新技披露
何故後衛だったフィオナが俺の至近距離にいるのか、それを語るなら勇とその一行の考えた対リヴァイアサンの作戦を語る事になる。
なんて事はない。小さくなり十全の力を振るえなくなった勇。特に顕著なのが足と腕が短くなり、走る速度と攻撃範囲の低下だ。
それを補うために考えだされたのが『勇を風の魔法で吹き飛ばし、吹き飛んだ勇がリヴァイアサンを斬る』なんて作戦とも呼べない稚拙な戦術だ。
先ず勇とクオンが先行し接敵、リヴァイアサンの目の前で使い捨ての転移魔法符をクオンが発動しフィオナを転移させ、風の砲弾を勇に当てる。
クオンが勇と共に先行したのは弱体化してなお常人の域を越えている勇に併走できるのがクオンだけで、フィオナを勇の近くまで運ぶ必要が出たからだ。
「ちぃっ!」
魔剣を振り抜いた勇。魔竜の口から首にかけて水平に切り裂いたが傷は浅く、リヴァイアサンの金色の瞳は勇を……いや、魔剣を捉えて離さない。
「『また、我に傷をつけるか、魔剣!!』」
「へっ、わしの役目は切る事じゃからな」
口元から首にかけてまで切り裂かれ鮮血を上げながら、リヴァイアサンは魔剣への怒りを隠そうともせず襲いかかって来た。
『斬鉄』により鋼より堅固な竜の鱗を無視するように切り傷を与えられたものの、致命傷には至らなかったようだ。
「随分と嫌われてるなお前っ!」
リヴァイアサンの怒りの矛先が剣の使い手の勇ではなく魔剣に向けられている事に気がついた勇は吐き捨てるように言った。
「そりゃそうさ。奴らにとってわしは不倶戴天の敵じゃからな」
「敵?……のわっ!?」
着地した瞬間にリヴァイアサンの尻尾を叩き付けられ、咄嗟に剣の腹で防いだ勇。
足元が衝撃で砕け、膝辺りまで床に埋まってしまった。
「ぐぅっ……くそ、身動き取れねぇっ!!」
常人を凌駕した身体能力を持つ勇ですら押し返せない質量と圧力。
そんな逆境の中で勇は――
「けどまぁ……俺が動く必要もないんだけどね」
ニヤリ、と不敵に笑っていた。
「奥義――」
逆手に持った短刀を持ち直し、切っ先は前へ向ける。眼前には血を吹き出しながらも勇を倒さんとする魔竜。
鋼より堅固な竜の鱗は切り裂かれ、後に残るは開いてくれと言わんばかりの傷口が。
そこを、穿つ。
「『絶刀牙』」
魔力を足に込め踏み出す瞬間に爆発させる高速移動術、『縮地』。そして、魔力の刃を作り、また剣自体の性能を上げる魔法、『魔装剣』。
勇から教わった二つの技術を練り合わせ、拙いながらクオンは一つの技を生み出した。
それは威力、速度を極限にまで引き上げた究極の、『ただの突き』だった。
「『なっ……ぐふぅっ!?』」
魔剣にばかり意識を向けていたリヴァイアサンが苦痛に呻き、次いで傷口から鮮血があふれ出る。
いやそれだけじゃない。極限にまで昇華された刺突は、竜の身を、皮を貫き、巨躯を射抜いて見せた。
「へへっ……初めてにしちゃ、上出来かな」
クオンは自身が貫き、通り抜けた魔竜を見上げて苦笑した。代償に全身竜の血にまみれてしまったが。
◇
「うひー、クオン、お前なんか臭うぞ?」
「ひっでぇ! やれっていったのはアニキじゃんか!!」
リヴァイアサンを仕留め、血だらけになったクオンが近づいくると、もわっ、と血の匂いがして思わず鼻を摘まんでしまった。
「しかし上手く決まりましたね、ヤシロさんが突破口を開いてクオンさんが仕留める二段構え」
感心したように倒れたリヴァイアサンを見上げるベルナデット。
「勝因はリヴァイアサンが予想以上に勇に……いえ、魔剣に食いついた事ね」
フィオナは魔剣レイヴンブランドを一瞥し、次いで身体を貫かれ絶命した様に見えるリヴァイアサンを見つめた。
「食いついた、か。……言い得て妙だな。で?そこら編は教えてくれるんだろうな?」
「別に隠し立てするような事じゃねぇしなぁ。……まぁ、久方ぶりにわしを使いこなした剣士への報酬って事で良いか」
魔剣を床に突き立て尋ねると、魔剣は渋々と言った態度で了承した。
「オイ、小僧。わしがさっき言った言葉を覚えておるか?」
さっきの……と言うと、
「奴にとって不倶戴天の敵……って奴か?」
「おう、それじゃそれ。……わしはのぉ、今より数千年前、魔族を殺し尽くすために打たれた魔剣なんじゃ」
魔剣が語るように言った言葉に、俺達一同は思わず一歩後ずさった。
「クハハハッ、安心せぇ、呪われちゃおらんわい」
俺達が後ずさった理由は距離を取ろうとしたからだ。
激しい憎しみの中で打たれた剣は、悪い意味での『魔剣』となる事が多い。
使用者に絶大な力を与えるが、同時に使用者に不幸を呼び寄せる、なんて呪いの品になることが多いのだ。
「随分昔の事じゃからほとんど覚えておらんが……わしを振るった剣士は小僧のようにちっこかったが化け物じみた強さでのぅ。その剣士の技量も相まってわしはありとあらゆる魔族を屠った。そこの巨乳のお姉ちゃん、アンタは魔族の倒し方、いや、殺し方は知っておるかい?」
突然指名されたベルナデットはうーん、と唸りながら腕を組んで考え始めた。……巨乳と言う単語が出た瞬間にフィオナから殺気のようなものが溢れた気がするが気のせいだろうそうだろう。
「私は基本人間が専門ですからねぇ……あ、頭とかが弱点だったりするんですか?」
そう言えばこいつ代行者だったっけ。最近名乗ってないからすっかり忘れてた。
「残念ながら違うのぅ。それじゃあそこの貧乳のお姉ちゃん――」
「……答えるけど、次にその呼び方をしたら貴方、折るわよ」
俺が荒く扱っても折れる様子を見せなかったレイヴンブランドだが、フィオナが言うと本当に折りそうだから不思議だ。怖えぇ。
「全く……魔族は本来霊体で、この世界に現れる際に魔力を依代に受肉する。いくら肉体を壊そうと、魔族本体の霊体を破壊しない限り何度でもこの世界に現れる。その魔族を倒す方法は二つ、私達と霊格を同じ、またはそれ以下にまで落とした後に仕留めるか霊体に直接――そう、貴方は後者の、魔族の霊体に直接傷を与える事ができるのね?」
納得したように頷くフィオナ。俺もまた、リヴァイアサンが何故あれほどこの魔剣を執拗に狙うのかを理解できた。
フィオナの言う霊体は正確には違うが一種の魂のような存在だ。奴ら魔族はそこに直接攻撃を受けると本体にまでダメージが伝わる。最悪、致命傷ならその魔族は死滅する。
聖剣のような超常の存在ではない、『魔剣』と言う人間が生み出した存在が魔族を殺す事ができる。奴らにとってはそれ自体が許せない事で、更にリヴァイアサンはレイヴンブランドに一度やられている。
屈辱以外の何物でもないだろう。不倶戴天とは良く言ったもんだ。
「ま、それでわしは奴らに親の仇のように思われておるわけよ」
「奴らにとっちゃ天敵みたいなもんだからな。……さて」
話を切り、リヴァイアサンの方を見ると、倒れた巨躯の上にちょこんと座る人影が視界に入った。
「キキッ、まさか本当にレヴィまで下すとはのぉ。……あ奴らとまではいかんが、それに迫るものをもっておるようじゃ」
ケタケタと子供のような笑い声、吸血鬼の姫、パイモンだ。
「わらわの臣下の中で最強を誇るレヴィを下した褒美じゃ。キキッ、巫女の血統よ、お主の姿、元に戻してやろう」
そう言って指先を俺に向けたパイモン……変化は、一瞬で現れた。
「ぐっ、……う、うおおおおっ! も、元に戻ったああああああ!!」
全身が弛緩し、次いで引き伸ばされて行く感覚。そして、俺の身長は元通りになった。
「喜んでいる所悪いけど、その粗末な物を隠してくれない?」
「ん? お、おおっ!?」
フィオナの目線を辿り下を見ると、身体が大きくなった弊害でサイズが合わなくなって破れたズボンと抑える物を無くしブラリと揺れるマイサンが。
「ばっ、バカ! これはいわゆる待機状態であってだな、本気を出せば――わぷっ!?」
「隠せって言ってるのよこのバカ勇!」
ズィルバに乗せていた荷物から俺の服を取り出し投げ渡して来たフィオナ。
しかし、漸く元の服を着れるぜ。ルクセリアから着続けて愛着湧いてたんだ、この服。
「ふぅ……待たせたなパイモン。リヴァイアサンの次は、お前だ」
ぬののふくを着た俺は機嫌よさそうに笑っているパイモンに魔剣の切っ先を向ける。だがパイモンは俺の言葉を受け更に嬉しそうに口元を吊り上げた。
「キキキッ! ああ、わらわは待っていた。千と二百年……この時を」
蝙蝠の翼を広げ地面に降り立ったパイモン。すると、突如リヴァイアサンが大量の水となり瀑布の如く轟音と共に部屋中に流れ始めた。
「よくも……よくも、人間風情が……ッ!!」
つい先ほどまでリヴァイアサンが倒れていた場所には、一人の女が倒れていた。
布と言う布を纏っておらず裸体を晒す女。その女の肌は青く、耳に位置する場所からはヒレのようなものが伸びていた。
起き上がろうとするも力が入らないのか顔を上げ、俺達を睨んでいた。
「落ち着かぬかレヴィ」
そんな女を、パイモンが制する。
「し、しかしっ……」
「魔を制する人間が居てもよいじゃろ。わらわはその方が燃えるぞ? キキッ!」
パイモンはそう言うとドレスを翻し、次の階へ向かう扉へ向かい歩き出す。
「お、おい!」
「キキッ、付いてこい」
有無を言わさずパイモンは歩を進める。
「ちっ……行くしか、ないみたいだな」
俺には、次の階へ続く入り口が巨大な化物の口に見えて、しょうがなかった。
お待たせしました、最新話です。
久しぶりにいっぱいかけた……いつもこれくらい書けたらなー
ではまた次回。お楽しみにー




