先代勇者と雨音
リズワディアから港町ベ・イオに向かい北西に進むと、そこにはなだらかな傾斜の山脈が待っている。
ル・テオ山脈だ。
この山脈はベ・イオから出る行商人達が良く使い、まるで整地されたように平たい道が続いている。馬車に乗ってもガタガタと揺れないのは心地よい。
森林に囲まれた、それでも迷いの森と比べるととても明るい道が続く。
木々の間から零れる陽の光が、山脈のなだらかな道を進むキャラバンの荷馬車を照らす。そして陽光はその荷馬車の中の一つ、銀色のクルケルが運ぶ大きな荷馬車の屋根で寝ている黒髪の少年をも照らしていた。
「くそっ、チカチカと眩しくて寝れねーよ」
社勇、三年前にこの世界『レインブルク』を魔王から救った勇者である。
◇
リズワディアから旅立ち早三日。
途中で立ち寄った『コルシン』と言うブドウ農園を主産業としたワイン農家の村で、丁度護衛が欲しいと思っていたと言う商人のキャラバンの護衛を引き受けた俺とベルナデットは、こうして荷馬車に腰掛け寝転んでられる旅を進める事が出来ていたのだった。
「おや、何やらとてもながい説明台詞を聞かされた気分に突然なりましたよ?」
「とりあえずテメェはもう少し羞恥心を見せろ」
荷馬車の上で寝転んでる俺と、ジッパー式で着いていた着脱可能のスリットスカートを外し、スリットが入ったタイトミニみたいになったスカートから生足を出して荷馬車の屋根から足を放り出しぶらぶらとさせているベルナデット。
着脱可能な事も驚いたけど、生足を惜しげもなくさらけ出せるベルナデットさんの羞恥心の低さにも驚いた。
「ふふふ、これはいわゆる、サービスシーンと言う奴ですよヤシロさん」
「調子に乗んなこのバカ」
「さっきからチラチラとふとももを凝視しているヤシロさんには言われたくないですよー」
ば、バレてる!?
「そもそも、この季節になると日の光が強くて法衣も熱くなっちゃうんですよ。けどこれなら下のスカートを外すだけで随分と涼しく感じられるんですよ?」
「へぇー。スカートってのはただそうあるだけで風が通って涼しいもんなんだと思ってたよ」
「普通のスカートならその考えでも良いかもしれません。しかし法衣は元々厚手の生地で出来ていて丈もかなり長いです。風の入る余地がないんですよ」
「なるほどねぇ」
「今の会話の中でも四度ほどチラチラと凝視してましたねヤシロさん」
ば、バレてる!!
「そう言えばもうレインブルクはもうすぐ夏期だったか」
どうりで暑くなってきたわけだ。そう言えばこっちの世界に蝉はいるのか?
「夏期と言えばガラリエの氷飴ですね。凄く冷たいのに甘くて美味しくて最高だと聞きます。是非食してみたいものです」
ちなみにコイツの「食べる」は、何十人分の食べ物を平らげる事を指す。
「こおりあめ? ……あー、アイスみたいなもんか?」
「知っているんですか!?」
俺の呟きに食いついてきたベルナデットが俺に迫る。
し、しかしヤバいっ。この態勢はヤバいっ!
寝転がっている俺に対しベルナデットが身を乗り出して来たわけだが、ベルナデットの大振りな胸が目の前に垂らされているのだ!
厚手の生地の筈なのに乳袋が出来る辺り流石は異世界だ。
「人が真剣に聞いているのに、胸ばかりに視線が行くのはどうかと思うのですが」
「ご、ごめんなさい」
ゴリッ、と額に魔法銃を押し当てられ、俺はお手上げをし降参のポーズを取るのだった。
「もうっ。ヤシロさんは獣ですね!」
嬉しそうに獣認定しないで欲しいのですが……。
「おーい、兄ちゃん達ィ! 少し手伝ってくんねぇかァ?」
「ん?」
のぶとい男の声がすると、荷馬車の行列であるキャラバンの行進速度がゆっくりになり始めた。
「どうしたのですか?」
ベルナデットが中腰になり聞きかえ……っておおおぉっ!!
す、スリットがっ!中腰になってスリットからあぁっっ!!
「天気が変わり始めた! 夕立から本格的な雨になりそうでなぁ。テント作りを手伝ってくれ!」
み、見える! 後少しでッ、ほんの少し首を動かすだけで、男が夢見た理想郷が! この目にぃ!!
……え、うそ……この角度からパンティの紐が見えないなんて……ま、まさか履いて…ッ!
「履いてますよっ!!」
「たらばぁっ!!」
ベルナデットに蹴り飛ばされた俺は荷馬車から落ち、山道をゴロゴロと転がっていった。
◇
商隊のおっちゃんの言うとおり、キャラバンと繋げたテントが張り終わる頃には雲行きが怪しくなり、炊き出しを始めた頃にはどしゃぶりの雨が降り始めた。
「いやぁ、開けた場所で張れてよかったよかった」
「ああ、全くだ」
商人のおっちゃん達はそう笑いながらテントの下で暖を取ってる。
おっちゃん達の言うとおり、山の中で開けた場所で止まったキャラバンの荷車達は半円を描くように止まり、その荷車達から延びるテントの中には、仲間内での軽い商売や歓談が始まっていた。
「クケー」
「んー……暖かいですー」
雨で気温が下がったせいか、炊き出しのご飯を食い終わった後だからか、暖かいズィルバを抱き枕代わりにベルナデットは眠る。
「よーあんちゃん。連れのシスターちゃんはおねんねかい?」
「ええ、まあ。よく食べてよく眠る奴みたいで」
「だははは! シスターちゃんの食いっぷりは凄いからなぁ!」
コルシンの村で俺たちを誘ってくれた商人のおっちゃんが、鉄製のコップを二つもってやってきた。コップからは湯気が出ていた。
「コーヒーでも飲むかい?」
「頂きます」
渡されたコップを手に待つと熱さが伝わってくる。
つか正直熱い。
「あちぃっ!」
「煎れたてだからな! そりゃ熱いさ」
がはははと笑いながらおっちゃんはコップの中のコーヒーを一息で飲み干した。
そして俺をチラと見てニヤリと笑いやがった。
「ごっ! ~~っ!?」
負けじと一息で飲もうとするがやっぱり熱い。
悔しいが一気飲みは出来なかった。
「ベ・イオまではもう少しだからな。あんちゃん達の出番が無いことを祈るが、それでも起こるかもしれないからな。もしかしたらの時は頼むぜ?」
「了解っす」
あんなに明るかった空は暗く、雲に隠れ、雨が降りしきる。
さて、寝ずの番と行きますか。
新章第一話。ようやく投稿になります。お待たせしました~。
前回のは新章のプロローグだと思ってください(笑)




