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グラード荒野の戦い【1】

ルクセリアの城の中庭にて、籠手を付けた少女がその可憐な見た目に似合わぬ、荒々しく動きで拳を振っていた。彼女の動きを追うようになびく二房の黒髪はその動きと同じく、荒々しく空を舞う。



「…はぁっ…!」


少女の掛け声と共に突き出された拳は、虚空に軽い破裂音を立てる。


「やあぁっ!」


続いて全身を捻らせ、最大限遠心力をつけた回し蹴りが轟音を立てて空を切り。


「たりゃああぁ!」


〆とばかりに繰り出された手のひらからは蒼い光が漏れ、突き出すと同時に、光は炸裂した。



「はぁ………はぁっ…」



黒い髪を二房に分けた少女は、自分の着ていた服を汗で濡らして透かせながら、地面に大の字になった。


息を吸う度に肺に来る熱気が、身体を熱くし、更に汗を出させる気がした。



「随分荒れているな、茜」


空を見ていた彼女の視界に、彼女と同じ年頃の巫女服の様な、着物と袴を着た少女が現れた。


黒い髪を腰まで伸ばし、前髪を切り揃えた少女は、大の字になっていた少女に濡れたタオルを渡す。


「……ふん」


茜と呼ばれた少女は手渡された濡れタオルで顔や首もとを拭い、ようやくスッキリした。


「海翔の事か?」


「う、うっさいわね!」


「はは、隠さずとも良い。私も同じだからな」


「え……咲夜…アンタ、まさか…」


「茜のようなフォーリンラブな訳ではないがな」


「うっさい!」


茜が視線で噛みつくと、咲夜と呼ばれた少女は、クス、と笑って、直ぐ表情を曇らせた。


「やはり、あの時のせいなのだろうな………海翔がおかしくなり始めたのは」


「…………」


茜は、咲夜の言葉を否定しなかった。


「人の死を、あんな残酷な形で見せられたのだ……以前と同じようには成れぬも道理。

海翔が迷宮(・・)に籠ってしまってはや五日経つが、

今、彼処で海翔が自身を虐め抜いている理由は、あの時の魔族を倒すためだ」


そう。天城海翔はアグニエラの襲撃の一件から、まるで己に罰を与えるかのように自身を虐め抜いた。


このままでは魔族は倒せない、と宮廷魔導師長に懇願し時の流れの違う『時の迷宮』へ入った。


そこは古竜を始めとし、様々な古代の種が跋扈する魔窟だ。

そしてその迷宮の最奥に鎮座する最強の竜種である最古の竜(エルダードラゴン)から特殊な魔法の教えを受けているらしい。


「海翔が苦しんでいる、そんな時に海翔の力になれない。………だから今のような無理な鍛練をしていたのだろう? いや、鍛練と言うより、暴れていた…と言った方が正しいか?」


「……」


咲夜の言う、その通りだった。


海翔はあの時から変わってしまったのだ。

今まで見せていた歳相応な笑みは陰りを見せ、剣を握れば怒りを瞳に宿す。


優しかった海翔は消えてしまい、魔族に対する怒りだけになってしまったように茜は感じた。

あの時もっと強ければと嘆く今の彼には、彼女らの声さえ届かない、そんな風に感じたのだ。


それが悔しくて、哀しくて、彼女は鍛練とは呼べぬほど荒く稚拙な自傷行為に走っていたのだ。


「良ければだが、……私も暴れたくてな。……手伝ってはくれぬか?」


咲夜が何処からか取り出したのか、刀を鞘から抜く。

これは魔剣の工房に刀の概要を伝えた所、その老鍛治師がうち据えてくれたものだ。



「! …良いわよ。咲夜とは一度本気でやって見たかったし!」


その刀を見た茜は、大の字から脚を上げた反動で上手く立ち上がり、自身の拳を拳に打ち付ける。

先ほどまでの、暗い雰囲気はなくなっていた。

自分だけではなかったのだ。彼の変化に困惑と、焦りを感じていたのは。



「行くぞ!」

「上等!」


刀を持った少女と、拳を構える少女とが互いに走り出す。


「「我が身よ猛れ、『ディバイン・アームズ』」」


少女達が叫ぶと、その身体を淡い光が包む。

身体強化魔法『ディバイン・アームズ』。

腕力、脚力を始めとした身体能力を上昇させ、同時に防護皮膜のような障壁を展開する複合技だ。


身体能力が強化された二人は風のような速さで激突し、銀閃が走る。


常人では捉えられない程の速度の剣撃と拳撃とがぶつかり合い、弾き合う。


「ふふ、晶はともかく武術も何もしてなかった茜が良くここまで強くなったものだ!」


刀を神速で振るう少女咲夜は少しでも反応が鈍れば自分を捉えるであろう拳を見切り、刀の腹で逸らし、身体を動かし避けながら感慨深げに話す。


「ちょ、話しかけないでよ!」


対し茜は身体能力はともかく、技量の上の相手である咲夜に喋る余裕も無さげに拳を振るう。


「やはり、海翔の為か?」


「んな!?」


「油断大敵だ」


茜が海翔に恋心を抱いている事を知っていた咲夜が口先で茜の同様を誘い、見事に乗って来た茜の隙を、突く。


「こなくそっ!」


「ほぅ…!」


しかし突きを上半身を反らしたことで避けた茜が、反らしたままサマーソルトキックを放ち刀を上に弾く。

刀を持ったままの腕が、上を向く。


「貰った!」


四脚で着地した茜が右手を引きながら大きく踏み込む。


右手に光が集い、散りそうになるそれを茜は掴む。


「インパク――ッ」


「それは痛そうだからな、食らってやれない」


突きだした掌が上に弾かれる。


見れば咲夜の腰に携えられていた黒鞘が握られていた。


「ず…狡いわよ咲夜!鞘を使うなんて聞いてない!」


「武士が奇策を用いないと決めてかかった茜が悪い。……ふふ、今の所はまだ、私が上かな?」


茜の喉元に突きつけられた刃。白刃の煌めきに茜は唾を飲み込んだ。




「茜さ~ん!咲夜さ~ん!」




二人の勝敗が決すると、どこからか自分達を呼ぶ女の子の声が聞こえて来る。


「ほんと、女の子にしか聞こえないわね」


「むしろもう女子ではないか」


女の子の声………しかし、この声を発しているのは、彼女達にとって異性の、男性だ。



たったったっ、と靴音を鳴らし二人の前に走って来たのはぶかぶかの黒のローブを羽織身の丈を越える樹の杖を両手で持つ美少女………にしか見えない男の子だ。


「どうしたのよ晶。あんた運動できないでしょうが」


到着した途端息が切れたように荒く呼吸をする小柄な少年、晶を茜は心配する。


「戻って来たんです…! 海翔さんが迷宮から戻って来たんですよ!」


息を切らせながらどうにか言い切った彼の言葉を待たず、茜は走り出した。


「えっ、ええ!?ま、待ってくださいよ茜さ~ん!」


「まあ待て晶。 お前の事もある。我々はゆっくり行こう」


走り出した茜を追おうと晶も走ろうとするが、咲夜が肩を掴み止める。





「海翔!」



茜が着いた場所には大きな門と、その門を後ろに立つ、黒髪の少年。服はボロボロになり、身体も傷や汚れまみれだが、彼の瞳と、その手に持つ魔剣だけは輝きを失ってはいなかった。


海翔の迎えに来ていたらしいルクセリアの姫君や宮廷魔導師長らが居る前で茜は海翔に駆け寄り、抱き付いた。


「わっ!あ、茜!?」


突然抱きついて来た幼馴染みに海翔は困惑する。


「う、うっさい! す、少し黙ってなさいよ!」


彼女らにとって五日。たった五日だったが、時の迷宮に居た海翔にとっては一月に当たるもの時を、化け物と呼ばれるモンスターの巣窟に居たのだ。

一月もの間戦いの日々に置かれていた彼を茜が心配しない筈もなかった。


死にはしないと信じてはいたものの、大きな怪我をしてないか、苦しんでないかと、茜はずっと心配してた。


たった五日間の別れだったが、彼が五体満足で帰還した事に茜は心から喜んだのだ。



「…………」


一月振りに幼馴染みを身近に感じた彼は、この世界に来て、久しぶりの笑みを浮かべるのだった。






グラード荒野。


ルクセリアから西へ遠く離れた所に広がるこの広大な平原は、岩と砂の荒野と化している。



「うわ………凄い…何なのよ、この数は」


馬車から降りた茜が辺りを見回す。

茜が見たのは、総勢十万を越す巨大な軍団だった。


「うわぁ……皆さん強そうですね」


続いて馬車から降りた晶も、視界の端から端に広がる戦士達の姿に驚く。


「荒野か。足場の悪い砂原でない事を良かったと思うべきか。が、視界が悪い」


身の丈を越える長刀を背負う少女、咲夜が降り立った地の環境にため息を付いた。


彼女の言う通り太陽も雲に隠れ暗く、風が強く砂が舞っていた。

軍団の端が、微かにしか見えないくらいには、視界が悪い。



「ここに……奴等が、来る」



最後に降りた少年は、倒すべき敵が来訪するであろう方向に視線を飛ばし、呟いた。


この世界レインブルクに召喚された当代の勇者達である。


彼らは皆白を基調にした装束を身に纏っていた。

唯一、天城海翔のみ赤いマントを首に巻いている。



「お待ちしておりました」


彼らに声を掛けたのは、赤のバトルドレスの上に白鉄と言う鋼で作られた軽装の鎧を着込んだ美しい金糸の髪を持つ美女。


ルクセリアの王女、イリス・クラウデ・ロ・ア・ルクセリアだ。


何故彼女が海翔らを待ってたかと言うと、数万の軍団を率い、先行していたのだ。


「凄い数の兵隊さんですね。……ルクセリアにこんなに兵隊さんがいるとは思いませんでした」


少女のような少年、晶が呟いた疑問に美姫は笑う。


「え?……ぼ、僕何か可笑しな事言いました?」


「見てみろよ。……あっちの兵は鎧も違うし、何より掲げている旗が違う。外国の兵隊だよ」


晶の問いに、海翔が答える。


鎧を着込んだ兵団を幾つか見ると、その鎧にも差があり、掲げる旗がそれぞれの国のものとなっている。



「海翔様の言う通り、我が国の兵達だけではありません。大国ではバランシェル帝国、リーゼリオン皇国の兵団を始め、自由都市ガラリエらの闘技団なども駆け付けてくれたのです」


「バランシェル? リーゼリオンってのは前の勇者を呼んだ国だってのは聞いてるけど、バランシェルって言うのはどういう国なんです?」


「バランシェルと言うのは―――」


「俺様の国が、なんだって?」


美姫の言葉を遮り、突然現れた男が答えた。


燃えるような赤髪に浅黒い肌の大柄の男は、下半身のみ黒の甲冑を纏い、上半身には衣服を纏わず、装備は籠手などだけと言う軽装とも呼べぬ奇妙な格好をしていた。鍛え上げられた筋肉こそが鎧、とでも言いたげだ。


「は?……なによアン――」


「やめろ茜。……多分、この人がバランシェルの王族の人だ」


突然話に割って入って来た男に苛立ちを露にする茜だったが、海翔がそれをまた遮る。


「少し違うが、まあ良いか。 俺様の名はイーブサル・ドラ・グレゴリア・バランシェル。まだ皇太子だが…んま、最終的に俺が皇帝になる」


皇太子を名乗る不遜な男は腕組みをした。

男は良く整った顔をしているものの、その目が人をなめ回すような下卑たものなせいか、人に不快感を与えた。


「……ふむ、中々美人揃いだな。……良し、決めた。テメェら、俺の元に降れ。俺が全てを与えてやる」


茜の頬に手を添えたイーブサル。それの手を茜が弾く。


「ざけんじゃないわよ、この変態!」


「俺様が、変態!?………ウハハハハ! イイゼ、イイゼお前、気に入った。 お前ら女たちは後宮に入れてやってもいい。……どうだ?」


変態、と呼ばれた事がツボに嵌まったのか笑うイーブサル。

茜だけでなく、咲夜や晶にまで突っ掛かる。


「? 晶は男だぞ?」


海翔が言うと、イーブサルは晶の纏う白のローブをたくしあげ、ズボンを下着ごと、降ろした。



「ふぇっ!?」


一瞬何が起こったかわからなくなった晶が声をあげる。



「お、本当に付いてら。けどま、安心しな。俺は美人なら男もイケる派だからよ。……可愛がってやるぜ?」



「ふえええぇぇっ!?」



そして耳元で囁く変態に対し叫び声を上げた。



「何すんのよ変態――っ!!?」


晶の下半身を覗き見ていたイーブサルに茜が渾身の蹴りを放つも、イーブサルは籠手を付けた左腕で軽く防いで見せた。


「お?……やるな、お前。本気で欲しくなってき―――」


防いだものの、その強力な蹴りを受け茜の実力を垣間見たイーブサルは不敵に笑いながら手を伸ばし、



「止めぬか、イーブサル!」



凛とした美声に、止められる。



「相変わらず美人じゃねぇか。どうだ?俺の女にならないか? お前だったら妃にしてやるぜ?」



笑みを更に鋭い物にしたイーブサルの視線の先には、日に照らされ煌めく銀の髪をした、絶世の美女。



「貴様のような男の元には嫁がん。婿としても要らんよ」


「言ってくれるじゃねぇか、シルヴィア」


イーブサルが言うも、シルヴィアと呼ばれた銀の髪の女は彼を無視し、イリスや海翔達の前に立つ。


「ルクセリアの姫よ、久方振りだな」


シルヴィアが言うと、ルクセリアの美姫も頷き、


「はい、陛下。二年ぶり、でございます」


と答える。にこやかに語りかけ、答えた二人だが目だけは、二人とも笑ってはいなかった。


「君たちが当代(・・)の勇者達か?」


シルヴィアが視線を逸らし海翔達に問う。


「え……あ、はい。…貴女は?」


海翔は彼女が当代と言う部分を強調したのに気づいた。



「そうか。……私はシルヴィア。 シルヴィア・ロート・シェリオット・リーゼリオン。 かつて先代の勇者と共に戦場を駆けた元第二皇女だよ」



彼女、シルヴィアはそう言って、微かに微笑んだ。

二代目編があまりにも不評だったため、ある程度はしょり、尚且つ視点を第三者にしました。


先代も数話で再登場



感想待ってます



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