表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
168/192

剣の雨

 第二試合三戦目、竜人ド・イジュンと覆面の女騎士リューネの戦いは、激戦ながら膠着状態を保っていた。


 「フンッ!」


 神速で迫る剣を盾と身体の鱗で弾きつつ前進するド・イジュン。


 「……」

 対しリューネは一歩も動かずに相対していた。


 ド・イジュンの進行を阻み、隙あらば首を断たんとリューネの神速の剣が飛翔し、その剣の牙城を崩し本丸を討たんと、ド・イジュンが盾とその身を包む堅固な鱗を使い剣の雨の中を駆けて行く。

 後一歩、と言う時、熾烈さを増した剣雨に後退を余儀なくされド・イジュンが距離を取り、また進軍を解しする。


 進んでは退くド・イジュンと、進まれては迎撃するリューネの激戦は、先に言ったように、膠着状態に陥っていた。


 「おいおい、これじゃあ試合が終わらねぇだろうがよ」

 イーブサルがつまらなそうに舌打ちする。

 観客は手に汗握る激戦に歓声を上げているが、この野郎にとってはつまらない試合らしい。

 

 「カーッ、なんやあのチチデカ仮面、自分は動かずに剣飛ばしてばっかやないか。剣と剣とのぶつかり合いこそ漢っちゅうもんやろ!」

 瓢箪の中の酒をあおりながらわめくザッパ。

 残念ながらそのチチデカ仮面さんは女だ、どう見ても。


 「うわ……なんだ、アレ」


 下手に強いせいで目の前で起こってる事を認識できてしまうクオンが、リング上での激戦に絶句する。

目で捉える事すら難しい速度で放たれる無数の剣、それに対処し前進を繰り返す竜人。

 リング上は言葉通りの意味で戦場と化していた。

 無数の軍隊に対し、単騎で突撃する軍隊の、それは戦争だった。


 「見ておけクオン。……恐らく、俺達三人と同じくらい強い奴の戦いだ」


 かつて俺と戦って(徒手空拳のステゴロ)勝ち越してるイーブサルと、この大会で四度連続で優勝したらしいザッパ。

 あの竜人とチチデ……覆面の女騎士は、俺達と同じ、化け物に片足突っ込んだ超人達。


 「……しかし堅いな、あの鱗」

 飛来する剣を弾く竜人の鱗。何度受けても切り裂かれる事無いその鉄壁さに思わず舌を巻く。

 「龍種と互角、って言うのは流石に言い過ぎだが、並の鋼より堅いぞあれは」

 俺とは逆に楽しげに笑うのはイーブサルだ。

 「狙うは目か口の中か……イヤだイヤだ。あんなかってぇのとやり合いたくないね」

 俺がため息をつくと、背後から羽交い締めにされた。


 「なんや坊主!もうこのわしに勝った気かいな!」

 酒臭い息を纏ったザッパだ。

 「うっ、ぐっ……酒くせぇ……つか離せっ!」


 暴れてザッパの拘束から逃れると、何が楽しいのかザッパはゲラゲラと笑い、また酒をあおる。


 「この酔っ払いが……」 

 「アニキ、アニキ!」

 ため息を吐いていると、耳元でクオンが小さな声で俺を呼ぶ。


 「ん?どうかしたか?」

 「いや、あのド・イジュンって奴の鱗の事。……アニキなら、あの鱗も斬れるんだよな?」

 小さな声なのは他の二人にバレないように配慮してだろう。


 「まぁ、斬ろうと思えば斬れるさ。……ただ、俺は人を斬れないからなぁ」


 「?」


 わけがわからないと首を傾げるクオンに苦笑し、俺はまた視線をリングに向けた。



 

 ド・イジュンは焦れていた。


 弾丸の如く飛来する切っ先を盾と身体を覆う深紅の鱗で弾きながら、ド・イジュンは覆せぬ状況に、焦れていた。


 (千日手……否、コチラノ方ガ、不利ダ)


 動き回るド・イジュンに対して、不気味なまでに動きの無い相手。

 体力にはまだ余裕があるが、このまま続けては恐らく負ける。


 仮に、仮にだ。この目で捉えるのも難しい神速で放たれる剣を操るのに、魔力、又は体力を消費するのであれば、まだ活路は見い出せる。

 だが、ド・イジュンの持つ勘は、『敵の早期廃絶』を告げていた。


 (ダガ……ッ)


 飛び交う剣の中を駆け敵に近づけば、


 ――ズガガガガガガガッッ!!


 (グウゥッ!!)


 音速を越える速度で放たれた剣の猛攻を受け、ド・イジュンは退く他無い。

 例え鱗が剣の刃を弾こうと、剣がぶつかった衝撃は伝わるのだ。

 目で追うのがやっとの速度で放たれる剣。それが生み出す衝撃は、ド・イジュンに確かにダメージを与えていた。


 (耐エル他、無イナ)

 己にあるのはこの四肢と、盾にメイス、そして鎧だけ。

 なればそれを信じ、耐え抜く以外に勝機は無い。


 ド・イジュン距離を置き、徹底抗戦の構えを取った。


 だが――


 「? ……来ナイ?」


 剣の雨が止んだ。何故かはわからない。だが、あの剣の雨は確かに、止んでいた。


 「……面倒だ」

 

 ボソリと、声が聞こえた。相手が発したのだろうか。


 すると、固くなまでに動かなかった相手が動いた。手をド・イジュンへ伸ばし、何かを掴もうとする所作を見せ、相手の手に、いつのまにか一振りの剣が握られていた。


 その剣は見たこともない剣だった。

 

 長さはロングソードほど、だがその剣にはまるで血脈(けつみゃく)のような溝が走り、その溝を赤い光が走っていた。

 

 「――『我魂を渇望す(ソウルディザイア)』」


 血脈を思わせる溝から、赤い光が溢れ出す。


 その光は剣を覆い、そして――



 「避けろおおおおぉぉぉっ!!!」


 そこで、ド・イジュンの意識は途切れた。



 そして二度と、その意識が浮かぶ事はなかった。



お待たせしました、最新話です。


次回をお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ