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グラード荒野の戦い【5】

「くそっ、疾いっ!」


「しつこいって言ってんだよ、人間!!」


風の鎌と竜の魔剣が切り結ぶ。


身体強化の魔法を掛けた海翔と、風を司る魔族のウェントスが、速さで競いあっていた。


「『月氷(げっひょう)』!!」


「ぐぅっ、レオ、ン、ハルトおおぉぉっっ!!」



そんな中、彼らの速度に一歩劣りながらも、蒼天騎士がウェントスに切りかかる。


氷の魔力を帯びた一撃は、円月を思わせる回転に乗り放たれる。


身を凍てつく氷牙に食らいつかれ、ウェントスが怒りの形相を蒼天の騎士レオンハルトに向ける。


「『竜爪・ドラゴンクロウ』!!」


火竜が放つ炎と同等の熱量を誇る炎の斬撃。


切り口から広がった凍結に動きを遅くしたウェントスに爪のような三つの傷跡が刻まれる。


「ぐっ、がああああぁっ!!」


致死量を越える攻撃を食らい、流石の爵位持ちの頂点ですら、苦悶の咆哮をあげる。


「くっ…だが、所詮時間稼ぎ」


レオンハルトはその光景を眺めながら吐き捨てるように呟いた。


みるみる内に風を取り込み再生する肉体。直撃を与えても、再生してしまうならば、意味がない。


「なら、再生する暇すら、与えなければ良い!」


竜の魔剣を逆手に、まるで仗のように構えた。



『―――――――――――――』



(わからない……常人では理解の出来ない竜の真言、これがかの竜言語(ドラゴ・ロア)か!!)



かつて特定の条件を揃え魔力不足を解消した最高峰の魔導師、ノルンが見せた大魔術。



『―――――――――――――』



ギロリ、と海翔の眼がウェントスを捉える。

その身体、既に再生を終えていた。


竜言語(ドラゴ・ロア)、だと?……なんだよ、そんなのがあるなら、先に使えよな!」


鎌鼬を周囲に撒き散らしながら風の鎌を振り上げるウェントス。その構えに、レオンハルトは戦慄する。かつての戦いで見た、ウェントスの得意の技。


風を集め、それを斬撃と共に放つ奥義。

風は鎌鼬のごとく全てを斬り、その鎌鼬が嵐のように渦巻のだ。

あれを食らえば、一溜まりも無く、終わる。



『我が祖たる氷精グラスディーネ、其の名に置いて顕現せよ――』


丁度駆けて来た黒のクルケルに飛び乗ったレオンハルトは、魔剣グラセラートを抜き、彼はウェントスと海翔の前に踊り出た。



「『アイスウォール』ッ!!」


放たれるのは氷の壁。レオンハルトを中心に広がった氷の城壁はウェントスとレオンハルトを隔絶する。


「遅いよっ、『風牙連斬』!!」



鎌に集められていた風が、振り下ろされると同時に放たれた。

鎌を起点に巻き起こった斬撃の嵐は氷の城壁を切り削り、瞬時に崩す。


(私のアイスウォールをこうも簡単に、……ならばっ!)


迫る鎌鼬に、レオンハルトは剣を鞘に納めた。


「ハッ、諦めたのか!?」


レオンハルトが納刀したのを見てウェントスが嘲笑い、そして、驚愕の表情に変わる。


「…………まさ、か…」


「そのまさか、ですよ!」


腰を落として身を捻り、柄へと手を伸ばす。

現代日本人が見たならば、『居合い』の構えだとわかる筈だ。


「彼の奥義、三年も掛かりましたが私も会得したんです」


女性が見たならば卒倒しそうな程爽やかな笑顔を見せたレオンハルト。

刹那、剣閃が走る。


「『絶影』……おや、外してしまいました」


「……レオンハルト…ッ」


剣閃に触れた鎌鼬の嵐は霧散し、ウェントスの直ぐ足元には、大地を裂いた剣の跡


居合いにより放たれた高速の斬撃が斬撃波となり、ウェントスの直ぐ横を掠め飛んで言ったのだ。


怒るウェントス、それもその筈。今の斬撃波はウェントスから当たりにいかない限り当たらなかったからだ。


手心を加えられたと思ったウェントスは怒りの形相を見せ、彼の回りには風が渦巻く。


「今の私の装備では貴殿方は倒し切れませんからね。……ま、彼には手があるようですがね」


レオンハルトが後ろを見れば、そこには詠唱を終えた海翔の姿。


「『竜装ドラゴニックレイジ』ッ!!」


怒りを秘めた瞳が血よりも赤く、煌めいた。








テラキオが去り、辺りで見ていた兵士達が沸き立った。


魔物はまだ居るってのに浮き足立っちまってる。


「ちっ、目立ち過ぎたっ。……シルヴィア、収めてくれ」


「あ、ああ。……ドルタニ卿!」


シルヴィアが叫ぶと、鎧を着込んだ中年の巨漢が軍馬に乗って現れる。俺も知る人物、ドルタニ・マカルトルトン子爵だ。


「はっ。……戦列を乱すなぁぁっっ!!」


「っ!?」


一瞬耳がおかしくなるほどの声量で叫んだドルタニ卿は慌てたように整列する兵を一瞥してから軍馬から降りて来た。


「お久し振りですな、社殿」


一応姿を隠しているはずなのだが当然のように中の人を当ててくるのはなんぞ?


「お久し振り、ドルさん。なんで俺だってわかったんです?」


「ははっ、そう言われるのも三年振りですなぁ。 

先ほどの戦い振り、そして殿下の熱い眼差しで気づきましたよ」


気の良いおじさん騎士はにこにこと笑いながら爆弾を投下する。


「なっ!?…わ、私はそんなっ…」


「あー…それじゃ仕方ないか」


「し、仕方無くなどないっ」


顔を真っ赤にしてるシルヴィアを見て自然と口元がつり上がる。


くいっ、くいっ。


……いや、引っ張られてる。


背中から伸ばされたか細い指が俺の頬を摘まみ、軽く引っ張っていた。


「ひひふひー?」


頬を引っ張られながら背中のリリルリーを見ると、リリルリーはやけに真面目な顔をしていた。




「リリルリー、……何を見たんだ?(・・・・・・・)


「凄く、凄く強い女性(ヒト)が来る。……勇、負けそうになっちゃってる!」


バシリスクの時のように怯えていないものの、彼女は俺が負ける未来を見て(・・)不安になっていた。



「負けそうになる……つまりはテラキオ並みと来ると………グラキエスタか」


リリルリーを背から降ろす。彼女は俺の言おうとした事を理解したのか、コクンと頷いた。


「シルヴィ、色々聞きたいだろうし、俺も色々説明したいが今は後だ」


「そう、だな。……ではリーゼリオンの天幕に来い。そこで、話そう」


「おう。……んじゃ、……こいつ連れて逃げてくれ」


シャッ―――


双剣を抜く。


()のリリルリーが来ると言うのなら、必ず来る。


「……ま、待て、どういう事だ? そもそも、そのエルフの少女は…―――」


「師匠の、ノルン(・・・)としての弟子だ」


「!?」


シルヴィアの大きな碧色の瞳が、更に大きく見開かれる。



「彼女が……『時の魔女』の?」


シルヴィアが鋭い視線でリリルリーを睨む。

リリルリーがその視線に怯えたように俺の後ろに隠れる。


「おいこら、睨むな。お前美人だから迫力有るんだよ」


そう。多分睨んだつもりはなかったのだろう。が、つり目気味なシルヴィアはその容姿も相まって目を細めて相手を見るだけで睨んでいるように見えてしまうのだ。


「び、美人っ!?………」


俺の言葉に激昂したらしいシルヴィアは顔を真っ赤にする。 いや、睨むなって言っただけでキレすぎじゃね?


まあそれはともかく、リリルリーは婆ちゃんの弟子として、その最低条件を満たしていたのだ。


人並み外れた危機への察知、つまりは、第六感(シックスセンス)


婆ちゃん曰く第六感とは未来予知、未来予知とは未来の自分から送られた過去へ警鐘。


その第六感に関して、リリルリーは時の魔女である婆ちゃんが太鼓判を押す程の才を、持っていた。



バシリスクの時は、目覚め始めた自分の能力への困惑と、絶望的な状況への恐怖から脳が耐えきれず失神してしまった。

が、僅か数日の間で数年(・・)修行を終えたリリルリーは時の『時の魔女』………つまり、『時間魔法』の初歩を知り、『見習い時の魔術師』となったリリルリーにとって未来とは直ぐ隣にあるものと同じく、身近な存在となっていた。


「リリルリーが見た(・・)。グラキエスタが来るぞ」


俺が低く言った言葉を噛み締め、シルヴィアは頷いた。


「ドルタニ卿、魔導隊を使う。全軍反転、十分な距離を取り広域魔法の発動準備を取らせろ」


「御意。……殿下は?」


ドルさんの言葉にシルヴィアは高い音の口笛で答えた。



『遅れて申し訳ありません、姫』


シルヴィアの口笛を頼りに来たのか、白い毛並みのクルケルが走り寄ってくる。


「氷の使い手なら、私にも有利だ。……私とレオは精霊グラスディーネの血筋。レオほどでないにしろ、私でも力にはなれる筈だ」


言うや否や白い毛並みのクルケル、シュヴァルツにシルヴィアが跨がった。


「我が祖はイーフリーデ。……炎精の長だ」

昨日には掲載する予定が風邪を引いたのでこんな時間に。


みなさんお待たせしました(待って?)




さあさあ新事実も続々出て来ました!(笑)次回もお楽しみに!


感想待ってまーす!

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