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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
リズワディア学園編
33/192

先代勇者はスカウトされる?

「うわーお……」


目の前に広がるは異世界レインブルクにおいて最高峰の研究機関にして最高峰の魔導師の育成機関、リズワディア魔法学院の校舎と、巨大な時計塔。


都市の半分が学園関係の建物だとは聞いていたが、校舎だけでとてつもない大きさ、広さを誇っていた。


「ヤシロさん、こちらになります」


「は、はぁ…」


ひょろひょろな体で、今にも死にそうな顔の男に手招きされ時計塔に向かう。


この男に手招きされる事が、何故か死神に手招きされるのと同意に思えて仕方ない。




さて、何故俺がリズワディア魔法学院に来ているのかと言うと、……女子生徒を眺めに来た訳じゃないぞ?

一応、ちゃんとした理由で来たんだ。


何故俺がここに来たかと言うと、




臨時教師をする事になったからだ。







ベルナデットの食事量が三十人分を越え、フードバスターベルナデットの異名に偽り無しと確信した俺がおっさんに30万f(約二百万円)の小切手を手渡してから少し経ち、店の客が料理よりベルナデットが何人分食えるかのトトカルチョに興じていた時だった。


「なぁ、おっさん」


「なんだ?今忙しいんだが」


皿の盛りつけ方など忘れ、ただただ速く美味くを追求し始めたおっさん。

その横でトレイに出来上がった品を乗せて給仕の真似事をして手伝っていた俺だが、


「あそこのカウンターで真っ昼間からクダ巻いてるひょろいおっさんは誰だ? めちゃくちゃ不運(ハードラック)そうだが……」



そう、今にも自殺してしまいそうな雰囲気を放ちながらグラスの酒をチビチビと飲み、呪詛を唱えるようにぶつぶつと文句のような事を呟いている男が居たのだが、余りに深く暗い不幸のオーラを放ってるせいで気になっていたのだ。

マッチョなおっさん、細マッチョな俺では比べるまでもなく、客のおっさん達と比べても、細い男だ。


「事、不運にかけてお前に勝る奴はいないと思うがな」


「うるせぇ。……で?……旅人にゃ見えないんだが――」


学園関係者であるローブを纏ってる辺り教師か何かなのだろうが、教師が真っ昼間から酒を飲むか?と言われれば否だろう。


「もしや教師をクビになったとか?」


「いんや、むしろ逆に期待され過ぎてる方だ」


「ああ、なーる」


気弱な性格の男が、学園の期待に辟易しああなっちゃったのか。


「………そう言えば、お前アレクセリア語を扱えるんだったな?」


「んあ?……なんだよ藪から棒に。アリシアに軽く教わっておっさんとの口喧嘩で鍛えたぜ?」



エルフに伝わるアレクセリア語。

古代イシュレール語が精霊を使役して魔法を発動させるのに対し、アレクセリア語は精霊を友とするエルフらしく、精霊に力を借りて発動させるものだ。


どちらも魔術言語としては一長一短あるが、現在ではそのどちらも世界的においてはあまり使用されない。

古代イシュレール語から派生した近代イシュレール語が魔術言語としても普通の言語としても世界に広く伝わったからだ。


近代イシュレール語は、詠唱速度においてアレクセリア、古代イシュレール語を上回り他言語とも組み合わせる事が可能だからだ。


そんな訳でアレクセリア語は一般的には使われず、排他的なエルフくらいしか使っていないのだ。


「『アレクセリア語でなんか言ってみろ』」


「は?……『マリーダさんは俺の嫁』」


「『テメェ一度死にたいみたいだな!』」


「『おっさんが言ったんだろ!』」


おっさんの振りに乗ったら怒られたでござる。 なんでかアレクセリア語で話続けるおっさんに習ってアレクセリア語で返す。


……いやぁ、なんか懐かしいな。


三年前の事を考えていると、後ろから肩を掴まれた。


……あれ?おっさんは目の前だし、誰だ?


「『お話を少々よろしいでしょうか!!?』」


「ぎゃあああああぁぁっ!!??」


振り向くと、そこにはR-18がつく程のホラー映画ですら霞む恐ろしい形相をした男が!



「って、酒飲んでた死相のおっさん!」


「も、申し訳ありません。……お二方のお話を聞かせて貰い…、あ。…わ、私はリズワディア魔法学院で教員をやらせていただいてます、レイゼリード・ドートランジェと申します」


レイゼリード・ドートランジェと名乗った死相の男は一枚の紙を懐から取りだし、俺に渡す。


「あ、名刺。……これはどうも。俺はユウ・ヤシロって言います。一応冒険者で――」


ガゥンガゥンッッ――!!


「も、申し訳ありませんヤシロさん!つい撃ってしまいました! お怪我はありませんか!?」


「このバカ野郎!!危うく頭が吹き飛ぶ所だったわボケッ!」


持っていた皿はベルナデットの魔銃にトレイごと打ち砕かれ、咄嗟にしゃがんだ俺の頭にナポリタンみたいなパスタが被さる。



――こいつっ…、女性には優しくがモットーの俺が苛立ちを覚えるとは……厄介さだけなら六刃将並みだなこいつ!


俺がベルナデットにどうお仕置きしてやろうか考えていると、名前だけはやたらカッコいい死相のおっさんが……なんつーかおっさんと文面でキャラが被るな。

ドートさんで行こう。

……ドートさんが、三十七人前分の皿を白い皿の巨塔に重ねたベルナデットに近づく。


「ほぅ…その魔銃『ケリュケイオン』、独自のカスタマイズがされているようですね」


いつの間にか取り出した眼鏡を掛けたドートさんは、死相でありながら陰鬱さを感じさせない雰囲気になっていた。


「ほぅ、……中々の目を持つようですね。しかし、この子の真名は『魔銃・フェイルノート』!

お間違えの無いようにお願いします」


「テメーさっき『魔銃ミストルティン』だとか言ってただろうが」


こ、こいつ…真名だとか旧き名とか言って、本当は適当に言ってやがったのか!」


「心の言葉が口から出てますよヤシロさん!? そ、それに嘘じゃないです! この『フェイルノート』は命中精度と射程距離を向上させた(モデル)で、……ほら、こっちの方が『ミストルティン』です。ミストルティンは威力を向上させた(モデル)なんです!………ふっふーん。どーですか?嘘じゃありませんよ!

神に仕えるシスターが、嘘をつくはずないじゃないですか!」


「本人確認せずぶっぱなして来る凶暴シスターだけどな」


「ひ、酷いですヤシロさん!私は酷く傷つきまし―――」



まあ確かにベルナデットの言う通り、ベルナデットが取りだし見せて来た二挺の魔銃はそれぞれ微妙に違っていた。

いやそもそも、俺が設計した段階とは大きく姿が異なっていた。


この二挺は――筒状弾倉シリンダーマガジンだ。


俺が三年前に設計していたのは、現代の自動拳銃のように弾倉(マガジン)の高速装填(リロード)により、大量の魔法を連射する高火力重視の物だった。


だがこの二挺の銃は筒状弾倉の、いわゆるリボルバーと呼ばれるタイプの銃だ。


「や、…ヤシロさーん?」



そもそも魔銃とは、現代兵器のように銃弾を飛ばす物ではない。

魔力を集束して放つ魔力弾と、魔術印を刻んだ薬莢を使い魔法を高速で使用する物の二つだ。

魔銃による魔法を使用する利点は、大きく分けて二つある。

一つは、魔法の発動箇所を直線上(・・・)に固定できる事だ。

例えばみんなも知ってる下位魔法『ファイアーボール』。

これは火球を任意の場所に放つ魔法だ。

ファイアーボールを始め、射出系の魔法の多くは術者が魔法の着弾点を正確に想定しなければならない。



「や、ヤシロさん?……ヤーシーローさーん!

聞いてますかー?」



ある程度修練により的確な場所に魔弾を放てるようにはなるが、より正確な場所に魔法を当てるには先天的な空間認識能力が必要となる。

魔銃はその着弾点を射線上に固定する事により魔法の狙撃(スナイプ)を可能にしたのだ。

また高速戦闘時においても、魔法の詠唱、着弾点の想定などの事を並列で行わずに放てるのは大きい。


「……ほ、ほーらヤシロさん、おっぱいですよ!

ふふ、マリーダさんから聞きました。ヤシロさんはおっぱいが大好きなエロ魔人だそうですね~?

……む、無視しないでいただけたら服の上からですが、…少し、ほんの少しですが………さ、触って良いですよ! ……きゃっ!シスターともあろうものが触って良いだなんてっ、恥ずかしいです!」



そして二つ目に上記のように詠唱を不要とし、撃鉄を起こしトリガーを引くと言う一秒と要らずに行える二行程(ツーアクション)で魔法を発動可能とする事にある。



この二つを持ってして、魔銃は本来砲台として機能する事を前提とされる魔導師にとっては革命とも言うべき技術であると言える。

魔導師の弱点は詠唱に多大な集中力を取られる事と、至近距離では自身への被害故に魔法を発動できない所だ。


魔銃はこの双方の弱点を克服したのだ。




しかし逆に魔銃には大きな欠点もある。


まず一つ。魔術印を刻んだ薬莢は普通使い捨てだ。

何故かと言うと魔術印を刻み、発動させる薬莢には特殊な金属が必要となる。

これは魔力の伝導率が高い金属なのだが、魔力の伝導率は高いが魔術を発動すると急激に金属疲労を起こし劣化すると言うもので、一度使ってしまうと効力が無くなる。

そしてこれまた癖もので、その金属の入手自体は楽なのだが、手間をかけて作られる物なのでお値段も高い。


そして一つ。

射出系の魔法を想定して作られた故に、広範囲系の魔法は向かない。

魔法が安定しないか、発動したものの不発に終わり薬莢を無駄に消費される事が懸念され、更に射出系の魔法も直線上にしか(・・)放てない。



まだまだ欠点はあり、利点よりも欠点の方が圧倒的に目立ち、当時の俺は開発を断念したのだ。


なのに何故、作られているのか………何故、筒状弾倉に設計が変更されているのか………。



「……ヤシロさーん、わ、わたしないちゃいますよー?……えーんえーん、ヤシロさんがわたしを無視します!わたし悲しくて涙が止まりませんよ!…………」



――――そうか、装填速度や総弾数を切り捨て、代わりに本来牽制用の魔力弾を主軸とした運用を目指したのか!?


いや、違う。これは、牽制自体に高い攻撃力を付けながらも魔法の狙撃を狙うと言う超攻撃特化の運用だ!!


この運用方法なら薬莢も多く消費しないし、経済的に良い! それでいながら全体的な火力を上げる………ッ!


成る程、よりピーキーな物にはなるが高い技能を持つ魔導師が使う事を前提に設計し直したとするなら……


……この設計を考えた奴は天才か?



「……ぐすっ…わたしとマリーダさんのおっぱいにどんな差があると言うのです。確かに大きさでは多少の差はつくものの……むしろわたしの方が張りがあり、マリーダさんの方が垂れていてみっともな―――ってぁ痛っ!?」


「あ゛ぁん?誰のおっぱいがなんだって?

残念シスターなお前の美乳おっぱいとマリーダさんの嫋やか爆乳おっぱいが同列だと思うな」


「さ、散々無視しておいて、突然人のおっぱいをはたかないでください!

け、けど一応わたしのおっぱいも誉めてくださるんですね……」


「当然だ。俺は美しいと思った乳に嘘はつかない! ところでベルナデット、それ一つ見せてくれ」


「ミストルティンとフェイルノートですか?……ふふーん、意地悪するヤシロさんにはお見せしませーん。……けど、無視しないでいただけるならってああっ!無理矢理取られましたぁ!」


たく、喧しい。


ここまで乳を叩いて罪悪感を覚えない相手はいない。

と言うより初めて叩いた。……少しいい気分になったのは内緒だ。


「……やっぱりな。この筒状弾層(シリンダーマガジン)は魔法の連射性を捨て、それぞれの魔法の性能を上げながらも、魔力弾を主軸に置くためのものだ。……銃身(バレル)も当初の想定よりも長くなっている…これは魔力弾の加速距離を長くし威力を向上させるのが目的なのか!?」


「ま、また無視モードですか!?……ふんっ!」


「あ、こら返せ。今考察中なんだから」


「返すもんですか! と言うかわたしのものです!」


あー、無視しすぎてふて腐れやがった。

まあ良いか、大体魔銃の構成はわかった。


それにしてもこの魔銃を設計した人はすごいな。

やっぱり知識だけの俺よりも現実を見据えて設計されてる。

依然高価なのは変わりないだろうが、実用可能武器として存在しているのは、凄いことだ。

是非会ってみたいぜ…… 。


「……やはり、貴方しかいません」


「ぎゃあああああっ!?」


俺が未だ見ぬ偉人に想いを馳せていると、肩を掴まれ、振り返ってみると、……そこにはドートさんが!



「って、何度も脅かさないでください!俺ホラー系苦手なんですから…」


「も、申し訳ありません。……えっと、ユウ・ヤシロさんでしたね?」


「はい。一応俺がユウ・ヤシロで……ってやらせるか!」


「ハムっ!?」


また名乗った俺に条件反射で銃口を向けようとしたベルナデットの口に、一キロはあるだろうハムの塊をぶちこむ。するとベルナデットは口の中に突然現れたハムに驚きながらもその美味しさに気を取られ銃を下げた。


……くそっ、会って半日してないのに対処法を確立しちまった!


「で、俺しかいないって?」


「はい。……ヤシロさん。是非、リズワディア臨時講師になっていただけませんか!?」



「…………はい?」






そして冒頭に戻る。



時計塔の中に入ると、そこは大きなホールとなっていた。

足元は大理石みたいな石が綺麗に磨かれコツコツと足音が鳴り、天井は竜が飛んでも問題ない程の高さがある。


そのホールの中心に、天に延びる柱を見つけた。


その柱の根本近くには受け付けのようななものが設置されていて、受付嬢が書類に羽ペンを走らせていた。


「うわぁ、凄いですね。とても教育機関の施設とは思えません。神殿や城と比べても段違いの広さです」


「……何でついて来たんだよ」


俺も時計塔の構造に感嘆の声を漏らしたかったが、台詞を全部、何故かついて来たベルナデットに全部取られてしまった。


「何を仰るヤシロさん! 貴方の魔の手が生徒さんに届かないよう、見張るために来たんじゃないですか!」


先代勇者とは違うユウ・ヤシロと勘違いさせることは出来たものの、今度は違う理由で纏わり付かれるとは思ってもみなかったよ。


「ちなみに本当の理由は?」


「ヤシロさん。わたしデザートが食べたいです」


「あれだけ食ってまだ足りないと!?」


最終的に四十三人分の量でご馳走さま(お昼御飯)をしたベルナデットだったが、あれだけ食っていながらまだデザートをご所望らしい。


「あー…この件が終わったらな」


「本当ですか!?約束ですよ!?神に誓えますか!?」


「だあああぁっ!うるせええぇぇっ!!黙らねぇとデザート抜きにするぞ!?」


「…………………………」



こいつ、扱い易すぎるッ…!



「少し待っていてください」


「え?……あ、はい」


ホールの真ん中の柱に近づくと、ドートさんは受付嬢に話しかける。


微妙に内容が聞き取れないくらいの声量で話していたドートさんが頷きこちらを見る。


「こちらに」


言われるままついていくと、柱の前に立たされた。


「……これは転移陣ですね」


柱を中心に、大理石に直接魔法陣が刻まれているのにベルナデットが気づいた。


「ふーん…差詰エレベーターってわけか………って何ナチュラルに話しかけてきてんだよ」


黙ってないとデザート抜きの言葉をもう忘れたのか普通に声をかけて来たベルナデットにジト目を向ける。

が、彼女は口ごもるわけでもなく、鼻で笑いやがった。


「思ったのです。食事はデザートまでが基本……なのでヤシロさんは私にデザートまでご馳走する義務があるのです!………ふっふーん、完全論破ですね!」


「ならめちゃくちゃショボいデザートにしてやんよ。串団子の団子一粒とか」


「うわーん申し訳ありませんでした!」


ドヤ顔で言うもんだからイラっと来たから軽く苛めておいた。



「転移陣の準備が整いました。ヤシロさん、ベルナデットさん。乗ってください」


ドートさんに言われるがまま転移陣の上に乗ると光が俺たちを包む。


一瞬の浮遊感が終わると共に、光も収まっていった。


「良く来たのう、若人達よ!……ホホッ!」


俺たちが目にしたのは豪勢な机に腰かける五十センチ程の大きさの老人と、


「……貴方がレイの……いえ、ドートランジェ先生が推薦する臨時講師……」


つり目がチャーミングな、眼鏡をかけた美女だった。


多分今までで最長です(笑)


説明文ばかりで申し訳ありませんでした。



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