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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
リズワディア学園編
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月夜、骸の行進【7】

「へっどっ!?」


「………(アリシア、グッジョブ)」


「(んふふ。どーいたしまして)」


俺に襲いかかって来たベルナデットだったが、落下途中に足を鎖で引っ張られ、逆さ吊りに、顔面から建物の壁にビターンと音を立ててぶつかった。

こう……振り子の原理を用いた鉄球のように。

ちなみにベルナデットの足に絡まっている鎖は魔法で作られた物だ。


「くっ……まさかリーゼリオンの姫君が魔族と繋がっていただなんて!」


「ちげぇよこのアホシスター」思わず言葉を出してしまった俺を誰が怒れよう。


ちくしょう、こいつ短絡的と言うか何も考えていねぇのか!?


「……残念ながら俺は人間だ。魔族じゃない。それは単なる噂なんだ」


「数百頭のドラゴンゾンビを剣だけで殲滅するなんて人間じゃないですよ」


そりゃあまあ、確かにな。


……って納得させられかけた!


「そこまでよ、教会の代行者さん」


タッ、と小さな足音を立てて俺たちの前に降り立ったズィルバ。


その背に乗ったアリシアが歳に似合わぬ、風格を漂わせながら制止の言葉を放った。


逆さ吊り状態のベルナデットに。


「彼の存在はリーゼリオンと、『時の魔女』が保障するわ。……彼は、『人間』よ」


「む……」


ある種の威圧感を出しながらアリシア言うと、ベルナデットは口ごもった。


そりゃそうだ。


保障とか言ったが、今のは暗に「あ? それ以上ごたごた言うなら『リーゼリオン』と『時の魔女』が黙っちゃいねーぞ?」と脅しようなもんだからな。


リーゼリオン一国だけならまだなんとかなるだろう。


だが『時の魔女ノルン』に喧嘩を売ったとなると話は少々複雑に、そして暴力的になってしまう。


それを理解したのか、ベルナデットは口惜しそうに口を尖らせ……ってなんかシリアスになりきれないのね君は。


「あー、……代行者、安心しろ。ちゃんと証拠を見せてやる。ゴーレムの仕組みは知ってるか?」


「え、ええ。知ってますが?」


「そうか。なら、話が速くて良いや」


俺はベルナデットが縛り上げられ壁に激突した時に落とした二つの魔銃を拾い上げ、銃口をベルナデットへ向ける。


「! ……っ」


すると、ベルナデットが敵意を剥き出しにして睨みつけてくる。


敵から目を逸らさない、と言わんばかりに、目線が俺から離れない。


俺はその目線から目を逸らさずに、引き金を引いた。


「!?」


ビクッ! と震えながらも目を見開き続けたベルナデットだったが、いつまでも魔力弾が発射されない事に首を傾げた。


「俺には魔力が無いのさ。だから魔銃も使えないし、ゴーレムを作り出せない。……つまりだ。俺は魔力の塊みたいな、『魔族』達じゃない。新たな疑問は生まれたろうが、取りあえず『魔族』じゃないと思ってくれ」


ベルナデットは驚きつつも、コクンと頷いた。逆さ吊りの状態で。


「となると不思議ですね。仮に貴方が魔族だったなら、『第八の公爵級』と噂されるのも納得だと思っていたのですが」


「……あー、ナンデダロウネ。フシギダネー。ダネフシー」


俺も公爵級って噂の出所は聞きたいよ。


もし出所が見つかったら槍の絨毯爆撃を食らわせてやれるのに。


「何故なんですか?」


「知らねーよ俺が聞きてーよ! 多分あれだろ? 強さが化け物じみてるから化け物イコール魔族でテラキオを退かせたから公爵級並みの強さでつまりは第八の公爵級なんじゃないかって言う新理論なんだろーよ言わせんな恥ずかしい!」


「申し訳ないです……」


「申し訳ないですじゃねーよこの不良巨乳娘! こちとらストームブリンガーって言う二つ名だけでお腹いっぱいだっつの! なのにどっかのバカが流したくだらん恥ずかしい噂のお陰で殺されかけたんだぞこのクマパンやろう!」


「ぎゃああー! 降ろしてください! 降ろしてください!!」


ようやく自分の状況に気づいたベルナデットが逆さ吊りの状態のまま、捲れてたスカートを手で押さえる。

が重力に逆らえずにスリットスカートはベルナデットの脚を隠せない。



「(勇、ダメっ子シスターに構ってる暇はないわ。空気が大きく振るえた。多分、来るわ)」


耳に付けた通信石が軽く振るえ、アリシアの声が伝わって来た。


だろうな。計ったように、夜明け前だ。


魔に属する者達は、昼間ではなく夜が本来の活動領域だ。


そして奴らがもっとも活性化し、能力が高くなるのが、夜明け前のもっとも暗い時間帯なのだ。


「………来た!」


魔法陣だ。途轍もなくデカい魔法陣が街の空を覆う。


魔力を有さない俺でもわかるほどの魔力を魔法陣の向こう側から感じた。


「この魔法陣……まさか、転移陣っ!?」


この声は多分ヘンリエッタだろう。  


そして、俺以上に魔力を感じ取れているせいか、悲鳴にも似た声だったそして次の瞬間、魔法陣を食い破るように、『ソレ』は現れた。


「……おいおい、マジかよ」


そこから現れたのは、俺がかつて倒した筈の、古竜エンシェント・ドラゴンだった。



その真名を竜の王(ヴァフムント)


バハムートなんて言った方がわかりやすいかな?


竜の祖と呼ばれる最古の竜(エルダードラゴン)と同列に語られ、森羅万象を司る自然界においての頂点。


竜と言うカテゴリーで最強の存在。


その竜王が血肉を腐らせながらも、降臨していた。


「(四つの翼に金色の邪眼、腐ってるが間違い無い。あれはヴァフムントだぞアリシア!)」


「(冗談でしょぉ!?)」


「(うるせぇっ!)」


通信石を通じてアリシアの叫び声が聞こえ、俺は思わず耳を押さえた。全く意味ないんだけどね。



「な、なんと言う大きさなのでしょうか……!」


この学院の時計塔程の大きさを誇る巨躯を見て、マナが振るえながら呟く。


「……あんなのが暴れたら、学園がめちゃくちゃになっちゃう」


エリが奴を見ながら言う。


それはそうだ。東京タワー程の大きさを誇る竜だ。前に進むだけで大災害だ。怪獣王も真っ青なスケールだ。


「……たく、操られちゃってまぁ」


皆が動揺を隠せない中、かつて相対した敵の末路を見て、情けないと思うのは俺だけなのだろうな。

生気など微塵も感じられないその奴の目を見て、俺はため息をついた。


「今のヤツに知能は感じられない。竜言語(ドラゴ・ロア)が使えない以上、ただの的だ。倒せない相手じゃない」


かつて俺は奴に苦戦した。


その大きな理由が竜言語魔法だ。竜が誇る膨大な魔力を前提に使われるそれは、守りは堅く、攻めは大地を割る程の威力を有する。


聖剣状態の俺でさえ奴の守り、竜鱗(ドラゴンスケイル)を貫くには多少の時間がかかる。

まぁそれさえ抜ければ後は心臓を破壊して終わりなんだが。


「戦力を集めれば十分戦えるだろうな」


聖剣を使う程じゃない。ただ暴れるしか能の無いデカブツなんて今の俺でも相手取れるくらいだ。


「そ、それだけであの巨竜が倒せるんですの!?」


「幸いここには実力者が多く居る。街の被害は大きくなるだろうが、可能だ。最悪朝を待てば自然消滅する」


「……被害を抑えるには、速く倒すしかない、って事?」


「そうなるな」


エリの問いに俺は頷き返し、ベルナデットを見る。

スカートと悪戦苦闘中である。


「ベル、……教会の代行者とやら。手を組まないか?」


「そっ、それよりも早く降ろしてください!」


逆さ吊りになっているせいかどうかは知らないが、ベルナデットは顔を真っ赤にしながらそう求む。

まぁ理由はわかってるんだけどな。


「(頼むアリシア)」


通信石を通してアリシアに言うが、ベルナデットの足に絡まってる魔法の鎖は消えない。


「(……アリシア?)」


すぐに消せるはずの魔法なんだが、一向に消えず、おかしいと思い振り向くと、自分に首を押さえ、静かに、悟られぬように苦しんでいるアリシアの姿。


「!!」


アリシア、と叫ぼうとして、俺は口を噤んだ。

正体がバレるから? 馬鹿言え。ゆっくり旅をしたくはあるが仲間の危機を前にそんな事言ってられるか。


理由が、あるんだよ。



「………」


アリシアの首元に漂う黒い何か(・・)と、そのアリシアの背後で、口元に指を立て、静かに(・・・)とサインを見せる、ボロボロのローブに身を包んだ、奴の姿。


「(フフフ。……お久しぶりですねぇ)」


ローブをすっぽりと被って影になったその口が、まるで裂けたように吊り上った。


「(貴方とこうして直接会い見えるのはこれで二度目でしょうか?)」


アリシアの通信石を介して、奴の声が脳内に直接届く。


「(ウムブラ、てめぇっ!!)」


「(フフフ。取引をしましょう)」


奴はそう言って、アリシア(・・・・)は口元を吊り上げた。


「(貴方は動かないでください。……こちらが提示するものは言わずともでしょう?)」


アリシアは自分の胸を手でノックするように軽く叩き、綺麗な顔を大きく歪ませて嗤った。




「(……さぁ、秤にかけなさい。

貴方の最愛の女性達の妹か、貴方とは全く関係のない者達の命を! 

フフフ……。さぁ見せなさい。貴方の魂が見せる輝きを!!)」


学園戦、第七話です!


次回、ようやく第七の公爵級との闘いになります!





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