先代勇者の熱血指導? その1
あの後、アリアドネさんと論争を繰り広げたものの、無事に白スクと制服を織って貰う事になり、ベルナデットを肩に乗せアルティエラから帰って来て二日経ち、俺はリズワディア学園で三回目の授業を行っていた。
「『ディマ・ヨルゲ・トゥール・エレメンティア』
これはアレクセリア語でもっとも多く使われている言葉だろう。何しろ魔術を発動させるための始動キーだからだ。
始動キー。イシュレール語では無い要素の一つだな。
始動キーの有無の差はその成り立ち、在り方の違いとも言える。キース、どうして違うと思う?」
「わかりません!」
「素直で声が大きい事は良い事だ。
イシュレール語を始めとした多くの魔術言語と、アレクセリア語の違い。……まあ簡単に言うとイシュレール語とかは精霊の力を無理に引き出し世界へ干渉する事により現象を起こすのだが、アレクセリア語は精霊を褒めて褒めて褒めちぎってやる気になってもらって世界へ干渉して貰う………って感じだな」
黒板にチョークで先の単語の訳を書きながら説明する。
「『ディマ・ヨルゲ・トゥール・エレメンティア』。訳すと『どうか聞いてください精霊様』……て感じだな。アレクセリア語を使うやつもそういないだろうけど、注意して欲しいのが『ヨルゲ』だな。これを『ヨルグ』とすると対等、または相手よりも上からの物腰となってしまう」
文の一部を丸で囲む。はい、ここテストに出まーす。
ガラァン………ガラァン。
「お?」
リズワディアの時計塔にある鐘が授業の終わりを告げる。
途端に生徒達が、「終わった~!」と騒ぎ始める。
なんと言うか、異世界もこう言うところは変わらんな。
「皆さん、まだ授業は終わってなくてよ?」
少しキツい言い方でヘンリエッタがその生徒達に言う。
ヤバイヤバイと佇まいを直した生徒達から今度はヘンリエッタが俺を見る。 「どうぞ、進めてください」と言う視線だ。
「んじゃ今日の授業は終わりだ。頼む」
「起立! ……礼!」
クラスの委員長の立場なヘンリエッタが起立すると、それに続き生徒が全員立ち上がり、俺に礼をする。
「「「「ありがとうございました! 」」」」
「おう、お疲れさん」
授業の終わりの挨拶を終えると、生徒達が騒ぎ出す。
なんてったってようやく昼休みだからな。
リズワディアの授業は少し変わっていて、一日に行う授業は一科目だけと決まっている。
途中休憩は取るものの、数時間ずっと同じことを繰り返していては疲れるだろう。
まあ一日の間同じ授業をする理由はちゃんとあるので文句は出ないのだが、
「これは教師にも結構重労働だよなぁ」
午後からは選択科目になるものの、午前授業はずっと、だ。
こう息をつく間も少なくちゃな。
「ヤシロ先生!」
「あ?」
色々教材を纏めていると声を掛けられたのでそちらを見ると、五人くらいの男子生徒が教卓に近づいて来ていた。
「放課後って、空いてますか!?」
……な、何故目を輝かせながら聞いてくるの?
「あー、うん。……空いてるけど?」
「本当ですか!?」
本当ですが何か。強いてあると言うならば腹ペコシスターさんからリズワディアのデザート制覇に誘われたりしてるけど、まあ生徒の事を優先しても悪くはないだろう。
「俺たちに、魔法戦闘を教えてください!」
「……へ?」
「魔法戦闘です!」
「俺達、ヤシロ先生みたいに強くてカッコいい魔導師になりたいんです!」
「オレもです!」
キース君だけでなく、周りの男子達も前に出てくる。
「…………強くてカッコいい?」
「「「「「はい! 」」」」」
男子達が力強く頷いた。
……ふ、フフ。……そこまで言われちゃ仕方ない。生徒の頼みを無下にする訳にもいかないしな! 臨時だとしても、今の俺は講師、つまりは彼らの先生なのだ!
「放課後、第二演習場に集合だ……先ず、君たちの力を見させて貰う」
腕を組み、いつもよりイケメンな顔(当者比)でクールに告げる俺。
歴戦の戦士っぽくそう言うと、キースら五人の男子生徒達は、
「「「「「はい! 」」」」」
と大きな返事で答えた。
…………なんか、なんか良いぞ。
この頼られてる感!
「あ、あのっ…!」
「ん?」
俺が悦に入っていると、突然後ろから声を掛けられた。
振り返ると、そこには眼鏡っ子のマナ・ルリエとクールな黒髪ロングっ子のエリ・テレストリアが居た。
「わ、私にも、教えてください!」
ブルン!
勢い良く頭を下げたマナの、ローブに隠されたその双丘が音を立てて揺れた(幻聴)。
「す、すげぇ」
「流石二科生の最終兵器だ」
「挟まれてぇっ…!」
俺の後ろだ男子達がその迫力に感嘆の声を上げる。
ふふん! 俺はあのきょにゅーを間近で見た事があるんだぜ! 良いだろう!
「……ヤシロさん、鼻の下伸びてる」
「おっと」
物静か、と言うよりクールなエリが無表情のままニヤリと笑うと言う地味に凄い表情を見せる。
ダンディズム溢れる頼れる男な俺は、キリッ、と表情をイケメン(当者比)に戻す。
「で、教えるって……魔法戦闘をか?」
「はい! ……私、魔法戦の成績が悪くって……」
あー、……うん。わかる、わかるよ。そのおっぱいがじゃまになるんだと思う。だからそのおっぱいを減らす作業から入ろうか。おれが揉んで減らせば、胸が小さくなってマナは嬉しいしおれはおっぱいが揉めて嬉しい。
互いにWIN WINな関係になれると思うんだがどうだい?
ゴスッ!
「グフッ!? ……い、いきなり、何すんだ、テメェ……」
鈍い音と共に額に激痛が走る。痛みに反応が遅れるも、その痛みの原因がわかり、俺はエリを見る。
「マナのおっぱいは、私以外には触らせない」
俺の額に延びた腕は、エリの前に立つ、筋肉隆々の、半透明な幽霊みたいな男の丸太のように太い腕だ。
下半身辺りから霞んで見えず上半身だけのそれを、俺はアリシアに教えられ、知っていた。
あれは、精霊召喚だ。
常に傍に居て常に傍に居ない存在、精霊。
精霊召喚と言うのは、その召喚した対象を使役し、制御下に置くと言う召喚師の派生みたいなものだ。
精霊召喚と通常の召喚。どちらも使役対象と契約する必要があるのだが、通常の召喚は立場の上下関係がはっきりしている。もちろん召喚師が主人だ。
それに対し精霊召喚師は、精霊と対等の立場での契約となるらしい。
友人や仲間、そう言う意識が大切だと確かアリシアも言っていた。
赤い光のもやで形作られているようなエリの精霊が俺に振り抜いた拳を戻し、腕組をしてエリの背後に立つ。
「まさか、精霊にデコピンをさせるとはな」
「ヤシロ先生は、たぶん歴戦の戦士。……ただ闇雲に振るう拳では、届かない」
「だから奇策に及んだ、と。……二度目はないぞ?」
「わかってる。……通じているなら、デコピンすらいらなかった」
俺とエリが向かい合う。そしてエリの背後には、精霊が腕を組んで決戦の時を待つ。
俺達の間に生まれた緊張感が最高潮に達した時、ソレは動いた。
「や、ヤシロ先生!」
「あ、ごめん。忘れてた」
若干涙目になっているマナ。……な、なんだろうこの不思議な気持ち。そう、これはあの時の、ルクセリアの巨乳ちゃんじゃない方の受付嬢を問い詰めまくった時なような……
ゴスッ!
「あだっ!?」
「マナを泣かして良いのは、私だけ」
「まさか二度目も当ててくるとはな」
「マナが泣き顔を見せてなかったら、負けてたのは私」
「殊勝な事だ……三度目はないぞ?」
「真っ向勝負……受けて立つ」
「ちゃっ、ちゃんと聞いてください先生!」
怒られちゃった。
「で、なんだっけ? マナも受けたいって?」
「はい!」
力強く頷いたマナ。
ううむ……やる気があるのは良いが、そうそう簡単に上達はさせてやれないぞ? 俺基本魔法使えんし。
「でもお前体力無いじゃん」
「そうそう、マナって直ぐに休むしさ」
男子達が苦笑混じりに言う。
確かに、魔法剣士タイプには見えないな。むしろ研究者タイプに見えるのだが。
「っ……で、でも……私、頑張ります!」
マナが目に涙をためながら俺を見る。
……ふむ。自分の体力の無さは自覚しているみたいだな。
なら。
「わかった。マナも良いぞ」
「ほ、本当ですか!?」
パァッ! と、顔を上げ笑みを見せるマナ。
その隣で、エリが――エリの精霊が挙手をする。
「精霊に手を上げさせるな。質問があるなら自分で手をあげろ」
「当然、私も参加」
質問ですらなかった。
七人か………んー、こりゃ面倒になって来たぞ。
「ま、良いか。……おう、好きにしろ。放課後な?」
「「「「はい! 」」」」
「は、はい!」
「はい」
頼られてる感が嬉しく、俺はニヤケそうになるのを堪えながら颯爽と職員室へ向け歩き出した。
◇
「……で、確かにオーケーを出したわけだが、……何でお前ら二人も来てんの?」
演習場に着くと、そこには男子達とマナとエリ、そしてアリシアとヘンリエッタが居た。
「んふふ~。妻ですから」
「おいバカやめろ。俺のロリコン疑惑がががが」
アリシア、この野郎っ……この間のカミングアウトから段々と周りに猫を被らなくなって来やがった!
「わ、私は、貴方のような破廉恥な教師を許しておけないだけですっ!」
キッ、と鋭い目を俺に向けるヘンリエッタ。
ヘンリエッタもヘンリエッタでこの間の一件から俺を完全に変態視してやがる。
……いや、確かにまごうことなき変態なんだけどね? なんと言うか、やっぱりロリコンだと思われてるんだよ。
まあこうは言うがさっきみたいに授業中に俺のフォローもしてくれるし、認めて貰えたとは思うんだが………
「ま、別に良いか。そこまで凄いこと教えないし」
「「「え~?」」」
俺の言葉に目に見えてがっかりする男子達。マナも少し残念そうだ。
「まず俺がお前達に教えることは、『人間なら』誰でも潜在的に持つ魔力を使った技……正確には歩行術だ」
残念がる生徒達を他所に、俺は一瞬で彼らの背後に回り込む。
「「「「!!?? 」」」」
突然視界から消え、一瞬で背後に現れた俺に、アリシアを除く生徒が全員驚いた。
……ヘンリエッタだけは、驚きの中に少しだけ嬉しさ、みたいのが見て取れた。
『これ』を教えて貰えると悟ったのだ。
「これはヘンリエッタと戦った時にも軽く見せたな? ……この歩行術、『襲踏』を教える」
実は制服よりも当初はこちらのような技を教えたりするのをメインにしたかった学園編。
何故こんな遠回りになった………(笑)
更新スペースが落ち、誠に申し訳ないです。
次からアクション多目なので早くできれば…と思います(笑)
感想、お待ちしていまーす!




