまたしても的中することになる。
「では今魔装演武のルール説明と行きましょう! ルールは簡単! 敵を戦闘不能にするかリングの上から場外、海水へ落としまくり、最後まで残っていた者が勝者だあぁっ!!」
無駄にテンションの高いアナウンサーの言葉に、「うおぉぉ!」とまた歓声が上がる。
「か、簡単過ぎて大事な部分とか抜けてない? 殺しちゃだめとか刃を潰した武器じゃないとだめとか」
「いえ。これが今大会の最低限の、そして唯一のルールです。それ以外はどうなろうと知ったこっちゃないのが魔装演武の醍醐味でもあるんですよ?」
あれ?魔装演武ってルール無用のガチバトルで混沌としてたから各国が頑張ってルールを敷いたんじゃないの?
つかバトルロワイヤルかよ。完全に過去の過ちの繰り返しじゃあないの!?
「何人かこのルールを疑問視する人たちも居たそうですが、やっぱり観客が求めるのはスリリングかつインパクトのある試合ですからね。少々野蛮ではありますが」
野蛮とか言ってるけど君、銃を回し続けてるよね。結構やる気満々だよね?
眼光とか鋭いもん。
「では早速ぅっ、試合開始だぁぁぁっっ!!」
しかしまいったな。こんな事なら狐野郎の挑発に乗るんじゃなかったよ。
俺がそうニヒルな感じでため息を漏らすのと、試合開始の鐘の音と、ショットガンの銃口を俺に向けたベルナデットが引き金を引いたのは、ほぼ同時の事だった。
……守れない約束はするな。どうもタピオカです。
二日にいっぺんどころの話じゃないですね(笑)
ではまた次回。お楽しみに




