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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
リズワディア学園編
52/192

月夜、骸の行進【5】

「……なんで、勇がここに?」


俺から離れたアリシアが疑問そうに聞いてくる。


「お前が此処に居た。

ウムブラの目的が分からない今、俺が一番に守るのはお前だからな」


そうフードを深く被り直しながら俺は周りを見る。

魔法陣の外で待機していた教師や生徒達が状況を把握しきれていないのか全員立ちすくんでいた。


まぁそうでしょうね。突然全身黒尽くめな野郎が現れたら誰だってそうなる。俺もそうなる。


例によって俺はあの、二度と着ないと誓ったはずの『黒き執行者ダークネス・エクセキューショナー』の、黒装束に身を包んでいる。

しかも勝手に改造されていたらしく、袖やコートの端にあった炎の刺繍は無くなり、代わりに外套のあちこちにベルトが付けられたver.2.0となった外套だ。


……婆ちゃんめっ、人の古傷を抉った上で更に一撃仕掛けて置くとはな。

確かにフードを直すとか言われて渡していたけど、改造されてたなんて知らなかったぞおい!


てな訳で、全身まっくろくろすけな俺なのだが、今言ったようにアリシアを守るために近くに張っていたのだ。


結界の修復を止めに来ない辺りウムブラの目的が更に分からなくなって来たが、まぁアリシアが襲われないで良かったって事で。


「ありがと、勇」


「おい、どこに行くんだよアリシア」


コートを脱ぎ、その場に落としたアリシアはドレス姿で歩き始めた。

その眼がやけに真剣だったから聞いてみたが、返って来る言葉はだいたいわかっていた。


「当然じゃない。お姉さま達ならここで立ち止まっていたりはしないわよ?


まだ外には魔物が居る。なら一秒でも早く民に安心を与えるのが王族よ?」


クスリと笑ったアリシアは、シルヴィアに重なって見え、そして……


「オリヴィアお姉さまだって絶対そう言うわ。」


アリシア達の長女だった(・・・)奴も、重なって見えた。


「勇、……力を貸して貰える?」


「お前らからのお願いは断れねぇよ」


アリシアの言葉に、俺は鞘に納めていた二振りの水晶剣を抜き払う。


「勇! 連れて来てやったぞ!」


「来たか、おっさん」


時計塔の入り口付近から、男の野太い声が聞こえる。マッチョなエルフ、ギレーのおっさんだ。


「紹介が雑だなぁおい」


「美人妻持ってるリア充にはこれくらいで十分だ!」


「へいへい、そうかよ。……って、お前に頼まれていたクルケルだ。グースカ寝てたから蹴り起こしておいたぞ」


「ク、クケ~……」


「この状況でも寝れるお前ってある意味スゲーよ」


おっさんが片手で持っていたドでかい鳥を俺の前に差し出す。

銀の羽並みの鳥、ズィルバだ。


「銀色の……、シュヴァルツとヴァイスの子?」


羽並みで気づいたアリシアが銀のクルケルを見て問う。ちなみにアリシアもシュヴァルツとヴァイスの事は知っている。


「おう。シルヴィアから借りてる」


「貴方のお名前は?」


「クケ? クケケー」


「うふふ。そう、ズィルバって言うの? 良い名前ね」


ズィルバのクチバシを撫でながら聞いたアリシアは、ズィルバ本人から名前を聞き出したらしい。


「さて、顔見せも終わった事だ。ズィルバはアリシアを乗せろ」


「クケー!」


翼を手のように動かし敬礼したズィルバはアリシアの前で、アリシアを乗せるために座った。


「んしょっ。勇はどうするの?」


アリシアがズィルバに乗りながら聞いて来る。


「これでも一応勇者を名乗ってた身だ。……危機を救うっきゃねーだろ?」


蒼と碧色の魔剣を手に、俺は駆け出した。






人間と言うのは、結構重たいものである。

例え、それが十二歳程度の女子達でも、その事には変わりない。


「もっとスピードは出ませんの!? 追いつかれますわよ!」


「こ、これ以上は無理ですぅっ!」


「一人が降りれば私とマナの二人乗りになって軽くなる」


「貴女今、暗に私に落ちろと言いましたわね!?」


「あっ、暴れないでください~!」


箒の操作をマナ、マナの後ろにエリが乗り、マナの前にはヘンリエッタが箒に一列に跨っている。

少女と言えど三人もの人間を乗せて飛ぶので精一杯な箒は、ヘンリエッタの言葉に返したマナの言うとおり、これ以上の加速は出来ず、後ろから迫る腐竜を振り切れず、その距離が段々と狭まって行く。


「くっ。……マナさん、そのまま真っ直ぐ飛んでくださいね?」


「えっ? ふにゃっ!?」


この状況に苛立ちを覚えたヘンリエッタが後ろ向き……マナと向かい合う形になって、迫る腐竜に向け杖を向ける。


「『Blitz(ブリッツ)Regen(レーゲン)』!」


杖の先から稲妻が放たれ、一頭の腐竜を捉えた。


が、


「むっ。……予想通り、ですわね」


稲妻を受けた腐竜は片翼を吹き飛ばされよろめいたものの、依然とヘンリエッタ達に向かってくる。


「翼が無くなったのに飛んでる。……魔法?」


「そのようですわね。……恐らく今回の事件、かつて先代勇者様達を死霊を操り苦しめた公爵(デューク)級の仕業ですわね」


ヒュ、と風を切り振るわれた杖。すると、ヘンリエッタを中心に雷球が現れ、その悉くが腐竜達へ放たれる。一撃一撃は弱いものの、マジンガンのような連射力のある魔法に腐竜達の鎧のように強固な鱗も崩れて行き、撃墜されて行く。


「そう……ってなんで知ってる?」


まるでその場面に居合わせたような口振りのヘンリエッタにエリが問う。


「……ほ、本で読んだだけですわ。『勇者列伝』第八巻には街一つを死霊の楽園に変えた外道、死霊使い『ウムブラ』が登場しましたの。

その時は聖女様とハイエルフの戦士の連携により打ち破られましたが……」


「あああぁっ! ね、ネタバレなんて酷いですよヘンリエッタ様! わ、わたひっ、楽しみにしてたのにっ!」


「なるほど、感情移入するタイプ?」


「今は関係の無いことを話している時ではなくってよ!?」


赤面しながらも飛来する腐竜を雷球で撃墜するヘンリエッタ。

撃墜数が二桁に昇った時、ヘンリエッタは舌打ちと共に手を薙ぐように払った。


「面倒ですわね……『Blitz(ブリッツ)Regen(レーゲン)』」


数えるのが億劫になるほどの雷雨が上空から腐竜に降り注ぐ。

夜を昼に変える、視界を覆う程の膨大な光が溢れた後、雷鳴が鳴り、稲妻が多くの腐竜を焼き尽くした。


「……流石は、『姫騎士』」


目の前で行われた圧倒的な戦闘に、あまり表情を見せないエリが興奮したように頬を紅潮させる。

だが、当のヘンリエッタの顔は優れない。


「この程度しか落とせないなんて……やはり下位とは言え竜種ですわね」


予想以上に堅牢な鱗の鎧にヘンリエッタは舌打ちをする。


「普通、あんなに倒せない」


「普通であるならば『姫騎士』などとは呼ばれませんわ!」


そう答えながらヘンリエッタは稲妻と雷球を連続で撃ち続ける。

だが、先ほどの一撃が敵にヘンリエッタ達の存在を強く認識させたのか、ヘンリエッタの魔法が追いつかない程の数の腐竜が集まり始めていた。


「どんどん集まって来てます~!」


箒を巧みに操り、建物の間をくぐり抜けたりして振り払おうとするも、腐竜は旋回速度も速く中々振り解けない。


「っ……数が多すぎ」


口を開けて食らいつこうとした腐竜の顎を精霊(スタンド)で殴り砕きながらエリは舌打ちする。


「私、並列発動は二つまでが限界でしてよ?」


不敵に笑いながらも背筋に冷たいモノを感じながら魔法を放ち続けるヘンリエッタ。


「うぅぅ~~っ……え?」


三人は暴風に襲われた。


「きゃあああぁっ!」


「な、なんですの!?」


何か(・・)、通った!」


箒は二転三転と回転しながらも乗る三人の少女達を落とさずに空中で止まった。


「一体何が!?」


少女達は見た。先ほどまで自分達を食らおうと迫って来ていた腐竜達が、圧倒的速さで空を翔る何かの余波(・・)に触れ砕け散り、肉片と化して行くその光景を。


「……誰か、いる」


エリは何か(・・)が放たれたであろう方向に眼を向け、それを捉えた。


まるで闇に紛れる黒装束に身を包む人影。


「まさか、あれはっ!……グラード荒野に現れた、名前以外の全てが謎に包まれているという、謎の剣士」


先の戦争において軍を派遣していた騎士の国クレストリアの姫がその姿を見て、眼を見開く。


死を与える風(ストームブリンガー)、その名も、黒き執行者ダークネス・エクセキューショナー! ……何故、彼がここに!?」


夜を引き連れるかのようなその存在はそのフードの奥の双眸で、空を見上げていた。


お待たせしました、無双回の序章でございます。



名前の件、皆様ありがとうございました。 二代目は様子見で、鳥の名前は引き続き考えて行きます。


引き続き皆様の案、お待ちしています。




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あまりの痛さに震えが止まんねぇよ
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