先代勇者は行き先を決める
「そんな事、許される筈がありません」
そう言って、釣り目がチャーミングなゼルガ・ウル・ヘルクローゼ・ラードグルカ・フェルカシオ・クラルテューレ先生は、即断即決即行動、思い立ったが吉日で頼んでみた俺とアリアドネさんの頼みを断った。
「「えー」」
「えー、じゃありません!」
俺とアリアドネさんがブーイングすると鋭い目つきを更に鋭くしてゼルガ先生の怒声が学院長室に響く。
そう、ここは学院長の部屋なのだ。
「ホホッ。中々良い案だと儂は思ったがのぉ」
「……学院長?」
「ヒィッ! わ、儂も反対じゃぞヤシロ君!」
白く立派な髭を撫でていた学院長がゼルガ先生の冷たい視線を受けわなわなと振るえながら反対する。
どっちが上司かわかったもんじゃない。
「そもそも、何故生徒の制服を、教師である私が試着するのですか?」
もっとも過ぎるお言葉です。これに正直に答えると確実に着てくれないんだろう。俺は深く悩んだ末に答えた。
「先生が生徒の制服を着るとか、素敵じゃん?」
「却下です」
オーノー!! 色々手を加えようとしたけど(疑問系な所)、結局ド直球になってた不思議!
まるで養豚場の豚を見るような目で却下を出したゼルガ先生。
くそぅ、良い目で睨みやがって……ゾクゾクするじゃないか!
俺が興奮している横で、アリアドネさんが制服を手に唸っていた。
「なぁ勇。ウチな? 良い事思いついたんやけど、聞く?」
「ハァハァ……良いぞ、もっとだ……もっと俺を蔑んで、って何? どうしたのアリアドネさん」
「興奮しとる所悪いんやけどな? この先生の言うとおり、この制服は生徒が着るもんや」
何やら神妙な顔のアリアドネさん。ふむ、真剣な話だろうか?
「ふむ。それで?」
「モデルの件やけど、ここの生徒さんに頼めへんか?」
……?
「それはつまり、エロい身体付きをしたお姉様ではなく、子供をモデルにしたいと?」
「せや」
せやってアリアドネさん、アンタ俺が興奮してる理由を知ってるでしょうに!
「それでしたら構いません。まだ採用と決まったわけでもありませんし、生徒の要望を聞くと言うのも良いでしょう」
あれ、ゼルガ先生なんか乗り気?
「どうでしょうか学院長」
「ホホッ、中々面白そうじゃのう。……良し!決まりじゃ! ドートランジェ先生、さっそく生徒達に試着して貰うとしよう。モデルは……そうじゃな、ヤシロ君を知っている君のクラスはどうじゃろうか?」
「はい。私も賛成です。早速始めましょう」
うおっ、ビックリした。ドート先生顔はめちゃくちゃ怖い癖に気配もめちゃくちゃ薄いから居ないもんだと思ってたぜ。
ってなんかどんどん進行してる!? せ、せめて上級生のグラマーな娘にして貰えるように軌道修正せねば!!
「あ、あの……」
「アリアドネさん、でしたね? 教室へ案内致します」
「おお! ほなら急ごか」
衣服愛好家のアリアドネさんは手を拱いている今の状況を打破する方を取った。と言うかモデルで我が儘言ってたのは俺だけだったわけで、アリアドネさんからしてみれば作った服を速く着て欲しいに違いない。
ドート先生とアリアドネさんは二人で先に転移してしまった。
あれ? 取り残された。
え、え? 何故に?
俺がそんな事を思っていると、学院長のわざとらしい咳が部屋に響く。
「さて、クラルテューレ先生も退室して頂こうかの」
軽い調子で言われた言葉に、ゼルガ先生は面白い様に反応した。目を見開いて動きが止まったのだ。
「……学院長、貴方の秘書官たる私には、御身を守護する義務があります」
しかし一瞬で普段通りの対応で返すゼルガ先生。……ゼルガ先生って、教師ってだけでなく、秘書属性も持ってたのか! 通りでタイトミニ(スリット入り)が似合う似合う。
「ホホッ、クラルテューレ先生。……拒否権は無しじゃ。退室せよ」
柔らかな口調から一転、ベルナデットに名乗った時の様に、低い声で学院長はゼルガ先生に命令した。
「! ……はい」
するとゼルガ先生は眉をピクリと動かし、転移して行った。
「すまないの、ヤシロ君」
「あ、いえ、お構いなく」
いや、突然謝られても困る。と言うか何が悪かったんだ? 首を傾げ悩んでいたが、俺の思考はそこで妨げられた。
「いや、黒き執行者……と呼ぶべきかの」
学院長が懐から取り出した懐中時計を模した印が押された一枚の便箋と、その学院長の言葉に、止められたのだ。
「ホホッ。そう身構えずとも良い。わしはただ、礼がしたいだけなのじゃ」
「……別に、俺は何も」
ゼルガ先生を退室させてくれた辺り俺の正体は秘密してくれるんだとはわかったが、流石にいきなりで驚いた。身構えるなと言うのが無理な話だ。
さて話を戻すが、そう。俺はそんな礼を言われるようなことをした覚えがない。
俺が目立ったのなんて腐竜の掃討くらいだしな。後はほとんどイケメン君が持っていっちゃったし。
「ホホッ。殊勝なのじゃな、彼女が寄越したこの手紙通りじゃ」
真っ白なカイゼル髭を撫でながら笑う学院長。手紙、ね……婆ちゃんの場合それすら予知してそうで怖いな。
「手紙によれば自由都市を目指してると聞いたが、違いないかの?」
「ええ、まぁ……って、何ですって? 書いてある?」
「うむ。書いてあるぞい」
軽く見させて貰うと、確かに『ガラリエへと向かうから融通してやって欲しい』との一文が!
ちくしょう! 俺がガラリエに行くって完全に読まれてた!
今回は出し抜けたと思ったのに!
「この時期じゃとガラリエ行きで空いてる船はほぼ無いじゃろう。少し遠回りになるのじゃが、『ベ・イオ』と言う港町で町長をしている『ヴォーダン』と言う男がおる。そ奴へ手紙を出そう。船の一隻くらいは融通してくれるじゃろうて」
ホホッ、と髭を触りながら笑う学院長。
これでガラリエへの移動手段が! ……って、なんだって?
「え、ガラリエまでって船なんですか?」
「ホホッ、……ファッ!?」
「え、……陸続きじゃないんスか?」
「ど、どういう理由があったらあの『水の都』が陸続きだと思えるのじゃ!?」
俺の問いに逆に問う学院長。
そ、そんな事言われても道具袋(四次元仕様)に地図が入ってて、その地図にはガラリエまでほぼ一本道で……ハッ!
「まさか! ……だあああぁぁっ!! やっぱりありやがった!」
袋から地図を取り出して、俺は近くにあった蝋燭の火で地図を少し炙ってみた。
すると、まるで青のインクを零したように、地図上での海が、ガラリエの街から広がって行く。
よく海賊が隠した財宝の在り処を示した地図の様に仕掛けがしてあったのだ。
地図を仕込んだの間違いなく婆ちゃんの息が掛かった人たちの仕業だろう。いや、今思うと受付嬢の巨乳ちゃんだろう。多分『時の魔女』の信奉者って感じなんだろう。良く知らんけど。
これは恐らく婆ちゃんの悪ふざけだな。ちくしょう、最終的に良い方向に向かってるから良いが、最悪海を目の前に右往左往した挙句に生身で海を渡るハメになっていたかもしれないんだぞ
俺の脳裏にはクツクツと不敵に笑う婆ちゃんの姿がふと横切った。その姿が容易に想像できるだけに恐ろしい。
つか未来が見えなくなってるとか完全にウソじゃねーか。バリバリ当たってますがな。俺の行動逐一読まれてやがるじゃないの。
「何度味わっても、この踊らされてる感は嫌だな」
三年前にも、聖剣の封印を解く為に世界の半分以上を巡らされたのだが、その時にも婆ちゃんの悪戯を何度か受けたっけ。
「ホホッ。どうやら誤解は解けたようじゃな。『自由都市ガラリエ』、『水の都』とも呼ばれ、その名の通り水の、海上の上に街が在ると言う風光明媚な街じゃ。つまりガラリエへ赴くなれば船が必要じゃろう?」
「ええ、まぁ」
普通の人間はね。
あ、いや、俺乗るよ? 一応勇者っての隠して一般人のフリしてるから、普通の人間の交通手段使うよ? 水上走ったりなんてしないよ? そしてアレ意外と難しいからできないし。
「では『ベ・イオ』の町長の『ヴォーダン』へこれを届けて貰えるかの? そうすればあの男も船に乗せてくれることじゃろう」
学院長が懐から取り出したのは、婚約指輪が入ってそうな開閉する小箱。
中には金色の……
「鈴?」
「うむ。奴の子供がもう少しで成人になるようでの、その祝い品じゃ」
ホホッ、と朗らかに笑う学院長。
成人の贈り物で鈴とかマニアックだなおい。
まぁ少し考えると獣人の、猫族か狐族の奴なんだろうな。この世界の獣人は各種族により差はあるものの、必ず一族に縁のあるものを身につけていると聞く。
狗族ならチョーカー、虎族なら鉢巻。一部の鬼族なら腰巻なんてね(比較的温厚な鬼の一族は獣人に含まれるらしい)
となると、そのオヤジさんのヴォーダンって人も猫族か狐族だろう。
更に、獣人の人が統治する街には、統治者と同じ種族が集い易い。
つまり、猫耳のお姉様だったり、狐耳のお姉様方も多くいる筈! 主人命の忠犬相手は疲れるとかつての経験から知っているのでこの情報は正直嬉しい。
「その任務、是非俺にお任せください!」
そう言って、俺は異世界特有のお使い任務を受けたのだった。
お待たせしました、最新話です。
いいですよね、水の都って響き。
えぇ、ポケですよ。あの話は良かった。
と言うかルギアとか水護みたいなサトシとヒロインの淡い恋、みたいなのが好きでした。フローラ最高。
ではまた次回!




