表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
166/192

獣化

 フード付きの外套を脱いだ獣人の少年、プロキオン。

 太陽の光に煌めく銀色の髪を持ったその少年は、海のように深い青色の瞳を持っていた。


 「狼……?」

 「正解だ。僕の一族は銀狼族と呼ばれていた」

 犬のような獣耳と、鋭い雰囲気からクオンが呟くとプロキオンは小さく頷いた。

 『ほほぉっ!』

 「玉藻?」

 銀狼族と聞いて面白そうに声を漏らした玉藻をクオンが見る。

 『銀狼族と言えば、数百年も前に絶滅したと聞いておりやしたが……どうやら噂と言うのは信じられんものでありんすな』

 「大差無いよ。今じゃ僕だけだしね」

 プロキオンはそう言い、リングに突き立てていた槍を引き抜いた。

 「さて……無駄話はここまでだ。そろそろ行かせて貰おう」

 槍をくるくると回転させた後、切っ先をクオンへ向け槍を構えたプロキオン。

 クオンはいつでも戦えるように黒刀を構えた。





 「──はああああぁぁっっ!!」


 低く、唸るような声がプロキオンから発せられる。

 それは膨大な殺気と共に放たれて大気を揺らし、クオンの肌にビリビリとした感覚を伝えた。


 「あああああああぁっっ!!」


 白銀の少年の身体から、赤い闘気が溢れ出し、


 「────っっ!!」


 次の瞬間、爆発した。

 爆発した闘気は嵐のように吹き荒び、対峙するクオンは吹き飛ばされかけた。

 「っ、悪ぃ、玉藻」

 『気にするでないクオン。……しかし、これは……』


 吹き飛ばされかけたクオンの背を玉藻が支える。

 クオンは玉藻に礼をするが、玉藻の興味はプロキオンに向かれていた。



 「……これが僕の切り札、『獣化』だ」


 そこに立っていたのは、狼と人とを足して2で割ったような、歪な人狼の姿があった。


 


 ◇


 「なんなんだい、アレは」

 トーレは闘技場のリングの上にいる獣人の少年だったものを見て、思わず呟く。

 白銀の体毛、2メートルはある巨躯、そして狼の顔。

 つい先ほどの姿とは、あまりにもかけ離れた、化け物のような姿。


 「……『獣化』だ」

 「『獣化』?」

 勇が真剣な表情でリングを見つめながら言うと、ベルナデットが首を傾げた。

 「獣人なら誰でもその素養はあって……だけど一部の、ごく少数の獣人しかなれないって言う、変身した姿。……俺はそう聞いた」

 勇は腕を組んで小さくため息をついた。


 「プロキオン……お前、兄貴に並ぶほど強くなっちまったのか」

 

 ◇


 「……っ」

 クオンは思わず、砕けんほどに奥歯を噛み締めた。

 獣と人が融合したようなその姿から発せられる覇気に脚が震えたからだ。

 震える脚を無理やり立たせたクオンは黒刀の柄を強く強く握りしめた。


 「この状態の僕は、こと身体能力にのみおいて、師匠……ヤシロさんすら凌駕する」

 一歩、人狼が足を踏み出した。


 「そして……『身体強化(ディバイン・アームズ)』」

 人狼と化したプロキオンを薄い光の皮膜が覆う。

 身体能力を強化する魔法、ディバイン・アームズ。

 単純に能力を強化するだけでなく、その光の皮膜が障壁にもなる使い勝手のよい強化魔法。

 「これで、公爵級を除く上級爵位魔族(ハイクラスコマンダー)徒手空拳すでで殴殺できる程の力を得た」


 また一歩、プロキオンが足を踏み出すとその瞬間、クオンはプロキオンへ向け縮地を用いて肉薄した。


 「っ!!」

 気圧されたのだ、その強すぎる存在感に。

 故に意志より速く身体が動いた。

 留まっては勝ち目は無いと。


 まばたきするよりも速い刹那の速度でプロキオンに迫るクオン。

 クオンは縮地の速度のまま、黒刀を振り抜いた。


 「──君では、師匠の弟子であると言う事実は重しになる」

 「っ!!」

 その声が後ろから聞こえるのと同時にクオンは反射的に振り返りつつ距離を取った。

 「……ど、どう言う意味だよ……っ」

 「そのままの意味だ。……確かに君は強い。だけど、だけどそこまでなんだよ、君の強さは──っ」

 「ぐぅっ!?」


 プロキオンがクオンの視界から消えたその次の瞬間、クオンのわき腹に強い衝撃が走る。

 痛みに声を上げながらクオンは、まるでボールを投げたように吹っ飛びリングを転がった。


 「あっ、がっ──!!」

 幸いにも骨は折れていない。が、痛みが内蔵に広がっていた。

 鈍い痛みが頭を支配し思考を奪う。

 

 『クオン!!おのれわっぱがっ──!?』

 玉藻がプロキオンを睨みつけ、指で印を構えようとすると、プロキオン槍を投げ放った。

 玉藻の反応速度を越えて放たれたそれは、玉藻の身を貫きリング上に玉藻の身体を縫い付けた。


 『っ、ぬ、抜かったわ……』

 憎々しげにプロキオンを睨みながら玉藻は短刀へと戻った。

 短刀が落ちる音が、静寂を貫く闘技場に響いた。


 「いずれは強くなるだろう。けど君が強くなるまでに、師匠は幾度となく争いに巻き込まれるだろう。……そう言う人だ」

 苦笑したプロキオンは視線を観客席へと向けた。

 その視線の先には、勇が居た。


 「君が師匠の足手纏いになり、また師匠の存在が君に危険をもたらす」

 人狼の姿をしていたプロキオンが、徐々にその姿を変え、元の少年の姿になって行く。


 「良く考えて置くんだ。……憧れだけでは、師匠の行く道の邪魔になる」


 完全に元の姿に戻ったプロキオンはそう言うと片手を上げた。



 「僕は棄権する」


 その声は観客席までにも届いたものの、観客達は熱狂の声を上げることもなく、静かに試合は終わった。


お待たせしました、最新話です。

初登場の新キャラなのに強くし過ぎじゃね?と言う声が聞こえる気がしますが、実は彼、名前だけですが既に登場しております。

気になった方は探してみてください(ヒント:三章辺りです)


ではまた次回。お楽しみにー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ