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エルフ少女は観察する


「んっ………」



陽の光を浴び、私は目を覚ました。


目覚めは良い方であると自負している私は、寝起きの微睡みに囚われる事もなく、身体を起き上がらせる。


「っ…?…………!」


起きる時に、ふと身体のあちこちに痛みが走る。

何故?と思うと、その理由を思い出した。


私は旅の途中、醜いオークどもに囲まれ袋叩きにされて奴等の巣へ連れ込まれたのだ。


そしてオークどもに犯されようとした瞬間に、私を光が覆い尽くした。

そう、この天より降り注ぐ陽光のような、暖かい光が……。


あれは一体なんだったのか?と思案していると、部屋のドアが開かれた。


「あら?目が覚めたのね?」


木のドアを開いて現れたのは、茶色の髪をした女性。


「痛む所はある?」


女性はベットに座る私の直ぐ近くに置いてあった椅子に座りながら聞いて来た。


「……少し。けれど、動く分には、問題、ない、でし」


拙いイシューレル語だ。自分でもわかる。


しかしつい数年前までエルフの里に居た身としては随分成長したものだと思う。


「ふふ、それはよかったわ」


花を思わせる笑みを見せる彼女。


「あなた、お名前、なんでしか?」


この女性が助けてくれたのだろう。私は彼女の名を聞きたくなった。


「私の名前はシェリー。貴女のお名前は?」


「わたし、リリルリー。古い言葉、で、癒す、人、と言う意味でし」


「そう。良い名前ね。素敵だわ」


心底思ったのだろう。彼女は同性の私ですら見惚れる笑みで答えてくれた。


私は確信した。この女性が私を助けてくれたのだと。


「シェリー、さん。あなたが、たし、助けてくれたのでしか?」


だからお礼を言おうとしたのだが、彼女は私の言葉を首を横に振ることで否定した。


「いいえ。貴女を助けてくれたのはギルドの方でユーヤ・シロウと言う男性よ?」





「この、人が?」


「ええ。……ふふ、良く寝ているでしょう?」


私を助けてくれた男性に礼をしたいと言うと、彼女は同じ家の、違う部屋へ私を連れていってくれた。


そこに居たのは、



「うへへへ~、シェリーさんって着やせするタイプなんですね~……ぐこぉ~」


と夢の中でシェリーさんにイヤらしい事をしているだろう、だらしない顔をしながら寝ている男だった。



「………」


私は思わず絶句した。



こんな、こんな品性の無い男に、私は助けられたのか……?


自分を助けてくれた男性は人の国で言うところの白馬の王子様のような人で……なんて少しでも甘い想像を思い浮かべた自身を叱りたくなった。



「ん~っ、ちゅちゅちゅちゅっ」


「!?」


嫌悪感が走った。


彼は突然空に向かい唇を突きだし接吻の真似事をし始めた。


いや、しているのであろう。夢の中で、シェリーさんに対して。



「ふふふっ。彼、面白いでしょう?」


私があまりの気持ち悪さに戦慄していると、隣のシェリーさんが笑う。


「おも、しろい?……これ、が?」


「ええ。普段との差がね?……あ、そうか。リリルリーは知らないんだものね。……見ててね?」


私が汚物を見るように指を向けると、彼女はクスリと笑い彼の近くに行き、囁いた。



「ご飯にします?お風呂にします?……それとも………」


「シェリーさんでええぇぇぇっつ!!………あれ?……俺は今?」



彼女の囁きに一発で覚醒した彼は起き上がり、脳内で広がっていたであろう夢と大きく異なる目の前の光景に首を傾げた。


「ふふ。おはようございますユーヤさん。朝御飯が出来ましたよ?」


「ありがとうございます、シェリーさん。……今日の朝御飯はなんですか?」


シェリーが寝起きの彼に声を掛けると、彼は先程までの変態性を感じさせない好青年のような爽やかな態度で返す。


「ホーンラビットのシチューです。自信作ですよ?」


「本当ですか?俺、好きですよ、シェリーさん……、のシチュー!」


「うふふ、ありがとうございます。先に一階に行っていて頂けますか?」


「はい!」


そう言って爽やかに去っていった彼。


「ね?。可愛いでしょ?視線はえっちなのに、必死に隠す姿は」


私はシェリーを誤解していたみたいだ。


シェリー、貴女は小悪魔系と言うやつなのだろう。




それから私は一日掛けてユーヤ・シロウと言う男を観察した。




・滞在している村の手伝いに畑仕事をするユーヤ・シロウ。


慣れない手つきながら畑仕事が楽しいのか、鼻唄混じりに鍬を地面に下ろす様子は、こちらまで楽しくなるような姿だった。


がシェリーが現れると、露骨に彼女の身体をなめ回すように見る。


やはり変態だ。


・またまた手伝いで樵の仕事を手伝うユーヤ・シロウ。


本業の樵が唖然とする程の手際を見せた。太さが大の大人を越す大木を一刀の元に叩き割り、半分に割られ倒れようとする大木を落ちきる前に微塵切りにせしめた。

これを樵が使う、切れ味よりも頑丈さを重視した斧でやって見せたのだから凄まじい。


が、その話を聞いたシェリーに褒められると途端に先程までの凛々しさが瓦解し、だらしない顔で変な笑いかたをし始めた。


やはり変態だ。



・昼を越えると、村の子供たちの遊び相手になるユーヤ・シロウ。


昼食を終えた彼は約束でもしていたのか村の子供たちと遊び始めた。


鬼ごっこと言う遊びで、鬼と呼ばれる役柄(基本一人)が逃げる人に触ると鬼がその触られた人に代わり、追走者が変わって行くと言う奇妙な遊びだ。


彼は鬼になると尋常ではない速度で逃走者を追い、逃走者になるとその逆にゆっくりと逃げると言う動きで遊びを大きく盛り上げていた。


場所を制限しているらしく、彼が壁に追い込まれた時などは見ていて私も笑ってしまった。



がシェリーが視界に入ると途端に動きが変わる。人外染みた動きで子供たちを捕まえ、逃げ始めた。


子供たちもその動きを見てキャッキャッと喜んでいたものの、ゲームバランスを崩してまでシェリーに良いところを見せたいのか?と私は憤る。


やっぱりただの変態だ。



・木刀を手に素振りをするユーヤ・シロウ。


子供達との遊びも一様の決着を付け、もっと遊びたいとごねる子供達を、また明日、と苦笑しながら家へ返すユーヤ・シロウ。

今日もこうして約束していたのだろう。


子供を全員送り返した彼はシェリーさんの祖父でありこの村の村長に木刀を貰い、家の庭で木刀を手に素振りをし始めた。


木刀を持ち上げては降り下ろし、持ち上げては降り下ろす。そんな単調などうさを何度も何度も繰り返す。


最初は詰まらない事を、と思っていたが、何度も繰り返す内に、私はその動作を美しいと思うようになっていた。


洗練された動作は、例え剣術と呼ばれる野蛮なソレでさえも至高の芸術へと変えてしまうのだと私は知った。


素振りを繰り返していると、彼は突然木刀を地面に突き立て上の服を脱いだ。

こ、こんな外で服を脱ぐなんて!やはり変態だ!。と慌てた私だったが、彼が服を放り投げると、ドサッ、と服が落ちたとは思えない音がした。

彼は尋常でない量の汗をかき、その汗を吸って重しとなってしまった服を捨てたのだ。


服の下から現れた肉体は、これまた至高の域に到っていた。


無駄な肉が無いと言えば良いのだろうか?。彼の身体は風のような速さで疾駆するために最適化された魔物のような筋肉を有していた。

隆々としているわけでもなく、しかしその筋肉は見た者の視線を掴んで離さない。


上半身の服を脱げ捨てた彼は、今度は素振りではなく、まるで目の前に敵がいるかのように振るい始めた。


ブンッ、ブンッ、と振るう度に風切り音を出す木刀。


それを振るう彼は鋭い視線で目の前の虚空を睨む。

その視線の鋭さに私は戦慄を覚えた。


相手の一挙手一投足を見逃さない!と言う視線。

射殺すようなその視線に晒されては、人はそれに恐怖してしまいまともに戦えなくなってしまうのではないかと感じた。

そして彼はそうして動きの鈍った敵を、まるで蛇のように狡猾に仕留めるのだろう。


戦慄を覚えぬ筈が無い。


なんと言う計算し尽くされた戦いだろう。


そう思った私の考えは、良い意味で裏切られた。



ニッ。


彼は笑ったのだ。


人を食ったような笑みでなく、ただただ純粋に闘争を楽しむ、子供のようなその笑顔。


ドクン、と私の心臓が高鳴るのがわかった。



……私は何をバカな事を考えていたのだろう。彼は、そんな狡猾な戦いはしていなかった。


いや、これも違う。


そう、射殺すような視線を受けまともに戦えなくなる者など、彼の敵ですらないのだ!



彼はそれを耐え、越えて来た一流の戦士こそを敵と認め、戦っていたのだ。


では彼に笑みを生ませた誰かは、彼が認め楽しいと思う程の相手なのだろう。


もしも今、その好敵手が彼の前に居たのなら、世紀の名勝負を目に焼き付けれたのに……。


私は虚空に浮かぶ彼の好敵手を見れぬ事に不思議と絶望を覚えていた。




ブンッ!


素振りを始めてどれだけの時間が経ったのだろう。

一際大きい風切り音が鳴ると、そこには振った木刀を空中で止め、時を止めたかのようにピタッ、と静止した彼の姿。



勝敗が決したのだ。


空中で静止した刃は好敵手の首元に当てられているのだろう。


木刀を、希代の鍛治師の打った名剣に見間違えた私を、誰が責められようか?。


私は戦士として至高の戦いを見せてくれたま()戦士に思わず拍手を送っていた。


「!」


彼が私を見た。


ドクン、とまた胸が高鳴った。


彼の目は驚きに丸まっていた。どうやら傍観者は居ないと思っていたのだろうか?。


「っ……」


二人の世界を壊してしまったか?と不安になった私は、彼が次の瞬間に見せた歳相応の、照れた笑みに、




心を奪われた。




ドクン、ドクンドクンっ。止まらない。


私の胸の高鳴りが止まらない。


どうしてしまったのか。私の胸は、痛む程に激しく胎動する。


顔が熱くなり、苦しくて息もつらい。…………これは、……一体っ?



私が初めて覚える身体の異常に慌てていると、村長の家からシェリーさんが現れ、夕食が出来た、と言って私と彼を呼んだ。


彼からは先程までの勇ましく研ぎ澄まされた雰囲気は吹き飛び、生涯を共にした愛剣を思わせていた木刀を放り出し、だらしない顔でシェリーさんの元へ駆け出していた。



その姿を見て、私は何故か嫌悪ではなく悲しく思った。

先程とは違う、胸が張り裂けそうな痛みが私を襲う。


苦しさに泣き出しそうになった私だが、彼の捨てていった服を拾い上げると、可笑しいかな、少しその痛みが和らいだ気がした。




彼は……変態だ、……多分…。








「ふぅ…」


私は夕食を頂き、朝起きた時に寝ていた部屋で小さくため息をついた。


ベットに腰掛けると、コンコン、と部屋の扉がノックされた。


「はい、どうぞ」


「ふふ」


扉を開けて現れたのはシェリーさんだった。


「彼はどうだった?……そんなに、悪い人だった?」


彼女は朝と同じようにベット近くの椅子に座り、優しい微笑みで聞いて来た。


「……いえ。…悪い、人間では、なかった」


今日一日彼を観察してわかった。彼は確かに女性、特にシェリーを見て淫らな事を考えるような人間だが、決して悪ではない。

むしろ、彼を慕う者は多いのだろうな…と思わせる程の人物だった。

進んで誰かの力となろうとする勤勉さに、子供達に見せた優しさ。そして木刀を手に見せてくれた、あの勇ましさ。


世が世で、彼に功名心があるのなら英雄として祭り上げられる程ではないかと、リリルリーは思った程だ。



「そう、それは良かったわね。そんな彼に、助けられて」


「っ!?」


彼女の何気ない言葉に、私は思わず立ち上がる程の衝撃を受けた。


そう、そうだ。……私は彼に礼の一つもしていないではないか。

なんと愚かな事を!

人としての尊厳を、身体と共に犯され凌辱されようとしていた私を助けてくれた彼に、……私は、私はお礼の言葉を言っていなかった。

あまつさえ私は、私を助けてくれた彼を『見極め』ようとしていた!


……なんと罰当たりな…、なんて、事を。


恩を仇で返す所業ではないか!


「……!」


私は駆け出した。直ぐにでも彼と会い、お礼を言いたかった。



「ふふ」


部屋から出る直前に見えたシェリーさんの微笑みを見て、私は心の中で彼女にも深く礼をした。





トン、トン。



彼が居るであろう部屋の扉を軽くノックする。


「はーい」


延びた声と共に開けられた扉から、半身を出した彼の姿。


「あ。……えーっと…」


彼がいい淀むのも仕方が無い。

何せ名前を明かす事もせず、上から目線で彼を観察(・・)していたのだから。


「そ、その……お礼、言いたい」


この時、私は拙い言葉を酷く呪った。

こんな言葉では伝えられない。感謝を、そして謝罪を、伝えられない。


私が苦悩していると、彼は苦笑していた表情を、笑みに変える。



『なら、君の名が知りたい』



ドクン!。


甘い囁きのような声で呟いた彼の言葉は、私が最も上手く使える故郷の言語だったのだ。


『アレクセリア語を!?』


咄嗟に私はエルフに伝わる固有言語であるアレクセリア語で返す。


『ああ。友人にエルフの男性が居てね。彼と口論をしている内に覚えてね』


そう言って片目を閉じてウインクした彼に、私はクスリと笑う。


『俺はユウ。ユウ・ヤシロ』


『え?』


突然言われた言葉を、私は一瞬理解出来なかった。


『君の名は…?』


彼は、私の名を聞いたのだ、と理解した私の行動は速かっただろう。


『リリルリーっ。私の名前はリリルリーです』


ほぼ反射的に答えた私に彼は、



『癒し人…良い名前だね』


そう、笑ってくれた。

一部リリルリーの誇張表現が含まれています。特に最後の辺り。



やっぱりフツメンでも勇者はハーレム作らないとね!。




感想待っーてます

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― 新着の感想 ―
フツメンでもハーレムは作れるさ 実際現代日本で事実婚を繰り返してハーレム拡大してる種付け王が北海道にいるって言うし(ガチ) 本人が言うには日本を自分の子孫で埋めつくしたいんだとか。常人には理解できない…
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