先代勇者と飛空艇
俺達がこの島に来た時とは正反対の穏やかな海の上、その船のような物は浮かんでいた。
ような物、と言うのは細部は船に酷似しているもののそのシルエットに大きな差があるからだ。
船の至る所に大小様々なプロペラが付き、マストは船に比べ短くそのマストに繋がるように、細長い風船のような物がくっ付いている……そんなヘンテコな姿をしていた。
「こいつがアタシ等の船、『ブラックローズ号』さ!」
両手を広げ自慢げに紹介するアンジェリカには悪いが、俺の意識は見慣れぬシルエットの飛空艇に向けられていた。
「なんだ……これ……風船にプロペラを取ってつけたような……まさか、こんな原始的な方法で飛空艇を……っ!」
「うわぁ……すっごい嬉しそうな顔してますよヤシロさん」
「何が良いんだかさっぱりだわ」
ベルナデットとフィオナがなんか言ってるが正直聞こえん。
うわぁ! うわぁぁっ! すげぇ、すげぇよコイツ! 魔石に似た性質の風石によって浮かぶ今までの飛空艇に比べすげぇ合理的な作りしてんじゃねぇか?
今までの飛空艇は風石により生じる風を帆と帆をそのまま取っつけたような翼に受ける事により飛ぶ事が出来た。
反してこの新しい飛空艇は風船のようなもので浮かび船の両翼に当たる大きなプロペラを動かし方向転換するだけだ。
「気に入って貰えたようだねぇ」
「ああ。一から十まで解体してみたいくらいに」
「や、やめとくれよ?」
ちっ、流石に無理か。
「なぁなぁ、アンジェリカ、早く船内見せてくれよ」
「ふふん、こう言う時だけは年相応のガキっぽいじゃないか。んじゃあ勇者様ご一行の船内ツアーと行こうかい」
不敵に笑うアンジェリカだったが、甲板へ上るタラップ上で滑って海へ落っこちたのだった。
◇
「ほぉ、コイツが……なるほど、魔石はプロペラの動力としてだけじゃなく風石の役割もしてんのか」
「良くわかるじゃんか、黒毛」
「良く言えばわかるだけだって。どう動かしてるかまでは……いや、なんだこれ……歯車?……そうか、魔石に回転を加えて……」
「姐さんがok出したのは見るだけなんだぞ?解体したらダメなんだぞ?」
「わかってるさ」
勇とノッポとチビが飛空艇談義をしている中、ベルナデット達女性陣は船長室の丸テーブルを囲みティータイムと洒落込んでいた。
「あまり香りの良くない茶葉ですね」
「泥水よりかは幾分かマシ、と言った所かのぉ」
「海賊なのになんで紅茶なんだ?」
「気品の欠片もないのに気取りたいんでしょう」
「アンタら嫌な客だねぇ」
全員からのダメ出しに苦笑しながらカップを置くと、アンジェリカは椅子に座る四人を見まわし溜息をついた。
「黒毛……いんや、勇者様はハーレムでも築きたいのかねぇ」
呆れたように呟いたアンジェリカの言葉に、ベルナデットとフィオナの二人がむせ返った。
「は、ハーレムってなんですかハーレムって!」
「両手に花、いや四方に花さ。そう勘ぐるのは当然だろう?」
顔を真っ赤にし立ち上がるベルナデットにアンジェリカはニマニマと笑い答える。
「……何故私までカウントしているのよっ」
「おや、違うのかい?」
心底驚いたような、しかし口元は緩んでいて笑いを堪えるような表情でアンジェリカは紅茶を啜る。
「って……なんで貴女がヤシロさんが勇者だって……」
「キキッ、主が言うたであろう。わらわと相対した際その姿を顕現し、現れた使徒を蹴散らしたと。キキキッ、いやぁあれは見ものじゃったのぉ、使徒を木端扱いとは」
そうだった、とベルナデットは頭を抱えたくなりながら着席する。
「ハーレムってオレもなのか?」
「キキッ、わらわの主じゃ。節操が無いくらいが丁度良いわ」
「そっか、じゃあオレは愛人兼弟子ってわけか」
「あ、愛人とか生々しいですね」
ベルナデットらが話している中、フィオナ紅茶を一口含み、飲む下すと視線をアンジェリカを抜いた三人へ向けた。
「貴女達はどこまで、勇について行く気?」
フィオナの一言に姦しかった三人が一瞬静かになる。
「それは……どう言う意味ですか?」
「……勇はこれからも旅を続けるでしょうね。終わりを定めてない、どこまでも続く旅を」
一拍置き、フィオナは続ける。
「それに着いて行くのは酷よ。……勇の傍らには、まだ彼女がいる」
ベルナデットの手に力が籠る。
「だから、貴女達は自分で終わりを決めなくてはならない。……もう一度聞くわよ? どこまでついて行くの?」
フィオナの鋭く、強く光る瞳が三人を捉えていた。
「……オレは強くなる。ヤシロのアニキに付いて行って、もっと強くなりたい」
最初に答えたのはクオンだった。
鞘に収まった黒刀『鐵』を抱くように持ち片足を椅子に置き、クオンは部屋の天井を見上げた。
「オレはアニキの武勇伝を聞いて強くなりたいと思ったんだ」
最強にして無敵。立ちふさがる敵を薙払い、己の道をただひたすらに走り抜ける少年の英雄譚。
「どこまで行けるかわからない。けど、行ける所まで行ってみたい」
自己確認するようにクオンは呟き、頷いた。
「わらわは失った魔力が戻るまで、じゃな。そしてその後に世界を盗る」
テーブルに置かれたクッキーを奥歯で噛み砕きながらパイモンは笑う。
「……私は」
強い意志を秘めた瞳が、フィオナに向けられた。
お待たせしました、最新話です。
飛空艇の話の筈が女子会に……
ではまた次回。お楽しみに




