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二代目勇者のはじめての戦い

二代目編は基本戦闘メイン。


基本R-15かと。


俺の名前は天城海翔、高天ヶ原高校の二年生だ。


普通の男子学生を自称していた俺だが、なんの間違いか異世界に来て勇者になんてなってしまった。


……正直怖かったりする。勇者の任を受けた後にこんなこと言うのはあれだが、なんで俺が勇者なんかになったのだろうか。

………いや、俺にこの世界の人たちよりも大きな力を持ってるんだ。

なら、その力を役立てないでなんになる?


魔力測定を終えた俺達は宮廷魔術師と言う人達が束になっても叶わない魔力量を誇るらしい事を知った。

魔法の使い方さえ学べば誰よりも強くなるとも聞いた。


だから戦う。力が、あるから。



「勇者殿?」


ふと考えに耽っていると、後ろから声を掛けられた。


「えっと……リーシェ…さん、でしたよね」


「私の事はリーシェとお呼びください。……月見ですか?確かに今日は良い蒼月の日です」


僕らを召喚したルクセリアと言う国に遣える女性騎士リーシェさん。月に照らされその金の髪は蒼白く輝いている。


…………蒼い月。


リーシェさんが言った通り俺の視線の先には闇夜を照らす()い月が爛々と輝いている。

俺たちの世界にはなかった、明らかな差異。ここが異世界だと否応なしに思い知らされる。


「……眠れないのですね?」


「え………な…んで」


彼女の言葉に、思考の渦に巻き込まれかけていた俺は驚いた。


確かにそうだったからだ。


茜や咲夜、晶に社君は今ごろ寝ているのだろうが俺はどうにも寝付けず、お城の中庭を散歩していた所だ。


魔力測定後、身体の中で渦巻く魔力を感知出来るようになってしまい居心地が悪いのか、はたまた―――


「誕生日を前日に控えた子供のような目をしてらっしゃいます」


「え…?」


月夜に照らされた騎士は笑みを見せた。


「当たりの、ようですね」


ニコリと笑った彼女に、俺は恥ずかしく思った。


「みたいです。……力があるから戦わなくちゃ、なんて息巻いてたけど結局……俺はワクワクしてるだけなんですよ。……だって、勇者だ。格好いいよ、こう言うのに、俺は成りたかった!」


そう、興奮していたのだ。勇者と呼ばれ混乱してはいたが、今日、魔力と言う超常の力を手に入れ、それを使ってみたい(・・・・・・)と思ったのだ。


勇者になって、世界を救う………そんな大層な、普通の人間では出来ないような事が、今目の前に待ってるんだ!



「子供みたいにはしゃいでるだけなんですよ。勇者なのに、カッコ悪いでしょう?……」


幻滅させてしまっただろうか。気になり彼女を見やると、彼女はクスクスと笑った。


「カッコ悪くなんて、ないです。……子供の頃、人はすべからく騎士や英雄………偉大な者に憧れを抱くものです。騎士になってやる、勇者になるんだ!……そう息巻くんです」


彼女は蒼い月を見上げながら、続ける。


「けど息巻くだけでは成れません。あの時は子供だったんだ、などと過去の、子供だった頃の想いを否定しては到底成れないのです。

……私は三年前、勇者様と共に戦っていた聖女様と出会いました。勇者様の事は多くを覚えていませんが、聖女様の事は良く覚えてます。私は、あのような優しく、暖かい人間に。そして、その暖かさを守る勇者様に憧れ騎士を目指したのです」


彼女はクルッ、と俺に向き直る。


「未だ若輩者ながら騎士には成れました。……想いを忘れず否定せず。……ですから勇者殿。貴方も今の想い否定せず、貫いて、勇者となってください」



そう言って笑った彼女。


その背後で、何かが歪んだ。




「ッ、誰だ!」


彼女が先ほどまでの優しい声とは正反対の、どこまでも冷たい声で叫ぶ。


それに呼応してか、何処からともなく、炎が爆ぜた。




「ふふふ、随分なご挨拶だ。わざわざ一人で来てやったのに、さ」


炎の中から現れたのは、炎のように紅く煌めく髪を持った長髪の少女。


それだけだったらまだよかった。……だが彼女の肌は、蒼い月に照らされ、蒼白さが増していた(・・・・・・)



「魔族っ!?」


リーシェが腰に佩いていた両刃の剣を抜き払う。

そしてリーシェの言葉に俺は絶句する。


コレ(・・)が魔族!


紅髪の女を見た瞬間に抱いた強烈な不快感。その理由が解ったのだ。


人類の敵。世界を喰らう者達………


「ご名答。俺は魔王軍六刃将が『炎斧の戦姫』、なんて呼ばれて―――」


「覚悟おぉぉっ!!」


リーシェが魔族の女が言い終わるより速く駆け出す。白銀の剣に光が集い、極光の剣となったソレを魔族の女に向け振り払う!


「クハハハッ!。話の最中に切りかかってくるなんざ、そんなに必死にならなくてもいいじゃないか」


がしかし魔族の女は異名の如く炎で作られた斧槍(ハルバード)を片手に防ぎきる。


「そ、そんなっ…私の、魔装剣が……!」


己の必殺を容易く防がれた事に目を見開くリーシェ。


「甘い甘い。アイツ(・・・)の技はもっと恐ろしいもんだったぜ?同じ技で随分違う!」


ギィンッ、と剣を弾かれるとそのまま距離を取るリーシェ。


「俺は今他の奴等と殺り合う気分じゃねぇんだよ。テメェは黙ってな」


金色の瞳が俺とリーシェを射抜く。

すると途端に、身体の自由が奪われた。


「ぐっ!…こ、この見えない縛鎖(ばくさ)ッ、貴様は、『断罪のアグニエラ』だな!?」


身動きが出来ない状態ながら果敢に挑もうとするリーシェ。


その態度が、いけなかった。



「……ったく、本当に失礼だなぁ人間って言うのはよー。

それは仇名だから止めて欲しいんだが?……それともなにか?俺と対等(・・・・)だとでも錯覚してんのか?」



ぼんっ。そんな軽い音と共に目の前のリーシェの頭が爆ぜた。




「………え?」



「俺がそう呼ぶのを許すのは一人だけなんだよ、クソが。……あー、たく、久しぶりにアイツと戦れるって思ってたのによー。気分悪いぜ」



魔族の女は苛立たし気にそうぼやくと、視線を海翔に向けた。








なんだよコレ。……なんなんだよ、コレ(・・)




目の前に転がるのは、頭だけがきれいに無くなった死体。

吹き出す鮮血が、つい先程まで生きて《・・・》いたと知らせる。





なんなんだよ………なんなんだよ!!


暖かい人に、なるって、言って、……想いを、貫くって………………




「おい、テメェは勇者(・・)を知ってるよな?生かして欲しいなら居場所教えろ。こっちから出向いてやるぜ」



勇者?



「……ちゃんと聞いてんのか?人間!」



…………勇者って誰だよ。



魔族を、魔王を倒す勇者って、誰だったよ。








「あ?……んだその目付きは。……なーる、テメェも死にたい部類みてーだな。……たぁく、アイツと死合う前に雑魚相手なんて萎えるよなー」


目の前で女が死に、目に見えて震えていた人間が、突然もの凄い形相で睨んで来た。


別にそれに恐怖したわけじゃない。この程度の殺気なんて、アイツ(・・・)程じゃあない。


ムカついただけだ。


アイツ以外の人間はみんなクズだ。雑魚だ。

下等生物だ。


そんな雑魚が怒りを露に睨み付けて来た(・・・・・・・)んだ。





ま、こんな奴サクッと殺してアイツと早く会いたいぜ。


そんな風に思った俺の視界が、グラリと回った。



「……あん?」


気づくと俺の視界は開けていて、満点の星空と蒼月が見下ろしていた。


チラ、と視線を横に向けるとそこには俺の下半身(・・・)と、アイツと同じ、確か魔装剣っつったか?。


光る剣を振り抜いた姿勢の、さっきの人間。





「……へぇ、やるじゃん」



先程の苛立ちが吹き飛び、歓喜が身を震わす。

ただの雑魚が、俺に一矢報いたのだ。


自分の想像を越えて見せた人間に、アグニエラは興味を持った。





「お前が言っている勇者って言うのは、先代勇者の事か………?」



「あん?」


魔族の頂点に位置する魔王。その配下にして最強の六刃将の彼女を、人間が見下ろす。



「……俺は当代の勇者、天城海翔。………貴様ら魔族を、根絶やしにする者だ」


その少年の瞳には、憎悪が刻まれていた。





「へぇ。………テメェみたいな雑魚が勇者だと?……」


切り伏せた魔族の女は楽しそうに嗤う。


「何が可笑しいッ………」


怒りに我を忘れ、感情に支配されている海翔は気づけていない。上下に切り離された身体から、一滴たりとも血が溢れていない事を。


「荷が勝ちすぎだよ」


気づけば、彼の背後から女の声が聞こえた。



「なっ!?」


瞬間、上半身だけで転がっていたアグニエラの身体が炎に包まれ、一瞬で鎮火する。



「俺達魔族(・・)は高い不死性を持ってる。……今みたいに手加減すると、……死ぬぞ?」


首筋に焼けるような痛みが走る。いや、焼けている。


「ぐっ………うぅっ!」


「どうだい、俺の炎斧は?。触れていないのに、熱いだろう?」


首筋近くに迫る炎の刃が、肌を焦がす。


(このまま、殺されるのか、俺は)


肌を焦がす熱が死を予感させる。このまま少しでも刃が身体に触れれば全身に炎が回り焼死する未来を幻視する。


(イヤだ、死にたく、死にたくない……俺は、俺はただの学生なんだ。俺は、勇者なんかじゃ―――――)


「……クハハ。やっぱりアイツとは違う。こんなことしたら俺が殺されてる所だった」


そう言って、アグニエラは炎斧を引いた。





「っ、はぁっ………はぁっ…!」


焼けた首筋を抑える。痛みが横に…刃の跡に沿うように走る。



「勇者様っ!」


「海翔!」

「無事か!」

「海翔さん!」



痛みに踞っていると、知った声が俺を呼ぶ。


ルクセリアの王女、イリス・クラウデ・ロ・ア・ルクセリアさん。


幼馴染みの茜に、剣道の師匠の咲夜、親友の晶。


…………俺は、生きてるのか?。


皆の声を聞いて、ようやか痛みを理解した。


痛い。俺は今、痛い。





生きて、いるんだ。





「あーあ、だらしねぇ。……しかしアイツに会えるって思ったから来たのに勇者ってだけの別人とはな」


アグニエラは炎斧を肩に担ぎ、目の前で気絶した二代目勇者(・・・・・)を見下ろす。


「アイツの代わりにゃなるか?……いーや、無理だな。アイツの…ユーヤ(・・・)の代わりなんて誰にも出来やしねぇ」


くつくつと嗤うアグニエラは炎斧を掻き消した。




ジャラジャラジャラジャラジャラジャラッッ!!


「……おお?」


武装を解いた一瞬を狙ったのか、どこからともなく現れた鉄鎖に身体を縛られる。


「こいつは……天狼の楔(グレイプニル)………そう言えば、人間の王族には強力な魔法を使う奴もいたっけ」


「このまま貴女を絞め殺す事も可能ですっ。……答えて貰いましょうか。先ずは貴女の名を。そして、何故魔族の貴女がここに居るのかを」


右手を突き出したのは金糸のような髪を靡かせながら、強い、眼差しでアグニエラを睨むルクセリアの姫、イリス。


その姫の言葉に気を悪くすることもなく、楽しげに答えるアグニエラ。


「俺の名はフラム。『炎斧の剣姫』なんて呼ばれてる。安心しなよ、俺は何も戦争おっ始めるつもりなんかないんだよ。ただ勇者と一戦交えたくてなぁ」


アグニエラの答えにイリスの表情に焦りが生まれる。


「勇者召喚を気づかれないと思ったのか?。……まあそれに関しては良いや。問題はそいつが勇者ってだけの別人だったって事だよ。俺はユーヤ・シロウ(・・・・・・)と戦いたかったんだがなぁ。……そんな所かな」


言い終わるか否か、アグニエラを縛っていた天狼の楔が更にアグニエラの身体を締め付け、鎖の一部が首まで締め付けた。


「魔王軍が頂点、六刃将………この場でっ」


ルクセリアの姫は魔族であるアグニエラをこの場で殺そうとした。

だが、


「馬鹿だなぁ。……殺せないくらい強いから頂点なんだぜ?」


神すら縛り上げる天狼の楔が、焼き切れた(・・・・・)


「クハハハハッ!そこの二代目に言っておけよ?。……『強くなれ』ってさ。……クハハハハっ、楽しみだぜ」


そう言って炎を纏い掻き消えたアグニエラを止められる者は誰も居なかった。

天狼の楔と書いてグレイプニル。

いやぁ、中二ですねぇ。



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[良い点] 自分を“脇役“だと勘違いした“雑魚モブ“が本物の強者相手になにもできずに呆気なく無様に死ぬ様を見るのが1番生を実感するっ!!!(絶頂) [一言] 完璧だ………このまま皆殺しまで突き進んでく…
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