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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
185/192

聖なるつるぎ

轟ッ!!

頬を熱波が撫でる。

蒼炎が空を焦がさん勢いで吹き上がり、視界が青に染まる。

そして蒼き炎柱の中に、人影があった。


「……アァ、良イ気分だ。お前が勇者になった時も、こんな気分だったのか勇?」


クツクツと漏れる笑い声。

勢いを失い静まる蒼炎越しに、肌色(・・)の裸体を晒す女が居た。

その女に角は無く、魔族の特徴である金色の瞳も無かった。

海のように深く艶のある髪、草原を思わせる淡い翡翠色の瞳。健康的な肌色をした、ただの人間にしか見えない裸体の女が、そこにはいた。


「アグ、ニエラ……なのか?」

勇は目の前にいる存在が公爵級の魔族であることが信じられなかった。魔族である特徴を悉く失ったどころか、その存在感すらも……人間にしか、思えなかった。


「流石に見違えたか?まぁ無理もねぇ、外見だけじゃなく中身も随分弄り回されたみたいだ。お前のそれよか随分劣るが、こいつもれっきとした『聖剣』だもんなぁ。『聖剣』の担い手が魔族じゃあ恰好付かないんだろうよ。まっ、見た目は完全に斧槍だが!」

勇が持つ聖剣の意匠を残した斧槍を肩に担ぎつつ、新しいオモチャを見せびらかす子供のようにアグニエラが笑う。

「魔族が、聖剣を使うのかよ……っ!」

吐き出すように零れ出た言葉に、アグニエラは笑う。

「そう言うなよ勇。オレだって思う所はあったんだぜ?」

アグニエラの斧槍から極光が溢れ、次の瞬間にはアグニエラは蒼玉の鎧を身に纏う。


精霊武装(アームズフェアリオン)まで……!?」

「けどさ、こうでもしねぇとお前に追いつけないんじゃあ、仕方ねぇよ」

蒼炎を閉じ込めたような美しい鎧に身に纏ったアグニエラは、少女のような笑みを見せる。


「一体どうやって――」

「悪ぃが、こちとら昂ってんだ、そう言う問答は――」

肩に担いでいた斧槍を振り回し、腰を落として構えたアグニエラ。

「……『古き(アル)ト・フリューゲ』!!」

「――ぶっ殺してからにしてくれよ!!」

勇が白亜の鎧を身に纏ったのと、アグニエラが踏み込んだのはほぼ同時だった。

絶対防御の鎧と、蒼炎の聖剣(ハルバード)が亜光速で接触し、周囲に衝撃と爆音を撒き散らしながら弾かれ合った。

「――ハッ!アッ、ハッハッハハハ!!最、高!最ッッッ高だぜ勇ぅぅッッ!!」

「この野郎……こっちが混乱から立ち直ってねぇってのに勝手にハイになりやがって」

互いに弾かれあった勇とアグニエラ。が、刹那、瞬きするよりも速く再び二人はぶつかりあった。

「これが!これが!!お前らの見ていた世界(もん)なのかよ!?……クッ、カハハハッ!!こいつは、こいつヤバい!まるで絶頂(イキ)続けてるみたいじゃねぇか!!」

聖剣と聖剣が衝突しあい、銀色の火花が散る。一合一合ぶつかる毎に空間を、世界を削り合う。


「お前と魔王の野郎は、こんなモンを独り占めしてたのか!?随分酷いじゃねぇか、なぁオイ!?」

「ちぃっ――」

跳ねるように自分に襲い掛かるアグニエラに、思わず勇は舌打ちを漏らす。

「どうしたァ!?その程度なのか?その程度なのかよ、勇ゥウウウゥッッ!?」

猛攻を防ぐばかりで反撃すらしない勇にアグニエラが叫ぶ。


それを勇は、どこまでも冷めた眼で見つめていた。



――勇は決して、優れた戦士ではなかった。才能が無いわけではない。だが、人類最強と目される魔法剣士レオンハルト。若くして拳聖とまで呼ばれたイーブサル。そして竜言語を操る今代の勇者、海斗。

戦士として彼らのように天才的な才能があったかと言われれば、やはり違う。


では何故そんな彼らでさえ個人の武勇では一歩届かずにいた、魔族の最高戦力階級である公爵級を相手に勇が圧倒的な力を誇示できていたのか。


無論、『聖剣の担い手(ゆうしゃ)』であったからだ。


聖剣の力は絶大だった。担い手になっただけで身体能力は公爵級と互角にまで強化(かいぞう)され、聖剣を開放しようものなら公爵級を片腕で薙ぎ払うことすら可能であった。


ではその圧倒的アドバンテージである聖剣の力による差が埋まった時、勇には何が残るのか?武技?魔法?どちらも天才らには届かず、武技に関しては凡百の戦士に過ぎず、魔法に関しては体内に魔力を持たず詠唱による発動ができない。


では『聖剣の担い手(ゆうしゃ)』として魔族であるアグニエラに力量の差を無くされた今、勇に何ができる?


「『白き大地(アル・ビオン)』」


――勇は決して、優れた戦士ではなかった。だが、しかし、誰よりも、どこまでも『聖剣の担い手(ゆうしゃ)』であった。




「――あ?」

グラリと、アグニエラの視界が傾く。気付けば、己の身体が腰から上半身と下半身に別れていた。

気付けば、勇が纏う魔力の鎧が様変わりしていた。守りを厚くする重鎧ではなく、速度を重視した、軽装の鎧へ――


「新しいおもちゃを貰ったガキみたいにぎゃあぎゃあ喚きやがって……こちとら、そんなもんは三年前に経験(・・)してんだよ」


「……」

身体を切り裂かれた程度、炎を司る魔族であるアグニエラには痛くもかゆくもない。

しかし、アグニエラは切り分けられた身体の事など忘れてしまうほどの衝撃を受けていた。


一撃で戦闘不能にさせられた。それも勇と同じ、『聖剣の担い手』と化した筈の自分が、感知できずに、だ。

このアグニエラが受けた衝撃は計り知れなかった。

勇が持つ聖剣と比べれば流石に劣るものの、公爵級の持つ本来の能力が加われば勇者と魔王にすら匹敵する筈の聖剣。

それをもってしても、見抜けなかった一太刀。何をされた?何をした?何をすればできる?アグニエラの頭の中は疑問符に覆われた。


……なんてことは無い。『白き大地(アル・ビオン)』による瞬間的加速よりブーストされた一太刀を、驕りにより視野が狭くなったアグニエラの猛攻の隙を突き叩き込んだ、ただのカウンター。


守りを固めた重鎧は言ってしまえば鈍重で、遅かった動きが突然早くなりアグニエラの知覚器官がその速さの強弱に対応できなかっただけだ。


ただ、それだけ。そう、力の入れ具合を計り、力を入れるタイミングを計り、たった一太刀で場の流れを己の方へ引き寄せただけ。


これだ。これが三年前より磨き上げて来たたった一つの力。

勇は誰よりも、聖剣(おのれ)を使い慣れていた



気付けば、アグニエラは頬を紅潮させながら立ち上がっていた。

聖剣の斧槍を掲げ、蒼炎を撒き散らしながらアグニエラは叫んでいた。


「最高だよ、勇。お前やっぱ最高だ勇っ!!さぁ、(ころ)しあおうぜ、勇ッッ!!」


嗚呼、やはりこの男は、自分が惚れ抜くに相応しい男なのだ。恋焦がれた相手を前に、アグニエラの鼓動は早鐘を打つ。


「付き合ってやってる暇は、こっちにはねぇんだよ……ッ!!」

周囲を見れば、リリルリーが、ベルナデットが、クオンが、トーレが、魔族と戦っている。戦力的に今は均衡を保っているが、何が起こってどう転ぶかはわからない。

闘技場の外はどうなっているのか。シルヴィア達はどうなったのか。焦りばかりが募っていく。

アグニエラの聖剣の存在も気になる。アレは、最初に見た偽の聖剣とはまた異質なものだ。勇は直感でそう感じ取った。

見た目ではない。あの聖剣の中身が、偽の聖剣より己の聖剣に近いものだと、直感が告げている。

そしてその直感が、あの聖剣があっては拙い(・・)存在だと告げていた。


否、それはもはや直感ではなかった。己の聖剣が、己の存在が、そう告げている。


「アグニエラ……!!」


極光が溢れ、蒼炎と衝突し、世界が揺れる。


大変お待たせしました。詳細につきましては活動報告に投稿しますが、待っていただいていた読者の皆様本当に申し訳ありませんでした。今後、定期的な投稿を心がけていくつもりです。こんな小説と作者ではありますが今後ともよろしくお願いします。

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