先代勇者は涙もろい
衝撃の事実! 自由都市ガラリエは、実は海の上に建てられたら街だったのだ!!
そう言えば旅の途中、目的地はリズワディアとばかり言ってたからな。ガラリエが水上都市だなんて訂正してくれるような人はいなかった。
制服への憧ればかり先考して大事な事を俺は失念していたのだ。
そしてまさかその制服が無かったとは驚きだったな。製品版では修正されてるのを願うばかりだ。
さて話は戻るが、学院長の部屋を後にした俺はドート先生のクラスへ向かった。
モデルは諦めるしか無いが、それでも俺の作った制服が着られている姿は見ておきたいからだ。
クラスの前に着くと、ざわざわと少し騒がしいのがわかる。
「ちわーす」
扉を開けながら入ると、クラスの中にはブレザーや体操着を着た生徒達で溢れかえっていた。
「シロウ先生だ!」
クラスの男子が俺に気づき叫ぶと、クラスの生徒が一斉に俺の方を向く。
おいこら、間違えてんぞ。
「先生! 先生がこの服作ったのって本当ですか?」
「俺がやったのは服の構造に刻印可能な魔法の選定だけだよ。作ったのはそこでトリップしてる蜘蛛のねーちゃんだ」
ブレザーを着た女子生徒の言葉に、俺は教室の中で着飾ったモデル達を前にうわごとを呟き続けるほど興奮したアリアドネさんを指さす。
声が小さすぎて聞こえないから読唇術を試みて見ると、どうやらサイコーやサイコーやと繰り返し言ってるらしい。
「私達が聞きたいのは、その刻印魔法の事ですわヤシロ先生」
私を、わたくしと読む言い方で喋る奴は知り合いに一人しかいない。
今日も見事な金色縦ロールのヘンリエッタが生徒をかき分けるように俺の前に歩きながら現れる。
ヘンリエッタもまたブレザーを着ていた。
「素晴らしい技術です、先生。魔剣鍛冶による能力付与程でないですが、魔力消費無しに発動し続けると言う最大の利点は、魔剣鍛冶とは別のベクトルで最大限の賞賛を受けるべきですわ!」
歌い上げるようにそう言うヘンリエッタ。
「是非この学院の、正式な教員となってください、ヤシロ先生! 私は、貴方の様な才のある先生の元で研鑽を積みたいのです!」
ナニイッテンノコイツ
「は?」
「ご安心下さい先生。万が一採用されないと言う事態に陥ってしまったら、我が国からの圧力で……」
「本当に何言ってんの君!?」
圧力とか、マジでやめろ! やめてー!私の為に争わないでー! な状態になるだろえが!
「つか、教師になんてならないから安心しろ」
「なっ……!」
俺が言うとヘンリエッタは驚きの顔を見せた。
「俺は旅から旅への根無し草。風の向くまま、気の向くまま、この世界を旅する風来坊。……てな感じで世界一周旅行中だから無理」
「……そう、ですか。それはとても、残念ですわ」
苦笑しながらも一歩引いたヘンリエッタに少し悪い気もしたが、やっぱり俺は無理だな。どうしても世界を見て回りたいし。つか俺魔力無いから無理だろ。
「あれ、そう言えばアリシアは? エリもマナも見かけないし」
ふと、アリシアが居ない事に気がつくと連鎖的に二人の姿も無いことに気づく。
「アリシアさんはこのリズワディアの守護結界の整備の陣頭指揮。我々も後ほど赴くのですが、お二人は特異な能力と装備があるので先に復興作業のお手伝い、ですわ」
「そっか。……んじゃ俺行くわ」
軽く手を振りながら俺がそう言うと、またヘンリエッタは驚いたような顔をした。
「なに?」
「もう、行ってしまわれるのですか?」
見るとヘンリエッタだけじゃなく、クラスの連中までもが驚いていたようで、口をあんぐりと開けたり、目を見開いている奴なんかも居た。
「二週間くらいだけ居る予定だったからな。そろそろ行かなきゃ滞在時間がずるずると伸びそうでね」
俺がそう言うと、ヘンリエッタは俺に右手を出し、
「ありがとうございました。僅かな期間ではありましたが、先生の下で学べた事、私は嬉しく思います」
なんて、言いやがった。
…………
「ぢぐじょう、ごんなの卑怯だぞっ」
「せ、先生っ!?」
ちくせう、俺がリズワディアに来たのだって、ほぼ制服着た女学生が目当てだっただけなのに、こんな事言われちゃうと……来て良かったっておもっちまうだろーが!
「いや、今生の別れってわけじゃないんだ。俺はお前らと同じ世界に居る。なら、すぐにでも会える。何せ異世界へ帰るって訳じゃあないんだからっ!」
いつかリリルリーに言った言葉を自分に言い聞かせながら俺は鼻を啜った。
「またな、野郎ども!」
恐らく涙と鼻水まみれだったことだろう。それでも俺は、限界まで口角を上げた、満面の笑みのサムズアップが出来たはずだ。
まだ居たくなっちゃう。多分教育実習生の先生の大半が泣く理由だと思います。
みなさん、書籍化ですよー! 詳しくは活動報告にて!




