先代勇者は門前払い?
港町ベ・イオ。
ルクセリアやリズワディアと同じく、クラリア地方に属する港町で、漁業と運業で栄えた街だ。
海運業で世界中と交易をしていたせいか街の建物の造形も多種多様で、洋風のレンガの建物や和風の木造住宅がごった煮で立ち並ぶ姿は、どこか地球の日本を思わせる。
異世界の中では異端だとは思うがね。
「にしても……猫耳や狐耳のお姉さんが見当たらない」
ベ・イオに到着してからだが、猫耳や狐耳の女性に出会わない。いや、野郎にも出会わない。
そしてその代わりと言ってはなんだが、犬耳が目立つ。
たれ耳の犬娘とか、狼みたいなツン、と立った犬耳の女性とか。
「明らかに犬耳系の人っちじゃねぇか」
いや、犬耳も好きよ? 好きだけど……猫耳と狐耳期待してた俺としては少々肩すかしといった感じだ。
「と言いながらも視線は道行く女性から離れない。流石ですねヤシロさん」
「まぁね」
何が流石はあえて聞かない聞きたくない。
さて、険悪ムードに耐えながらヴォーダン氏の宅へ向かう俺達三人は、街ゆく人たちに聞き込みをしながら進んでいた。
ヴォーダン氏宅だけでなく、誘拐されたケンタウロス達の事もそれとなく聞いた。
その結果、ヴォーダン氏宅の場所はわかった。
しかし、
「目撃情報が無いとなると、やっぱ荷馬車かなんかで大量に運んだのは確かか……」
結構広範囲を歩いて聞き込みをしたがケンタウロスの目撃情報は全くと言って良いほどなかった。
「最悪、もう『競りが終わった』可能性も考えなければいけませんね」
「……くっ」
ベルナデットがそう呟くと、クーシェは悔しそうに拳を握りしめる。
「……ま、諦めるにはまだ早い。ヴォーダンさん家に行って聞いてみよう。一般人らよりかは街の事を把握してるだろうしな」
俺の言葉にベルナデットは頷き、クーシェも、俺をにらみながらも渋々頷いた。
人間嫌いが徹底してんなぁ。……お、俺が嫌いってわけじゃないよね!?
◇
絶対親分だろヴォーダン氏。
ヴォーダン氏宅に到着した時の、俺の心の第一声だ。
一言で言えば「豪邸」なのだが、異様なのは鉄柵のすぐ向こう側に物々しい建物が建っていて、その奥に大きな洋館が建っているのだ。
手前の建物は恐らく「事務所」のようなものだろう。黒のスーツを着た男や、着物をだらしなく着た風貌の恐ろしい男達が周辺をたむろしている。
そして、
「……すごい見られてますね」
「ああ」
思いっきり警戒されているらしく、先ほどから『事務員』の人達の視線がもろに俺達へ向けられていた。
それも探るような視線ではない。
「命取ったろうか!?」
とでも言いそうなくらいの敵愾心バリバリの視線だ。
鋭さならクーシェが勝るがねちっこさは事務員の方々の方が遙かに上だ。
「ヴォーダン氏にお伺いを立てただけで殺られる、なんて事はないですよね?」
「さ、流石にねぇだろ」
たずねに来たら首置いていけとかそんな物騒な話にはならんだろう。……たぶん。
「……お、男は度胸! 当たって砕けてくるぜ!」
「おおぉ! ヤシロさんがとても男らしい事を! ……なんですか?この私に突き出された掌は。なんかワキワキと動かしていますがこれは一体どんなジェスチャーで?」
「俺に一歩を踏み出す勇気を。具体的に言うと揉ませてくれれば頑張る」
「頬に平手か頭に銃弾か、どちらかを選んでください」
いや、二者択一の癖に片方のリスクが高すぎるよそれ。迷わず平手に行くよ。
まぁ痛いのは嫌なので仕方なく伸ばした手を下ろした。
にしても「俺に一歩を踏み出す勇気を」。自分の言葉だがなかなかいいんでない? 名言語録とかでピックアップされそうな感じが特に。
「んじゃ行ってくる」
「これが私とヤシロさんの、最後に交わした言葉でした……」
「俺が死ぬようなナレーションを入れんな!」
ベルナデットの胸を叩いた俺は、養豚場の豚を見るかのような視線を俺に向けるクーシェと、叩かれて涙目になったベルナデットに怒鳴られながらヴォーダン氏宅に向かって歩くのだった。
◇
結論から言えば、ヴォーダン氏と会う事はなかった。まるで関所のようにそびえ立つ事務所で門前払いを受けたからだ。
受付のおじさん(右目に眼帯をつけた厳つい顔の狼人族)曰く、ヴォーダン氏は多忙で、更に素性の知れない奴と会わせるわけにはいけないらしい。
リズワディアの学院長から貰った鈴を見せながら、鈴を届けに来たと言っても信じて貰えず、結局は他の部屋から現れたおじさん達に強制的に追い出されたのだ。
……殺気やなんやにはなれてはいるが、やっぱ怖いもんは怖いね。正直チビルかと思った。
「しかし、これで振り出しですね。状況的に振り出しよりも困ったことになりましたが……」
街のギルド兼酒場で現状の再確認と休憩を図った俺達。その酒場でジョッキに並々と注がれたミルクを片手にベルナデットがため息交じりに言う。
何せ糸口が見つからないからな。ヴォーダン氏に協力を求めるとか云々がおじゃんになったわけだ。
「やはり人間などに頼っていた私が間違いだったな」
椅子二つを立てに並べ、下半身の馬の腹を椅子に乗せて座ると言う、ケンタウロスの着席シーンと言う微妙にレアな姿を見せながらクーシェが俺を見る。
「人の善意をそのように切り捨てるなんて正気とは言えませんね。まぁヤシロさんは色欲も混じってますが」
ベルナデットがクーシェの言葉に噛み付く。……またしてもフォロー嬉しいんだが、やっぱり君疑ったまんまだね? くそう、なんでこんな変態扱いなんだ、俺は!
「……ふん」
流石に少し悪いと思ったのか、クーシェはそっぽを向いて、
「……すまない」
とボソッと呟いた。
……やべぇ、思わずニヤニヤしちまった。いやぁ、こういう反応されると弄りたくなる辺り、俺ってSっ気があるのかも。
「どうされました? 気色悪いですよ?」
「君はもう少しやわらかく言えないのかい!?」
不思議な物を見るような目で見られながら暴言を言われるとか斬新だよ! 少しゾクゾクしたのは内緒だ。
「にしても手詰まりだ。一度でもヴォーダンさんに会えればなんとかなると思うんだけどなぁ」
直接学院長の鈴を渡せれば、後はなんとかなりそうなんだが……門前払いされるとは驚いたぜ。
「正面突破しか無いのでしょうか」
首を捻りながら悩むベルナデット。こらこら、物騒な考えはお兄さん反対だよ。
……いや、もはやこれしか手は無いのか?
と俺達が悩んでいると突然、
ボロン。ボロロン。
と、変わった音を聞いた。
「話は聞かせてもらった。よろしければ、私にその案を出させてもらえないかい?」
「お?」
背後から声がしたので振り返って見れば、極彩色の羽の飾りをつけたつばの広い黒の帽子に、その帽子と同じ色の黒の高級そうなマントを羽織った長身の男が立っていた。
先ほどの音はその男が抱えるアコギから出た音だろう。
そしてその男の姿を見たとき、俺は思わず立ち上がった。
「ジャン!?」
「久しぶりだ我が友、ヤシロ。この地で再会できて嬉しいよ」
その長身の男、ジャン・ジャック・ユースタスはつばの広い帽子を指で上に弾き、その甘いマスクと青の瞳を見せるのだった。
新キャラの登場とともに、ストーリーは大きく進んでいきます。
どうも、新話です!
先代勇者を担当してくれてる編集の人に更新速度が遅い理由を告げたら怒られたのでこれから三日に一話ペースで投稿して行こうと思います。ゲーム禁止ですうふふふ。
あと一週間でいよいよ「先代勇者は隠居したい」が発売となります。みなさんお財布の紐を取っ払っておいてくださいね!?(笑)
詳しい話と告知は後ほど活動報告に書きますのでそちらで(笑)
ではまた次回。お楽しみに!




