先代勇者と大喰らいの暗殺者
「にしても、こう…同じ姿の奴が多いと間違い探しみたいになるな」
「クケー」
リズワディアの街を散策しながらギルドへ向かっていた俺たちだったが、灰色のローブを着ている奴の多さに軽く辟易していた。
右も左も大人も子供も灰色のローブを着ていて、着ていない一般人を探す方が難しい。
「学園都市…とは言ったもんだぜ」
巨大な育成機関であるここリズワディアは、魔法学院を中心として発展していった。
国ではないが国として機能しているここは、世界で唯一世界から中立であることを約束付けられた場所でもある。
故に世界中様々な国から多くの生徒が留学しに来るらしい。
「おお!彼処の褐色のお姉さんは色っぽ……いんだろうけどローブがとてつもなく邪魔だっ」
だから褐色のエキゾチック美女も居る……がやっぱりローブが果てしなく邪魔だ。
くそっ、制服を期待してたのになんだってんだよこれはっ………膝下までローブで隠れてるからローファーとニーソックスしか見えん!
せめて、せめてハイかローかの見極めだけでも…っ!
俺がズィルバに乗ったままローブの中身を見ようと姿勢を低くすると、視界を何かが覆った。
「うわっぷっ!…なんだ? リズワディアの……ガイドブック?」
顔を覆っていたそれを取ると、縦長な紙に、リズワディアの地図とそこに観光名所などの位置が書かれていた。
どうみてもガイドブックだ。
「なんでこんなもんが―――」
「そこの平凡な顔つきの人!!」
「――あ゛?」
ガイドブックを折り畳んで其処らに放り投げようとすると、いきなり暴言を投げ掛けられた。
声のした方を見ると、黒のスカートにスリットの入った法衣を着ている、黒い髪の女が俺に指を向けていた。
「トゥっ!」
掛け声と共に飛び上がった黒髪の女は空中三回転半捻りを決めながら俺の目の前に着地した。
「………ちょっと、待っていてください」
「お、おう」
黒髪の女は着地の衝撃で脚が痺れたのか着地した格好で動かない。
……久しぶりに嫌な感じがするぞ…っ、なんだ、この関わったら面倒臭そうな事になりそうな人物は!
着地した瞬間に「たゆん」と揺れた巨乳はもちろん見逃さなかったが、それをもってしても俺が関わりを持ちたくないと思う程の存在だなんて………六刃将のアクアディーネ並みだぞ!?
一体、どんな奴なんだ…っ。
俺が黒髪の女に戦慄を覚えていると、痛みが引いたのか、女は勢いよく立ち上がった。
「ふんっ! ……わたし、神聖ウルキオラ教団のシスター、ベルナデットと申します! そのガイドブックはわたしのもので、良ければお返しして頂きたいのですが………」
掛け声と共に立ち上がった女…ベルナデットは困り顔で俺の持つガイドブックを見る。
…………な、なんだ。案外普通の人みたいでよかったよ。結構可愛いし。
「そうだったんですか。……はい」
「ありがとうございます! …これがないと観光もままなりませんからね!」
ガイドブックを手渡すと、彼女は嬉しそうにそれを胸に抱き、突然スカートをたくしあげ、スカートの中にガイドブックを入れた。
「―!――!!?」
目の前で繰り広げられた衝撃映像。
黒髪の美女が街中でスカートをたくし上げる図。
…………良い!
良いよ!嫌な感じはまだ続きまくってるが、やっぱり良いよ!可愛い女の子はやっぱり正義だよ!
けど、たくしあげたスカートを口で咥えてくれたりしたらもっと良いよ!
「ガイドブックを拾ってくださり、ありがとうございました。是非お礼をさせて欲しいのですが……」
「うぇ!?………あ、ああ。……別に良いんだ。そんな事気にしなくて」
興奮していた所に声をかけられ、軽く焦りながらも爽やかに返す。
「そうはいきません! 神に仕える身として、感謝の心を忘れるわけにはいきません! そうだ、ガイドブックに載っている美味しいお店でしたらどうでしょう? ご馳走しますよ?…えーと、」
ガイドブックをまたスカートの中から取りだしてベルナデットはお薦めのレストランや食堂の項目を俺に見せ、そこで首を傾げた。
ああ、名前ね。そういやベルナデットだけ名乗って俺は名乗ってなかったっけ。
……そう言えば、さっきから神に仕えるとかシスターとか…
「俺はユウ・ヤシロ。冒険者をして――」
ガチャッ――
「!?」
突然銃口を突きつけられ、思考よりも速く手が動いた。
ガゥンガゥンッ―――!!
「……わたしの速さに反応しましたか。……流石『神敵』といえ勇者なだけありますね」
……クソ、嫌な感じがすると思ったらコレか。
俺は片手で掴み、銃口を俺から逸らした拳銃に舌打ちをする。
しかもただの銃じゃない。……三年前、俺が技術的弊害の多さと費用対効果の少なさに開発を諦めた、いわゆる浪漫武器の類い――その名も、
「『魔銃・ケリュケイオン』!」
「残念ながらそれは旧き名であり、仮初めの名。……この子の真名は『魔銃・ミストルティン』!!」
ババーンとポーズを決めたベルナデット。
…………やっと嫌な感じの正体が分かった。
……今俺は、三年前の俺自身を見ているような嫌な気分に陥っていた。
三年前の、中二病全快な俺を。
にしてもやっぱり教団関係者か……しかも俺っていつのまに神敵ってのになってたんだ?
「ミストルティンの旧き名を知っていたのは驚きです。……ですが所詮は神敵。……貴方とは仲良く出来ると思ったのですが、残念で―――」
ギュクルルルルルゥゥッッ!
「…………なんだ、今の地響きみたいな音は」
「…………きゅう」
「……本当に、面倒臭い事になって来たぞ」
ばたっ、と前倒れに倒れたシスターから、二度目の腹の虫の声が聞こえた。
◇
「ガツガツガツガツガツ、ごきゅごきゅっ、…ぷはぁっ!………ふぅ、聖人でない癖に生き返った気分です」
「すげぇ食いっぷりだぜ…二十人分が一瞬かよ」
「聞いたことがある。各国を渡り歩き、幾つもの店を在庫無しにして閉店に追い込んだ化け物シスター………フードバスターベルナデット!」
四人分のテーブルを繋げた上に大量の皿を重ねて、ベルナデットは口の汚れをナプキンで拭く。
目の前で起こったちょっとした事件に、早めに子猫亭に来ていた常連客達は遠巻きに騒いでいる。
俺は、ベルナデットを子猫亭へ連れ帰り、少し早めの昼御飯をベルナデットに食わせてた。
銃をぶっぱなされてなんだが、目の前で行き倒れられても困る。
周囲の視線も痛かったし。
「で、ベルナデット。……先代勇者が神敵ってどういう事だよ」
ワインを飲み干し、一服中のベルナデットに聞くと、ベルナデットは伸ばしかけていた手を引っ込め、姿勢を直す。
「ご飯をご馳走して頂いたのには感謝します。……ですが、貴方が神敵なのには変わりはありません」
敵には何も教えないってか?…………と言うか今然り気無くご馳走してって言ったか!? え、俺持ち!?
いやいや落ち着け社勇。相手は俺を神敵って言って迷い無く殺しに掛かって来た暗殺者だぞ?そんな奴相手に動揺してどうする! ……飯食わせてどうするよ。
そもそもベルナデットはなんで俺が名前を言った瞬間に攻撃を仕掛けて来たんだ?
聖剣抜いてない状態なら、後ろからとかなら多分殺せただろうに。………名乗ったから、か。
なるほど、確かに俺の名前は一部には知られてたからな。
名前を便りに俺を暗殺しに来たのか。
……名前だけ?
「なぁベルナデット」
「なんでしょう、神敵さん」
「口にソース付いてるぞ?……先代の特徴とかって知ってるか?名前以外で」
「?……黒髪で男としか…」
やっぱり。俺が偽名を言ってたなら気づかなかったって事か。
「同姓同名、似た特徴の赤の他人って考えなかったのか?」
偶然当たったから良いものの、俺以外だったら確実に死んでたぞ、あれ。
……にしても凄まじい速度の『抜き』だったな。照準を合わせた瞬間に引き金も引いてたし、中々の手練れだ。
……もしや、武芸者特有の癖みたいのに気づいていたとか?
なるほど、それなら名前で特定するのもまだわか―――
カチャン。
「……おい、なんで大量の汗をだらだらと流しながら顔を青くしてんだテメェ……」
音がしてベルナデットを見ると、スープの上に浮かぶスプーン。
……そして、スプーンを落としたままの格好で「やっちまったー!」って感じに動揺してるベルナデット。……こいつ、俺の名前を聞いた瞬間、条件反射的に動きやがったな!?
「ご、ごめんなさい!お怪我はありませんでしたか!?」
「魔銃を食らってたらお怪我ってレベルじゃなかったがな」
ちくせう、本当に面倒臭い相手だぜ。
「あ、そ、そうだ。……こ、このソーセージなどいかがでしょう。とっても美味しいですよ?」
「食べ物を与えりゃ機嫌が良くなると思うなバカシスター」
「んな!?……か、神に仕えるシスターである私をバカ呼ばわりとは、許しません!」
「許さないんだったら今すぐ飯食うの止めろ。俺の払いなんだろ?ならお前には奢らない」
「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ、むしゃっ、ガツガツガツガツガツ」
…………本当に、本当に面倒臭い。
0時までに完成しなかったのでお昼に投稿。
次回から、ようやく学園編っぽくなる予定です。
感想待ってます!




