先代勇者とさわやかイケメンモーニング
「おはようございます、勇」
「……」
寝起きに目を開けたら金髪の爽やか系イケメンの笑顔が視界一杯に広がっていた。
なんの拷問だこれは。
「おや、気分が優れないようですね。苦虫を噛んだような酷い顔をしてますよ?」
「誰のせいだ誰の」
俺が起き上がろうとすると金髪のイケメンは数歩下がる。
「一体何のようだよ」
「いやぁ、爽やかな朝に爽やかな目覚めをと思いまして」
金髪のイケメン、レオンハルト・クラシオンは爽やかな笑みでそう言った。
たがしかし、俺にはこの笑顔の下にもう一枚面の皮があるのを知っている。
「嘘つけ、絶対何かあるんだろ」
「随分と信頼が無いですね」
「散々やられたからな、この愉快犯め」
そう、この男、リーゼリオンの騎士であるレオンハルトは爽やか系イケメンな見た目に反して、面白ければ何でも有りな愉快犯なのだ。
「はは、勇、貴方にそう言われるのも久しぶりですね」
「その気質はこの三年で直して欲しかったぞ。……んで?何用だよ」
ようやく微睡みから覚醒した俺はコート掛けに掛けてあった『黒き執行者』のコートを羽織る。
質の良い布を使ったこのコートは着心地が良い。見た目を気にしてみれば、だが。
「久しぶりに陛下と調練でも如何ですか?」
「シルヴィアと?」
尋ね返すとレオは頷く。
「どうやらあまり寝付けなかったようで、朝早くから剣を振るっておいでです」
「それで俺に?レオでも良いじゃんか。実際、真っ当な剣術ならレオの方が上手いし」
「何を言うかと思えば……勇、貴方は相変わらず乙女心をわかってませんね」
ため息をつきながらもどこか面白そうに言うレオンハルト。
それ、普通野郎が言うことじゃねぇんじゃねぇの?
「では逆に考えてみてください。そうですね……勇だと……乳房と臀部の大きな美女が夜遅くに誘って来たら?」
「いや、まあ朝までトゥゲザーしたいと思うけどさ……乙女心ってそんなもんなの?」
「女も男も体して変わりませんよ、特に恋愛や性欲に関してはね」
性欲とかそう言うエグい話はやめて欲しいんだけどなー。一応俺もまだ16なわけだし。忘れられがちだけどな!
「ま、今のとこやることないし良いか……庭にいるんだっけ?」
「ええ。身体を動かし始めてもう十分程になりますね。身体もほぐれ、一番身体が動く状態です」
「片や最高のコンディション、片や今起きたばかりとか差がありすぎだと思うんだがねぇ」
「おや、それには気づきませんでしたね」
嘘こけ、こいつの事だ、シルヴィアがちょうど仕上がる時間帯に起こしに来たに決まってる。
ま、良いさ。何も一瞬のミスが死を招く殺し合いをしようってんじゃないんだ。軽く打ち合うとしよう。
「んじゃ、行くか」
装備を整え、俺は一泊した部屋を後にした。
◇
「わぁお」
中庭に出た俺の目の前に広がったのは、思わず一歩引いてしまいそうなくらい衝撃的な光景だった。
「む? ……おお、勇か。朝早くどうした?」
シルヴィアはキャミソールとデニムのパンツと言う動き易さを優先したような服を着た上で両手に手甲を着込んでいた。
「いやむしろお前がどうしたと言うか……何やってんの?」
「見てわからないか?我が近衛達に訓練をつけてやっているのだ」
あっけらかんとしているシルヴィアの周りには鎧を着込んだ兵士達がそこら中に倒れていた。
勿論生きてはいるがしこたま叩きのめされたのか兵士達はうめき声を上げている。
なんと言うか、地獄絵図とか阿鼻叫喚とかそう言った光景だ。
「さて後は……む?レオの姿が見えないな。終わったら一戦やると言っておいたのに……まぁ良い。勇、暇なら少し付き合ってくれないか?」
そう言うとシルヴィアは刃を潰してない細剣の切っ先を俺に向けてきた。その表情は実に清々しい。自分の近衛をぶちのめした皇帝様とは思えんね。
しかしレオの野郎、まさかとは思うがシルヴィア相手が面倒だから俺を起こしたわけじゃねぇよな?
「あー、良いぜ」
もともと一戦交えるつもりだったので俺は軽く頷いて翠と蒼、雌雄一対の宝石剣を取り出す。
「ほう、魔剣か」
「わかるか?」
俺も相手の得物が魔剣か否は打ち合えばわかる。しかし一目見ただけで見抜く事はできない。
「内容まではわからないが……術式が剣に雁字搦めになっている」
俺はもちろん見えないが、世の中には常人では見えない物を捉える目を持つ奴がいると聞くが、シルヴィアもその一人なのだろうか。
「魔眼ではないぞ? 恐らく血が成せる業だろう」
「なるほど、合点がいった」
シルヴィアやアリシア、リーゼリオンの王族は精霊の血を継いでいるらしい。魔法大国と言われる所以の一つは間違いなくそれだ。
「さて……打ち合うのは久しぶりだが、腕は鈍ってないだろうな?」
剣先を揺らし挑発するシルヴィア。どこか楽しんで見えるのは俺の勘違いではないと思う。
「三年は剣からは離れてたが、こっちに戻ってからは剣を振るう場には困らなかったからな。落ちてたとしてもそこまで酷いもんじゃないと思ってる」
「そうか……では、行くぞ!」
そう言うと、シルヴィアは細剣の切っ先をこちらに向けたまま、縮地を行った。
俺が身体能力のごり押しで『地面を蹴って、一歩で相手の距離を詰める』技を魔力を使う事で常人でも可能にしたのが『縮地』だ。
魔族との熾烈な戦いのためシルヴィアが編み出した戦法でもある。
縮地を使ったシルヴィアが、俺がギリギリ知覚できる速度で迫る。
「!」
それに対してタイミング良く剣を振るも、シルヴィアは剣が届くギリギリの間合いでピタリと止まりやがった。
「ほぅ、ここが間合いか」
『縮地』による急加速と急停止。なるほど、敵に回るとこれだけ面倒な相手もいないな。
「お前の得物だって対して変わらんだろ!」
一歩踏み込み双剣の間合いを広げると、シルヴィアは逆に間合いを詰めて来た。
ギィンッ!!
蒼の宝剣と細剣がぶつかり合い金属音が鳴り響く。
水曜日に投稿する筈が個人的事情により遅れてしまいました。申し訳ありません。
さて話は変わりますが、なんとこの『先代勇者は隠居したい(仮題)』ですが、つい先日二周年を迎えました!
書き始めた当初はエタらないようにしようとだけしていたのでまさか書籍化なんて考えてもいなかったです。
初心を思い出し、これから頑張って行きたいと思います。
ではまた次回。お楽しみに~




