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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
リズワディア学園編
41/192

『先代勇者番外編・渚のビーチに野郎の喫茶』

 青い海、白い雲。

波打つ海は太陽の光を受け宝石のように輝いて

いる。

 夏真っ盛り。海に遊びに来た者たちは男も女も水着に着替え、夏の暑さを海の冷たさで洗い流す。

そんな海水浴に来た者たちを、最早殺気にまで昇華した嫉妬心を垂れ流しながらとうもろこしを焼く少年が一人。

 「おかしい。……何で、主人公の俺が汗水垂らしながらトウモロコシ焼いてんだよ。ここはヒロイン勢とのきゃっきゃっウフフな場面だろ。そもそもなんで海の家で働いてんだコラ。俺が行かなきゃポロリイベントが始まらんだろうが。あざといくらいのエロ回のはずだろうが。大体なんでトウモロコシなんだよ配膳で良いだろうがナンパさせろよコラそもそも……」

 「愚痴はそこまでですよ勇。休憩まで後二時間しかありません。ラストスパートです」

 「もうかれこれ五時間はトウモロコシ焼いてるっつーの! 後二時間もおてんとう様に当てられながらモロコシ焼けって!? 死んじまうっつーの!」

 「貴方は死なないじゃないですか」

 「そういう問題じゃないよね!? あ500円(番外編なので円で)っス。ありがとうございあっしたー」

 網の上で焼かれるトウモロコシを、最高の焼き加減で客に提供しながら、先代勇者の社勇は涙を流す。

 「海と聞いて喜んでたら海の家でアルバイトだと?ふざけてんのか?」

 「愚痴は全てノルン様にお願いします」

 汗ひとつ流さずに涼しい顔で答え、勇の隣で焼き鳥を売る金髪の男、レオンハルトは串に刺さった鶏肉にタレを掛ける。

 ジュウッ!

 タレが網に触れ、香ばしい匂いとともに空腹を呼び起こす音が奏でられる。

 「……そうだな。少し暑くてイライラしてた。許してくれ」

 勇とレオンハルト、何故二人がこんな真夏の日差しの下、砂浜に足の裏を焼かれながら網焼きと言う地獄にも等しい苦行を行っているかと言うと、『時の魔女』こと、ノルンのせいだと二人は強く頷ける。

 「ふふ。構いませんよ、勇。今の私と貴方は運命共同体。……共にこの苦行を乗り越えましょう!」

かつて共に死線を越えてきた戦友の言葉に、勇の目頭は熱くなった。

 「そうだな、レオンハルト。一緒にこの地獄を乗り越え……おいテメェ、やけに涼しい顔してると思ったら、何腰に佩いてんだ」

「おや、バレてしまいましたか。もちろん、私の愛剣『グラスディーバ』ですが何か?」

 涼しい顔で答えるレオ。彼の腰には、鞘に納められた魔剣が携えられていた。

【魔剣・グラスディーバ】

スキル

・凍結系魔法の性能UP

・MP消費率30%減

・耐暑

 耐暑。耐暑……。

 「運命共同体ならソレ貸せ」

 「ハハハ……残念ですがお断りですね」

 ジュウ……。

あははは~

うふふふ~

そ~れ!

もうっ、つめたいよ~!

 鶏肉を、トウモロコシを焼く音が、見知らぬカップルの幸せそうな声が、真夏の海に解けて行く。

 ジュウ………。

ジュウ………!

 「我が魂は願う(アンリミテッドディザイア)!」

 「貴方の技で、貴方を越えてみせましょう……!」

 勇が光り輝く剣を掲げ、レオが居合いの構えを取る。場に緊張が走った。

 一触即発の雰囲気の中、一歩前に踏み出したのは、第三者だった。

 「このクソ忙しい時に、何遊んでんだ、テメェら」

 口元を吊り上げながら拳を鳴らし、バランシェス帝国の皇太子、イーブサルが現れる。

 「これが遊んでいるように見えるならお前の目は節穴だな。良い医者を紹介してやろうか?」

 「私も腕利きの医師を呼びましょう。それで貴方の節穴も治る事でしょう」

 「テメェら仲悪いのか良いのかハッキリしやがれ」

 大きなため息をつきながら、イーブサルはその炎の様に赤い真紅の髪を掻き上げた。

 「で? お前こそ何やってんだよ。おっさんと二人っきりの厨房は飽きたか?」

 焼きあがったトウモロコシを皿に乗せ、まだ生のトウモロコシを網の上に乗せながら勇はイーブサルに問う。

 子猫の鳴き声亭を休業にしてくれてまで駆けつけてくれたギレーは現在この『海の家ノルン』の厨房を仕切っていた。

 厨房スタッフはギレーにイーブサル。網焼き専門は勇とレオだ。

 「あぁ、まさにそのことだ。エルフのおっさんが買出しに行けとよ」

 そう言ってイーブサルは勇に一枚の紙を渡す。

 「うげ、すげえ量だ。金は?」

 「領収書持って来いってさ」

 メモ用紙の裏表にビッシリと書かれた単語の数と、購入数を表す×と数字が示す量にため息を付いた。

 「モロコシは?」

 「一時的に販売中止、食材が届き次第再開させるらしい」

 「オーケー。三十分で行ってくらぁ」

 そう言ってサンダルを脱ぎ足に力を込めた勇。

 彼の姿は一瞬で消え失せた。

 「私はどうすれば? 鶏肉も在庫が怪しいのですが……」 「勇が来るまで中を頼む。もうそろ昼だからって客が集まり始めてやがる」

 「なるほど、了解しました」

 レオは頷くとテキパキとした動きで食材を片付け始めた。



 「こりゃなんぞや」

 きっかり十分。聖剣を顕現させ勇者としての能力を全開にした勇は南ゲール諸島から遠く、リーゼリオン皇国近隣に生息するプリティスライムの肉塊に、ファンシーシープの毒毛、バランシェル帝国ラゲイル山脈に生息するキューティードラゴンの不死の心臓と邪目、ルクセリア王国の南南東のクートリアの湖畔に生息するハートリヴァイアサンの覇ヒレに天キモなど、狩猟ゲームでなら入手率が1%以下だろうレアアイテムを、文字通りもぎ取って来た。たった三十分でそれを終わらせた勇は、たった三十分の間で様変わりした海の家の様相に割りと本気で驚いた。

 「おかえりなさいませ、お嬢様。冷たい紅茶が用意してありますよ」

 燕尾服を着込み、完璧な所作で女性をエスコートするレオンハルト。

 騎士故か、その姿に違和感が感じられない。むしろお前執事なんだろ? と決め付けてしまいそうだ。

 普段お姫様の相手をしている事を活かし、接客で女性客をお姫様扱いする。

 「ふふ、お似合いの水着ですよお嬢様」

 台詞の一つ一つに、女性客の心はときめく。

 「フンッ、やっと帰って来たか。……ほら、こっちの席だ、俺から離れるなよ?」

 こちらもまた燕尾服を着て席へ女性を連れて行くイーブサル。レオンハルトが爽やかな青年執事の鑑なら、イーブサルはヤンキーのような執事だ。ネクタイも曲がっているし、シャツのボタンも第三ボタンまで開いて、鎖骨辺りまで見えている。

 そんなだらしない格好だが、イーブサルの持つ特有のワイルドさがその格好で更に目立つ。そっけない態度もまた、女性の心をくすぐる。

 「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 レオンハルトほどではないものの、真面目な態度で女性たちの母性本能をくすぐる天城カイト。

 「外はとても暑かったでしょう。アイスティーをおススメします。お嬢様に美味しく頂いてもらえるように、幾つかの種類をブレンドした特製品です。……どうでしょうか?」

 淡々と勧めながら最後ではにかむ姿に、女性は財布の紐を投げ捨てる。

 「お、お待たせいたしましたご主人様! ご注文をどうぞ。……お、おさわりはメニューにありませんっ!」

 全員執事服に身を包んでいる中、一人だけフリフリでミニスカなメイド服を着て少ない男性客を相手にするのはアキラだ。

 小柄な彼は、その愛くるしい容姿と、庇護欲を煽る小動物のような性格が相まって、執事喫茶と化した『海の家ノルン』内でアイドル的な位置を獲得している。百合系の女性の相手も、彼が一手に担っている。

 ……さて、ここまで従業員の説明してなんだが、つい三十分ほど前まではただの海の家だった。 

 がしかし、勇の目の前に立つのは少し小さめながら立派な洋館だった。

 女性客の行列に数人男性が混ざっているその長蛇の列は、ナツコミ時を連想させる。

 あの戦場へ赴く戦士達は足並みを揃えて進軍する。あまりの暑さに脱落していく戦友 の屍を越え、戦友たちの分まで戦い抜くと決めた彼女彼らは、手に従業員のグッツを手に熱砂を歩む。

 あまりの変わり様に驚く勇を、誰が責められよう……。

 「カカッ。驚いているようじゃのぅ、汝れ」

 「現れやがったなばあちゃ……」

 振り返った勇の目に映ったのは、白のワンピースを着た、全身を小麦色に焼いた透き通る様な白い髪を持つ幼女。

 『時の魔女ノルン』だ。

 サングラスに白のパーカー、そしてつばの広い麦わら帽子を被る彼女は、真夏の渚に似合うものの、居てはいけない筈の存在だ。

 まあそこら辺は番外編なので気にしてはいけない。

 「なにはっちゃけてんだよ」

 「カカッ。妾が幼子ではなく、レディーだと言う事を忘れておるようじゃのぅ」

 「アンタが千越えたババァだと言う事を忘れんな」

 「まぁそれは置いておいてじゃ。今汝れが考えている事を当ててやろうか?」

 「外せる奴はいねぇよ」

 「今時流行の執事喫茶をやってみたかったのじゃ」

 「俺の疑問の声じゃなくてその答えを先に言うな!」

 楽しそうに胸を張り言い切ったノルン。

  




次回へ続く?



今までスマフォで投稿していましたが、ついにPCを購入したのでそちらで投稿!

テスト的な物なので読み難いでしょうが……ご勘弁を。


あとあえてヒロインを投入しない話を書いてみたかったりもしてたので一石二鳥。



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