先代勇者の一目惚れ~宿屋の人妻編~
「三万f(約二百万くらい)の儲けとか………怖いわ」
リズワディアギルドで森の主、ワイルドボアの素材を売り払った俺は元の世界では触れることさえ出来なかった額を手に疑心暗鬼に陥ってしまっていた。
道行く人がみんなこっちを見ている気がする………… 。
「っ、と。……ここか」
「クケー!」
俺が着いたのはリズワディアの一角にある宿屋だ。
昼も食堂として使われるここはギルドで勧められた宿だったりする。
安くて美味い飯を出してズィルバも一緒に泊めさせられる宿を……と言うオーダーに見事叶った宿だ。
その宿屋の看板を見た俺はその名前に驚いた。
「『子猫の撫で声亭』………姉妹店かなんかか?」
ルクセリアの子犬の鳴き声亭と名前がものすごく似ているのだ。
それとも宿屋の名前には何かしきたりか何かがあるのか?
子供の動物+声に関係する単語で統一されてるんだとしたら全国を回ってみたくもある。
何せ三年前は野宿か室の良い宿泊施設かの二択だったので、こう言う庶民的な宿屋は今回召喚されてから使用し始めたのだ。
「すいませーん。ギルドに紹介されて来たのです……が…………」
次の街の宿屋の名前を想像しながら子猫の撫で声亭………略して子猫亭に入った俺は、給仕に勤しむ女性に、心を奪われた。
「あら、いらっしゃい。子猫の撫で声亭へようこそ」
「」
そこに居たのは頭に三角ナプキンを巻いた、柔らかな金色の髪を伸ばした一人の美女。
瞳の色は空のような青。唇には口紅を塗らず、唇本来の薄い赤色。肌は新雪のように白く煌めいている。
ゆったりとした作りの服をはち切れんばかりに突き上げる双丘は男の視線の悉くをかき集める。
胸だけでなく、腰のくびれから太ももにかけての流線型のラインは見たものを虜にする魔性さを秘めている。モデルのようなガリガリなだけの脚でなく、程よく肉のついた瑞々しい脚だ。
むしゃぶりつきたくなるような肉付きの良い太ももはもはや在るだけで罪な色香を放っている。
幼子の性への目覚めを促し、男どもの今晩のオカズとなるだろう彼女。俺は今日、彼女と出会ったこの時の為に生まれて来たと言って良い!!
「俺と結婚を前提に子作りしてください!!」
「あらあら、おばさん困っちゃうわ」
頬に手を当て微笑む俺の嫁。ああもう抱き締めちゃいたいっ!!
「野郎っ、俺のマリーダさんにっ!」
「この街の流儀って奴を教えてやらんとなぁ………って今お前なんつった!」
「バカ野郎ども、マリーダさんは俺の嫁だ!」
周囲のモブキャラ達が喚くが関係ない。俺はこの女神…マリーダさんと添い遂げる!!
「ふん。あんな爆乳とデカ尻の何処が良いのかぶおぁっ!?」
「「「テメェは俺らを怒らせた」」」
始まる制裁と言う名の集団暴力。
婦女子の前で暴れるとは紳士とはかけ離れたモブ達だ。
……だがその根性、嫌いじゃないぜ!
「助太刀いたs」
「怒らせたのはテメェらだボケェ!!」
勇者の力を使って殲滅しようとした俺を止めたのは厨房から現れた大男のバカデカイ叫び声だった。
「げぇっ!ギレーの旦那だ!!」
「ずらかるぞっ!」
「応ッ」
ドスンドスンと音をたて向かってくる大男に恐れをなしたいい歳の男達が銀貨を複数枚卓上に置いて子猫の撫で声亭から走り去って行った。
「ちっ、今日も逃げられた。……マリーダ、お前もお前で、あんな奴等を店にいれるんじゃねぇ!」
「うふふ、ごめんなさいあなた」
二メートルを越えるマッチョに微笑みかけるマリーダさん。
その二人を見て絶望に打ちひしがれる俺。
ちくせうっ!何故だ!何故マッチョばかりモテるんだ!
細マッチョはダメってか!?この世に神はいねぇのか!!
「あ?……なんだこの四つん這いになって床を涙と鼻水で濡らしてるガキは」
「私と結婚を前提に子作りしたいらしいの。うふふ、三十過ぎたおばさんでも良いのかしら?」
「それ以前の問題だ! こらクソガキ、テメェ俺の嫁を口説きやがっ………?………おい、お前ユウ・ヤシロか?」
「ぐふぅっ…わが、しゅら道ににょにんはっ、いらずぅぅっっ!!…………って、おっさん?」
絶望に染まる心に身を任せかけたその瞬間、俺の名前を呼ばれた。
顔を上げると、尖った耳をした服の上からでもわかる筋肉溢れるマッチョな男。
「やっぱり、お前ユウだな!この野郎でっかくなりやがってぇ!」
「のわあああぁっ!!野郎が抱きつくなぁぁ!!」
俺は丸太のような腕で抱き締められ、あまりの暑苦しさに窒息しそうになりながらも懸命に逃れようともがく。
「相変わらずだなぁお前は! オラッ、何見てんだテメェら! 今日は店じまいだ、さっさと出ていきやがれっ!!」
暴力団関係者らでさえ裸足で逃げ出すほど怖い顔を持つおっさんが店にいた客に向け怒鳴り散らす。
ああ、可哀想に。まだ飯を食ってる途中の人も居たのに………
「……よく戻って来たな、ユウ!」
エルフらしからぬ体躯と顔を持つその男は、俺に向け満面の笑みを見せてくれた。
「……おう。心配かけちゃったみたいだな、おっさん」
三年前、とあるエルフの集落で出会い、喧嘩を繰り広げた、歳の差がありながらも俺が胸を張って友人と呼べる男。
彼の名はギレー。
俺の親友の一人だ。
◇
◇
レインブルクには月が二つある。一ヶ月の内最初の二週に夜空に浮かぶ青の月。
残り二週の間は夜空に赤い月が現れる。
一月の終わり、二つの月は交差して、紫色の月が姿を見せる。
「…………ユウ・ヤシロ」
夜空に浮かぶ紫色の月の元、凜とした声が、風に乗る。
リズワディアの時計塔から、街を見下ろす女の影が一つ。
黒い法衣に身を包んだ女は、スカートのスリットから覗く生足に、ホルスターのベルトを巻き付けていた。
そのホルスターには、この世界には本来ないはずの、武器が収まっていた。
「恨みはありません。……が、神敵は我らが敵………天に召して我らが神の元で悔い改めなさい」
胸元で十字を切った女は、スカートのスリットに手を伸ばし、スカートの内側から折り畳まれたガイドブックを取り出した。
「……の前に、こんな場所まで来たのです。やはり観光巡りをしないと!」
彼女が取り出したガイドブックには、リズワディアの文字が大々的に書かれて居た。
リズワディアのガイドブックだ。
「ルクセリアに居ると言う神敵は欲望のままに動く下郎と聞きました。……ともすれば南の諸島へ向かうはず。じわじわと追い詰めながら観光も忘れない………ふふ、流石は私です。万事抜かり無しです!」
アーハッハッハッハー!と時計塔の上で高笑いしていた女に、強風が襲い掛かる。
「うわっぷっ!…ふ、ふふ、この程度の風で転げ落ちるようなバカな醜態、私は見せませんよ。……さて、まずは何処へ行きましょう? リズワディアは歴史ある街ですからね。観光のしがいが………あれ? 私のガイドブックは?」
手元にあったは筈の物が無く、慌てて辺りを見ると、風に飛ばされたガイドブックが宙を舞っていた。
「そっ、そんな! まだおいしいお店も見てないのに! 待ってくださーい!」
飛び去ったガイドブックに手を伸ばしても手は届かない。
「カムバーック!!」
紫色の月が照らす街に、女の叫び声が響いた。
学生コンビとの露骨な描写の差は先代の視点故です。
最近、諸事情により一日一話の投稿が物理的に無理になってきました。出来る限り早くに投稿……と言う形になりそうです。
感想お待ちしています!




