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先代勇者は旅に出る

「トーレさん?」


「お、来たようだねユーヤ…いや、ユウ・ヤシロだったね。アンタも何で間違いを教えなかったんだい」


トレイン貸し馬屋に着くと、店先に居る銀色の毛並み(羽並み?)のクルケルを撫でていたトーレさんが居た。


「なんでトーレさんがこんな所に?」


グラード荒野の戦いに彼女は参戦していたものの、俺はリリルリーに導かれるまま走り回っていたのでトーレさんとは共闘できず、戦闘が終わったらとっとと退散しなければいけなかった。戦争に行く前に少し話した程度なので、トーレさんとは久しぶりに会った事になる。


相変わらずエロい装備だぜ………


「ふふ…ほら、よだれを拭きな」


「あ、すみません」


俺がエロ装備に見とれていると、優しい笑みと共にハンカチを渡された。……白を基調とした可愛らしいハンカチだった。


「俺、そう言うのも良いけどトーレさんには黒が合うと思います。黒のレース柄が」


「余計なお世話だよ。……理由を聞いても?」


「エロいからです」


「変わらないんだねぇ、アンタは」


俺の言葉が余程面白かったのかクスクスと笑うトーレさん。…………なんだろう、この穏やかな雰囲気………あれ?心なしかトーレさんの瞳が哀しげに見えるぞ?……ま、まさか…まさかだが!


「トーレさん、まさか俺の事を……」


「今日はアンタの見送りに来たんだ」


「即答ですね」


俺の言葉を遮るくらい速く答えられてしまった。


「まあ、アンタに会えて良かったとは思ったけどね」


「と、トーレさんっ!」


「抱きつくのは良いけど別料金だよ?」


「金とんの!?」


「当然さ。いい女は高くつくもんさ」


そう言って笑みを見せてくれたトーレさんは可憐で……ふざける事もできず見惚れてしまった。



「そ、それにしてもそのクルケルは?……銀色の毛並みとか初めてみたんですが」


「ふふ…。マスターが言うにはユウ、アンタのクルケルらしいよ?」


気恥ずかしくなって話を逸らすが、どうやらトーレさんにはバレてるようだ。

お姉さんが悪戯っ子に見せる少し呆れたような笑みで俺を見る。

ぐぅっ、な、なんだこの恥ずかしさは! 齢16にもなって子供扱いされた気分だっ。


「って、俺の?」


銀色の毛並みのクルケルは俺の言葉に反応したのか、二、三歩俺に近づき、大きなくちばしを俺の腕に擦り寄せて来た。


「…………お前、ヴァイスとシュヴァルツの子供か?」


間近で見ると、何処と無く知っているクルケルに似ていたので聞きながらくちばしを撫でてやると、クケーと間延びした声で鳴く。

どうやら人語は話せないようだが、理解はするようだ。


「なるほど……シルヴィアからってことか」


やけになついてくる一歳半くらいのクルケルは足を曲げ、姿勢を低くする。


「乗れって? ははっ、お前らは親子揃って乗せたがりだな。 ほいっと」


手綱が付いていないが、クルケルの首元を優しく掴みながら跨がると銀色の毛並みのクルケルは嬉しそうに辺りを歩く。


「……ん、やっぱりアイツらの子供だ。乗り心地さいこー」


首を撫でてやるとクケーとまた間延びした声で鳴く。


「よっと。……これなら手綱は要らないな、お前」


普通のクルケルは臆病で人に懐き難い。故に手綱で制する必要があるのだが、こいつら親子は人語を理解してるせいか人見知りがそこまで激しい訳ではないようだ。レオやシルヴィアらは速すぎる二匹の上でバランスを取るために手綱を使ってるが。


「……よし、じゃあ行くか」


俺が首元を軽く叩くと、クケーと答えたクルケルはかっぽかっぽと足を………いや、馬でないので違う言い方か?

まあ音は良いや。

伸びた尾を揺らしながら王都の西門へと歩き出す。


「……それじゃあ。 また来ますんで」


「あいよ。……楽しみに待ってるよ」


軽く手を振りながら、褐色の美女トーレさんはそう答えてくれた。







「イケメン君らにも会っとくべきだったかな?」


門から出て少しして思いついた案は、その次の瞬間には廃案になっていた。

折角一般人として街を出たのに、今や勇者としてルクセリアで有名人となってる彼らに会ってしまっては婆ちゃんの見えない裏での頑張りや黙ってクルケル一匹預けてくれたシルヴィア達の想いを無下にする行為だと気付いたからだ。


まあ彼らが勇者として世界を平和にしてくれてからでも良いだろう。

魔王は復活出来ないわけだし。


「さーって、何処へ………?」


地図を開いて、よさげな場所へ行こうと気持ちを切り替えようとした俺の耳に、俺へ向け駆けてくる足音が聞こえて来た。


今は祭りで、王都へ向かうならまだしも外へ向かって走るのはそうそうないだろう。


あ、いや。メロスみたいに親類の結婚式へ走りに行く途中なのかもしれない。


と余計な事を考えていると、少女の声が聞こえた。


「勇!」


この世界に来てから一月ちょいしか経ってないが、随分と聞き慣れてしまった声だ。


振り向くと、宝石のような翠の髪を短く揃えた耳の長いエルフの少女、リリルリーが息を荒く、しかしそれを整えようと大きく息を吸っては吐いてを繰り返していた。


「おう。 見送りには来れないって聞いてたんだが………来てくれたんだな」


「はぁ……はぁ…っ。 お婆ちゃんが行ってこいって言ってくれたの」


拙かった言葉も、出会った当初と比べれば随分と上手になったもんだ。

リリルリーが婆ちゃんの弟子となって一週間も満たないが、既に数年(・・)の修行に耐え、そして学んだ彼女は幼い体つきながら精神が成熟し始めている。


精神年齢が増えたのだ。


「そっか。婆ちゃんも難い演出してくれるよな」


そう笑って見せるも、リリルリーは言ったきり俯いてしまい反応を見せない。


婆ちゃんの弟子となったリリルリーは滅多な事がなければ婆ちゃんの元から離れられなくなってしまった。

何せ見習いとは言え『時の魔女』と同じ時間魔法を使うのだ。

悪用しようとすれば世界構造すら変えかねないジョーカーとなる。

当然求めるバカは出る。故に万が一を考え、絶対に安全な婆ちゃんに俺はリリルリーを預けた(婆ちゃんから言って来たが)。


一人前の『時の魔女』となるまで、彼女に自由はほぼないと思って良い。


彼女が自分で選んだ未来だが、その根底には俺への罪滅ぼしが含まれているとも、婆ちゃんに教えられた。


俺の力になるために人生を棒に振ってしまったリリルリー。

……せめて、安全な場所で生きて欲しい。




「………今生の別れってわけじゃない。俺はお前と同じ世界に居る。なら、すぐにでも会える。

何せ異世界(・・・)へ帰るって訳じゃあないんだからさ」


経験者の言葉は重いつもりだぞ?


何せ三年間もの間、異世界へ戻りたくて戻りたくて仕方なかったのに戻れずに、ようやく普通(・・)に馴染めたと思ったらまた異世界へ来ていたのだ。

……諦めがつくまでの二年が辛かった。


だが、同じ世界でなら会おうと思えば簡単に会える。

道端でひょっこりと再開し、世間は広いようで狭いと笑い話にもなるのだ。



だから、俺は悲しくもなんともなかった。



「格好付けるわけじゃないがさよならは要らない。

またね(・・・)って言えばいいのさ」


クルケルの上からでだが、軽く撫でてやるとリリルリーはコクンと頷いた。


「……んじゃ、またな」


「……うん。またね勇」


最後に笑みを見せたリリルリーに軽く手を振りながら俺は王都を後にする。







「ぐすっ…うぐっ………っ」


「そんなに泣いてると、ユウに笑われちまうよ?」


服を涙と鼻水で汚しながら嗚咽するエルフの少女の頭を褐色の美女は優しく撫でる。


「それにユウのパートナーになりたいんだろ? なら泣いてる暇なんてないと思うんだがねぇ?」


「……っ」


挑発するような言葉に、顔を汚しながらも上を向いたリリルリーが頷く。


「私は勇の、パートナーになりたい!」


「そうかい。……んじゃ、行こうか」


コクンと頷いた少女のやる気に満ちた瞳に感化され、トーレもまた一人、やる気になる。


(私もちょいと………頑張ってみるかい)


せめて足を引っ張らないくらいには………強くなってみせたいと思いながら少女の手を、彼女は引いて雑踏に向け歩く。


まるで親子のように、姉妹のように、友達のように……恋敵のように、二人は並んで歩いて行った。







「よろしかったので?」


「ふぅあ?……何がじゃ?」


数年(・・)に渡る指導を終えたばかりのノルンが、巨乳の受付嬢に手の届かない背中に湿布を張って貰いながら聞き返す。


ノルンを信奉する巫女の一人である彼女は、ノルンの世話係でありギルドの顔たる受付嬢でもあった。


ノルンの手紙の内容をノルン自身から聞かされた彼女が質問をしたのが初めだった。


「彼ほどの存在を手放しに…そしてゲール諸島などに送ってしまって」


彼女の疑問もよくわかると言うものだ。

勇者と言う戦力を野放しにしておいて良い訳がないのだ。

魔王は封印されているも、魔王軍自体は依然、存在し続けているのにだ。


「……カカカッ、貴様もまだまだ半人前じゃ。そんな様では人の上には立てぬぞ?」


「元より承知。人の上に立つは先代勇者でも教皇でも、ましてや神などではありませぬ。全ての人の上に立つは貴女様こそなのです。初代勇者(・・・・)様」


巫女装束の受付嬢の言葉に、ノルンは楽しげに笑う。


「カカッ、その名は千年も前に捨てた。今の妾は時の魔女、それ以上でもそれ以下でもないわ」


「失礼致しました、ノルン様」


恭しく頭を下げる女に、ノルンは苦笑を見せる。



「質問の答えじゃが、奴は南ゲール諸島へなんぞ向かいはせぬぞ?」


「……は?」


ノルンの言葉に思わず素で返してしまった巫女装束の女を、誰が悪いと言えようか。

言える筈もない。


「仰る意味が……ゲール諸島を薦めたのでしょう?」


「うむ。……確かに妾は書いた。じゃが、あ奴は行かない。いや、行けないのだ」


悪戯を成功させたような子供の笑みでノルンは続ける。




「三年前、妾のおすすめ(・・・・)に辛酸を舐め尽くされたあ奴は、妾のあの追記を深読みするはずじゃ。あ奴が好みそうなネタも仕込んだしの。……深読みしたあ奴はゲール諸島には何かが起こるだろうと考える。そして妾の裏を読んだ気で正反対の方向へ進む。……そして奴はガラリエへと向かいながら、」





「魔法学院都市『リズワディア』か。……ガラリエで行われるって言う拳闘大会までは数ヵ月余裕があるし、……よし、ここに決めた!」


地図の北側にある自由都市ガラリエ。


そこを目指しつつ、最初の目的地はリズワディアに決定。


水着は残念だがこっちは制服だし、楽しみだぜ。



名前のまだない銀色のクルケルに跨がりながら、急がず焦らず、ゆっくり少しづつ進む。



目指すは異世界スローライフ。急がず回らず、真っ直ぐ行こう。



これにて第一章終了。


次回からリズワディア~ガラリエ編に入ります。




お楽しみに!

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