月夜、骸の行進【10】
さて、イケメン君はああ言ったがどうしたもんか……。
俺としては彼の意見に大賛成だ。これ以上アリシアを危険に晒すわけにはいかない。それに竜言語を扱える彼なら十分任せられる。なにしろ竜言語を十全に扱えるなら、単純に今の俺より強い。
だが俺は指を咥えて見てるわけにはいかない。何せこの姉妹の行動を縛ることはできないのだ。鎖でも、言葉でも。
確固たる意思で自分の持つ正義を貫く、そんな強い姉妹なのだ。末っ子のアリシアも姉二人と同じでそんな難儀な生き方をしている。
そんなアリシアがこの状況を見過ごせる訳がない。今は消耗していて動けないだろうが、少しでも回復すればアリシアは戦いに行くだろう。この街の人々のために。んで、俺もアリシアに頼まれたら道を譲りかねない。……この姉妹にはどうしても甘くなるのだろうと容易に想像できる。
つまり、アリシアが戦いに行こうとする前に、奴を倒すしかないわけだ。……問題は古竜を倒しに言ってる間にウムブラがまたちょっかい出しかねないと言う事だが、その時はもうイイ。今度こそ聖剣抜いて問答無用で倒せば良いんだから。
「(アリシア、大丈夫だな?)」
「(……ふふ。囚われのお姫様だった私への第一声がソレ?)」
非難めいた言葉だが、アリシアの言葉にはそれを感じさせないやわらかさがあった。
「(すまん)」
「(んふふっ。……ごめんね勇、大儀礼の後だったからって少し油断し過ぎてた。次はもうこんなヘマしないよ)」
アリシアは先ほどウムブラに乗っ取られかけた事を謝る。そんな必要もないのに。
「(お前のせいじゃない。それにアリシアは十分頑張ったんだ。誰もお前を批難しないし、俺がさせない)」
と言うか周囲の警戒を怠っていた俺が悪いわけだし。
「代行者」
「ふんぬっ! ふんぬ~っ!! は、ず、れ、な、い~っ!! ってなんですか?」
片手でスカートを押さえながら、足に絡まった魔法の鎖を素手で外そうとしていたベルナデットの魔銃を投げ渡す。
「あのデカブツを殺る。力を貸せ」
俺がそう言うとベルナデットは逆様なまま、一瞬視線を鋭くして俺を見た後に脚に絡みつく魔法の鎖を魔力弾で撃ち抜き、落下の瞬間に体勢を整えて綺麗に着地した。
「正直まだ疑っていると言うのが本音ですが……貴方を信じましょう。それに個人的に今回の一件は迅速に終わらせたいですから」
そう言ってベルナデットは落ちていたもう一挺の魔銃を拾い上げる。
「そうか、助かる」
「いえ、私も知人の為ですから」
そう返し、ベルナデットは魔銃に不具合が無いかを簡単に確かめ始めた。
「悪いが、お前達はダメだぞ?」
「っ、……理由をお聞きしても?」
何か言いたげだったヘンリエッタ、マナ、エリの三人に向け言うと三人ともビクッ、と身体を震わせ、代表のようにヘンリエッタが一歩前に出る。
「語るまでもないだろう?」
「?」
首を傾げるマナ達三人。三人を一瞥し、俺は古竜を見る。
「アリシアを頼む」
「……っ!?」
驚いたような表情を見せたマナが気になったが、宝剣を連結し蛇連双剣『真紅の刃』にしてから、俺はベルナデットをチラと見る。
「構いませんよ」
ガチャッ、と銃を構えたベルナデットが頷く。
「良し。……行くぞ」
そう言ってつま先に力を込めて、俺は地面を蹴った。
「(いってらっしゃい。……勇)」
「(ああ)」
脳内に直接届いたアリシアの言葉に、俺は一言だけ返して古竜の元へ急いだ。
◇
「こいつ! 私達を無視して動きだしたわ!」
右手に付けた白鉄の手甲が特徴的な白い軽装に身を包んだ茜が、空中からの着地と同時に叫ぶ。
一歩進むごとに大きな震動を起こすその巨躯が、茜の言った通り、ゆっくりとだが進み始めた。
「見ればわかる! ちぃッ、山のような巨躯。グラキエスタとはまた違うベクトルで戦い難いな」
白の着物に赤の袴と異世界の巫女服を着た咲夜が、カチッ、と腰に佩いた鞘に湾刀を納めて舌打ちする。
「この方向……海翔君が居る方だ!」
真っ白のローブに身を包み、身の丈を越える木の杖を両手で持ちながら晶が叫ぶ。
「!? ……こん、のぉっ! 止まれぇぇっっ!!」
晶の言葉に咄嗟に飛び上がった茜は建物や古竜の体躯を利用し、古竜の頭部付近まで一気に駆け上がった。
そして咆哮と共に古竜の脳天に向け茜が振り下ろした拳は、古竜を覆うように展開された竜鱗に阻まれ届かない。
「まだっ、まだあぁっ!!」
だが、その程度で諦めはしない。阻まれたと知るや、茜は無理やり押し込むように、拳に集束していた魔力を拳に乗せて放出する。
「イン…――パクトォッ!!」
茜が得意とするゼロ距離集束魔力砲撃『インパクト・ゼロ』。これは膨大な量の魔力を一点に注ぎ込みながらそれを放出すると言うシンプルな行為でありながら最上級の難易度を誇る技術だ。魔導砲や流束などとも呼ばれ、本来近接戦闘中に扱えるものではない。
だが茜は魔力の集点を拳に、放出を拳の先に限定する事により、極近距離ながら魔導砲を近接戦闘の最中に使う術を身に着けた。
この技は集束した魔力がそのまま威力になると考えて良い。つまり、この世界において最強クラスの魔力量を誇る茜の一撃は、そのまま転じて最強クラスの攻撃力を誇る事になる。
「なんでッ、貫けないのよ!!」
茜は魔力の放出による閃光の先で、砕けては瞬時に再生し、またはその名の如く鱗のように重なり合い強度を高める障壁に戦慄した。
「茜さん! 追撃、行きます!」
「晶!」
「ならば私が繋ごう」
魔法の詠唱に入る晶をチラと見た茜、そして晶の意図を理解した咲夜が日本刀の様に反った湾刀を鞘から抜き払いながら茜の背後から古竜に飛び掛る。
「『真・魔装剣』! ……穿つ!」
周囲の魔力を集め魔力の刀身を作り出す『魔装剣』。それをベースに天城海翔が編み出した自身の魔力を湾刀に纏わせ刃と成す闘法、真・魔装剣。咲夜はその魔力の刀身を自身の魔力総量に物を言わせて最大限まで性能を高めた。更に刀身の長さよりも切れ味へ。切れ味を限界まで高めた刀身は完全に修復し終わる前の竜鱗を貫いた。
「――其の鍵は空を掲げる七つの柱。我は空を降ろし、七色の坂を越え空を往く者なり。我が言の葉に答え、天に続く門よ………―――開け! 『聖天七鍵門』!!!」
熱、水、風、雷、冷気、地面の六大元素と架空元素エーテルにそれぞれ相当する大精霊の力を用いて発動する災害級最高位広域殲滅魔法。
相反し合う力をエーテルで無理やり収束させ、広範囲に七つの光線を放つと言う魔法だ。
古竜の上空に召喚された巨大な魔法陣から七色の閃光が降り注ぐ。
七色の閃光の内六つは竜鱗に弾かれたり竜鱗を削る程度に終わったが、一条の光が咲夜の突き立てた剣へと吸い込まれるように落ち、竜鱗に防がれずに古竜の巨躯を貫いた。
「通ったのか?」
「障壁による軽減を多少受けたみたいだけど、確実に入ったよ!」
古竜の大地を揺らすような咆哮の中、晶の隣に降り立った茜と咲夜。咲夜が腰に佩いた刀の柄に触れながら確認すると晶は力強く頷いた。
その晶の自信を裏付けるように、古竜の腐敗した肉体が、『聖天七鍵門』を受けた頭から片翼の部分がズルリと崩れ落ちた。
「さすが晶! やるぅ!」
「い、痛いよ茜さん……」
背中をバシバシと叩かれながらも、晶は嬉しそうに苦笑する。
「あの障壁に防がれた時はどうなるかと思ったけど……案外アタシらだけでもイケるもんね」
「……いや、浮かれるのはまだ早いようだ」
拳を打ち付けて笑う茜に、咲夜が刀を抜きながら返す。
「うっそ……何よアレ……」
茜が驚愕するのも無理は無い。
腐竜の肉体から赤黒い触手が伸び、崩れ落ちた部位に触手が突き刺さる。
そして、まるで人が斬られた腕を糸で縫合するかのように、傷口を触手で縫いとめた古竜は、その腐った双眸で茜達を見下ろした。
「見られたぞ! 散開しろ!!」
今まで自分達を見もせず進行していた古竜が脚を止め、三人をその視界に収めた。
つまり、敵として認識されたのだ。
ゆっくりと、古竜がその片腕を振り上げた
「言われなくても!」
晶を抱えて跳び退いた咲夜とは別方向に茜は跳んだ。身体強化の魔法を使った茜は元いた場所より大きく離れた。咲夜もまた、反対方向ではあるが大きく距離をとった。
そして、距離を取った筈の三人に衝撃波が襲い掛かる。
「なっ!?」
「うぐっ!?」
「うわあぁ!!」
まるでミサイルが着弾したかのような衝撃に、三人は吹き飛ばされた。
「ちぃっ……これが、竜王、か」
瓦礫を押しのけて立ち上がり、周囲を見た咲夜が思わず息を呑んだ。
辺りが、瓦礫の山と化していたのだ。その原因は竜王が振り下ろした腕だ。振り下ろした拳の衝撃で、周囲一帯の建築物が砕け散っていたのだ。古竜が振り下ろした拳の着弾点から、広がるようにクレーターが出来上がっていた。
竜言語による強化を受けているとは知っていたが、咲夜もここまでとは思いもしなかったのだ。
(ただ拳を叩きつけただけでこれか。……竜王、恐るべし……ん?)
ツー、と頭から垂れてきた何かに触れると、指が血に濡れていた。
どうやら痛みはしないものの負傷したらしい。
「ぅ……、咲夜さん……」
「無事か、晶」
咲夜の足元で気絶していた晶が頭を抱えながら起き上がった。
「僕は大丈夫です。……それにしてもこれは……」
晶もまた辺りを見回して絶句した。そして、気づいたように慌てて立ち上がった。
「茜さんは!?」
「ここだ」
晶の悲鳴のような叫びに返ってきたのは、晶を始めとした三人が良く知る声だった。
スタッ。軽やかな音とともに晶と咲夜の前に着地したのは天城海翔。当代の勇者達の中で、最強の剣士。
晶や茜達と似た意匠の軽装を纏った彼の腕には、茜が抱えられていた。
「……遅いぞ、海翔」
「悪い。待たせたね」
苦笑と共に二人の前で膝を付き、彼は腕に抱いた茜を宝石でも扱うかのように丁寧に地面に置いた。
「茜さん!」
「気絶してるだけだ。安心して良いよ」
駆け寄って来た晶にそう言うと海翔は立ち上がり、腐竜と化した竜王を見上げた。
「森羅万象を従えた太古の竜王。死してなおその力、感嘆に値する。……さぁ、来たぞ?」
血より赤く、炎のように煌く双眸は、古竜を捉えていた
……い、色々と申し訳ありませんでした(土下座)
投稿期間の自己記録更新にあとがき詐欺に感想への返信……真に申し訳ありませんでした!
さて話は変わりますが、晶の大魔法『聖天七鍵門』。元ネタわかる人いるでしょうか(笑)
ではまた次回。




