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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
191/192

天狼星

「はぁ……はぁっ……!!」

息が熱い。

喉を焼き、肺を焦がし、痛みが血流に乗り身体中へ伝播する。

だが、一息毎に身体から膨大な魔力が産み出されその身体を巡り、溢れ出す。

異世界へ召喚された四人組の中で一番魔力保有量の少なかった海斗。

しかし今やその身から溢れ出す魔力の総量は茜達三人を合わせた量と大差なかった。


人の持つ魔力保有量は鍛える術がない。成長などしない。

だが現に、魔族襲来から戦い続けた海斗の魔力総量は溢れる程に余裕があった。


原因は、『竜言語(ドラゴ・ロア)』にあった。




「勇者殿よ。妾が提案しておいてなんじゃが、『竜言語』魔法には利点だけではない。大きな欠点が存在しおる」


ルクセリアに召喚されたばかりの頃、海斗は一人の少女と出会った。

幼い見た目に反し、その纏う雰囲気は老練のそれだった。

自分を『時の魔女』と名乗った少女は海斗が求めていた力を得る方法を知っていた。

強い力を、魔族を倒す為の力を求めていた海斗は彼女の提案に乗り、今は大きな石扉の前に居た。


「……欠点?」

「うむ。魔力量は問題無かろう。妾の数倍以上の魔力を持つ勇者殿ならば。……問題は、その身体に起こる『反動』じゃ」

『時の魔女』はその口元をニヤリ、と曲げた。


「多様すれば、いずれその身体は竜になる」

「!」

「いや、竜の様な『ナニカ』じゃな。そもそも『竜言語』は竜が扱う魔法じゃ。竜の(ロウ)、ルールを人間が利用すれば問題が出るのは必定。その結果が、人体の竜化。……数度の使用では何の影響も無いはずじゃ。じゃが、数十数百と繰り返し続ければ……」




「『竜言語』の影響、か……」

身体中に走る痛みと、それに反して調子が良くなり続ける身体能力。

数日ですら戦い続けられそうな予感が今の海斗にはあった。


「今の俺なら、一人で公爵級にも届く……」

思わず吊り上がる口元。狂気すら感じさせる笑みは、決して茜達には見せられないだろうと海斗は自覚した。


「……ここか」

先ほど強い力を感じた方向へ向かっていた海斗は闘技場の前で立ち止まった。


「居る……居るぞ、奴が」

多少の違和感はあるが、間違いない。海斗がただひたすらに求めていた存在が此処に居る。

魔剣の柄を強く握りしめながら海斗は跳んだ。

正面からなんていちいち入っていられない。屋根の無い闘技場を跳んだ海斗は、


「……は?」

空中で見たその光景に、先ほどまで纏っていた仄暗さが霧散するほどの衝撃を覚えた。


「なんだよ、アレは……」

脳が理解しようとしない。してくれない。


「何でだよ……何が起こってるんだ?」

疑問ばかりが浮かんで碌に思考できなくなる。


「何で彼が……社君が、アグニエラを、圧倒してるんだ?」


暴風雨が如く吹き荒れ降りしきる聖剣の群れの中、ただ一人立つことが許された存在は、海斗が知る人物だった。



生き返っては殺し、また生き返るから殺す。


「ギィ……ギヒィ……」

雨の去った後には、ボロ雑巾の様に打ち捨てられたウムブラの姿があった。


「リッチってのも難儀なもんだな……死んでも魔界に帰れないなんてな」


魔族は基本的に、この世界に顕現するには霊体(アストラル・ボディ)と呼ばれる霊糸で編まれた疑似肉体を用いなければ存在を維持できない。

魔界と現世とでは運行されるルールが違うからだ。


だがウムブラだけは違う。元々人間だった存在が魔族に堕ちたバグのような存在。

魔族でありながら現世で行動できる異端。


だが、逆に今はそれが足を引っ張っていた。

霊体は死ねば消える。魔界の本体へダメージのフィードバックこそあるが消える事で終われる。


「霊体は生きてないと作れない。……不死を得る代わりに死人と化したお前は霊体を作れないから本体が現世に出張る他ないんだよなぁ?」


「グギィ!?」

脳天を聖剣に貫かれウムブラが呻いた。


「後々の事を考えれば三年前に殺し切るべきだったな……今度は逃がさねぇぞ」


ズガガガガガッ、と柄の無い聖剣が降り注ぎ、ウムブラを石畳の上に縫い付けた。

勇は手に持った聖剣を振り上げた。聖剣が纏う淡い光が、その光量を増して行く。

柄の無い聖剣達もまた光輝き始め、聖剣達は太陽もかくやたる熱量を放っていた。


全聖剣による光の斬撃破。不死を謳うリッチすら、絶死に至らせる一撃だ。

再生する事など許さない。塵となる事すら烏滸がましい必殺の陣。





それを見て、ウムブラは嗤った。


「ギ、ギギィ……|この時を待っテいましタ……」

ヒュウヒュウと声枯れたウムブラの影から、一振りの朱槍が勇に向け伸びる。



「オオオォォォォォォッッ!!」

「!……姿が見えないと思ったら、いつの間にか影の中に仕舞い込んでいたのか」


火花が散り、次いで甲高い金属音が辺りに響く。待機させていた柄無き聖剣がその朱槍を遮ったのだ。

隙間風の様に反響する咆哮と共に、黒い鎧を纏った騎士が現れる。


「ォォォォオオオオオオオォォッッ!!!」

黒騎士は防がれた瞬間に動き始めていた。朱槍を巧みに操り柄無き聖剣を切り払いながら勇との距離を縮めようと肉薄する。


飛翔する聖剣がその身を切り裂いても止まると言う思考が欠如したように前進する。

黒い鎧が切り裂かれても、朱槍の切っ先が砕けても前に、前に前に……!


「なんなんだ、コイツは……」


執念すら感じさせる黒騎士の前進に、勇は一歩たじろいだ。



「ォォォオオオォォ…………ュウウウウウウウウウうゥゥゥゥゥ!!」


武具を砕かれ四肢を切り裂かれ、勇の足元に倒れ込んだ騎士は、この世の呪いを詰め込んだような声で、勇の名を叫んだ。






「は?」

聖剣が唯一砕けていなかった兜を破壊した時、勇の思考は吹き飛んだ。



青く変色した肌、血と泥に汚れた枯れ草色の髪。


そして、片耳を削がれたエルフの耳。



その姿は、勇が記憶の中に仕舞い込んでいた男の姿に、嫌になるほど似ていた。



「シリ…ウス?」

「ゴ名答ォォ!」


ズブリと不快な音と共に、勇の身体を骨ばったウムブラの手刀が貫いた。

投稿遅れてしまい申し訳ありませんでした。

活動報告でも報告しましたが、コロナに掛かっていた事とそのせいで体力が落ちたせいで仕事がとても辛く、慣れるまで帰っては即爆睡となっていたため執筆がしんどい事になっていました。


ですがようやく体力も戻りましたので今後またコツコツと更新していけたらなと思います。


今後ともよろしくお願いします

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[一言] おぉ、ずっと待ってた
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