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先代勇者は不覚を取った

バジリスクは、鉱脈に眠る鉱石などを主食とする変わった竜種、正確には二脚立のワイバーン種である。

鉱石を食べているのではなく、鉱石の中に含まれる微量の魔力を食している、と言う考えもあるが定かではない。

鉱石等を食べているせいかバジリスクの身体、その表面には堅い結晶が生え出ている。

これまた鉱石を食し、身体の中で純度の高い結晶を精製しているのだなどと言われている。


バジリスクの雌雄の差は、体躯の色と身体の部位の特徴で判断出来る。深い青色の結晶を身体に生やしているのは雌。体躯の結晶が青紫、そして大きな結晶の鶏冠を有するバジリスクは雄。と、見た目で解りやすい珍しい竜種である。


バジリスクの身体には結晶の合間を縫うように細かな棘が存在する。

一種の体毛の類いではないかと論されているそれが刺さると、刺された者は毒に犯される。


死に至らしめるような毒では、無い。


しかしその毒は他の竜種でさえも麻痺させてしまうほど強烈な、効果的な神経毒だ。


竜種や強力な魔物ならば数時間程度動けなくなる程度で済む。

逃げるならばそのくらいの時間があれば事足りる。


しかし非力な人間や、弱い魔物であったりすると数日から数週間に渡り効果が発動する。

そして、非力な者たちはバジリスクに食われるのだ。



毒や堅牢な結晶の鎧など扱い難い相手ではあるが、バジリスク自体の戦闘能力は同レベルの魔物に比べて低い物だ。


竜種でありながら翼は退化して鉱石に包まれており、竜種の特徴であるブレスも使用出来ない。

……しかし、ただ一つだけ、厄介過ぎる能力が存在する。金色の蛇目(サベルアイ)睨まれ(・・・)、目を合わせてしまった者は文字通りに石化してしまうと言うものである。


その名も『石化の邪眼』。


魅了の魔眼の一種でもあり発動後、他者の関心を邪眼に集めると言う効果も付随する。


目が逸らせなくなる………と言ったケースも生まれるのだ。

(高い抗魔力を持つ者ならば魅了効果は無くなり、石化も身体が凄まじく重く感じる鈍化程度で済む)


これらの特殊な能力故にバジリスクはギルドでAランクモンスターとして登録されている。





どうも皆さん。一家に一人、最強無敵の先代勇者、社勇です。



と、何時も通りに始めたいものの、状況がそれを許さない。


囲まれてます。

バジリスクに、囲まれてるんです。


「つがいって所じゃないよ、これはっ……!」


降ろしてあげたトーレさんが呻くように呟く

そう、つがいって所じゃないんだよ。そもそも桁が違う。

二体だと思ってたら……ひいふうみぃ………えぇと、十七体も居る。


おいおい、話が違うんでない?

つがいって話じゃなかった?

あ、でも数は指定されてないわけで………間違いじゃあないのかな?


それにしても作為的に仕組まれたであろうこの状況………一体何の目的で、誰の差し金だ?

ルクセリア王家? ……どうだろうな。ルクセリアが何を考えてるかわからんが、ギルドに手を回してまでこんな状況を作る意味が無い。先代勇者と知られてるなら俺を勇者として使うだろうしな。……俺が先代勇者だって言うのが都合が悪いと言うのなら話は別だが、お姫さんの言ってた通りなら当初は俺を呼ぼうとしていた筈だが………。



となるとギルドか? これは更に分からない。最初は近くに始まる戦争に投入する戦力の確保のために、昇級クエストを受けさせられたのかと思っていたがこの状況でそれはないだろう。俺が勇者でなければ確実に一回は死んでるぞ?

……つまり、徴兵どころか俺を殺そうとしていると見える。


ギルド側の不手際?……いやいや、仮にこの状況でギルドの不手際でしたーとか言ってきたらギルドの信用はガタ落ちだぞ?


ゴブリンの巣がオークや他のモンスターに取って代わられるのなんか日常茶飯だが、上級モンスターの『つがい』と『群』とでは大きく関わる。上級モンスター達のクエストは入念な調査を行うと聞いた事があるが……、これは入念な調査と言えるか?


しかもここは馬車で王都から三日の距離だ。


もしこのバジリスクの群が餌を求めて王都に向かって行ったらどうすんだ? 絶対に無いとは言い切れない。


AAランクはトーレさん一人しかいないと聞いてたし、本当にどうするつもりだったんだ?


ここに俺が来てなきゃ王都だって、その王都に居を構えるギルドだってただじゃ済まなかっ――――




そこまで考えて、俺の頭は思考を止めた。

する、必要がなくなったのだ。


カチリッ。



何かと何かが噛み合う音、と言うべきか。


そんな小さな音が鳴ると共に、俺の、社勇の頭の中は自分でも驚く程クリアになって行く。




机の上で模型を作っていて、作っている最中は器具や素材で散らかっていた机が、模型を作り終わると器具や余りの素材は片付けられて行き、綺麗になった卓上(あたま)には完成した模型(いきついたこたえ)だけが残っているように、俺の頭の中は綺麗になった。


なるほどなるほど。もし『婆ちゃん』が三年前に言っていた通りになってれば、この状況にも説明が行く。……戦争に『俺を』駆り出し、尚且つその前に蜥蜴の駆除もさせる、と。…………あーっ!わかってみりゃ簡単じゃないか!くそっ、悔しいぜっ」


「ゆ、ユーヤ?」


ん? トーレさんが恋人を心配そうな目で俺を見てるぞ?

……ふふ、そんなに見つめてると、ヤケドするぜ?

………え? あ、はい。……なるほど、声に出てただけと。……失礼しました。



「ま、答えが分かれば話は早い。こいつらぶっ飛ばして『婆ちゃん』に文句付けなきゃな。

そだ、トーレさん。こいつ持っててくれます? 気絶しちゃったみたいで」


片手で抱えていた、顔を青ざめたまま、怖い夢にうなされているように身体を震わせて気絶しているリリルリーを、後ろのバジリスクに向け走り出そうとしていたトーレさんに渡す。


「!……こ、これ、はっ…!」


「ご安心をトーレさん! 後ろの奴も貴女の愛の奴隷、社勇が纏めて片付けときますんで!」



ニヤッ、とイケメンフェイス(自分の中で)でトーレさんの言葉を遮ると、俺は四次元ウエストポーチに手を突っ込み、投擲用の槍を抜く。






「あー、……取り合えず、リリルリーを怖がらせた罰についてなんだが………お前ら『婆ちゃん』と折半ね?」


俺が短槍を肩に担ぐのとバジリスク達の群れが襲い掛かって来たのは同時だった。





ギシャアアアッ!


人間では到底真似出来ないような掠れた鳴き声で鳴くバジリスクは、軽トラックを越える大きさの体躯ながら目にも止まらぬ速さで走り、跳び、襲い掛かって来る。


ワイバーン種の大きな特徴である翼と一体化した腕からは大きな爪が伸び、子供くらいならば丸飲みしてしまえそうな大きな口には鉄すら噛み砕く、鋭い剣を思わせる歯がびっしりと生え揃っている。


そんな見るからに唯の人間では太刀打ち出来ないような化け物が十七体。

そのどれもがとある一ヶ所に向け殺到する。

少女が気を失う程の殺気の中、手練れの女戦士が自分だけが生き残る事だけを考えてしまう地獄絵図の中、彼は、社勇は―――







「ちぇりお!」


そんな気の抜ける声と共に、短槍を振り投げた。





――ドンッ!




大気が炸裂する音がして、次に短槍が着弾した地面がその周辺に居た四体のバジリスクと共に文字通りに吹き飛んだ。



「あそーれ」


楽しげに第二投を放つ。

彼が投げたそれは一瞬で音を置き去りにし、目標の二体のバジリスクの足元手前付近に着弾する。


ドン!


バジリスクの腕が、足が、尾が、腹が、首が、頭が、ばらばらとなって千切れ飛ぶ。


激しい衝撃を受け、一瞬で砕け散った青と紫の結晶片が宙に舞う。



「あよいしょ」



振り向き際の三投目。事の異常さに気づくよりも速く、一度に三体のバジリスクが弾け飛ぶ。



「そいやっ」


射線をずらして四投目。それは本当に投擲された槍なのか?と疑問を抱く事必須なそれは、穂先をキラリと光らせた瞬間にバジリスク達の直ぐ横を凄まじい速度で通り抜けて行った。


外した?と思われた瞬間には、射出された槍の衝撃波で四体のバジリスクの身体が挽き肉のように一瞬で潰され尽くし空中にぶち撒けられる。


「っぶねぇ……せ、セーフセーフ、今のセーフ!」


最早掛け声ですらないが五投目。


狙いを外した前の投擲のようにならぬよう集中して投げ、二体のバジリスクを地面もろとも吹き飛ばす。





残ったバジリスクは二体。

二体は一瞬で吹き飛んだ群れの仲間が作った血溜まり上に佇む。


狡猾で残忍とされるバジリスクは人間や上位の竜種には劣るものの知能は高い。


そのバジリスクが考える事を止め、立ち尽くしてしまった。


逃げようとする動作も見せずに立ち尽くすバジリスクは、彼にとって格好の的だった。



「お、貰い!」


まるで友人が残していたおかずを掠めとるような気安さで、彼は飛び上がり槍を投げた。


ドスッ!


先程までの人外魔境っぷりはナリを潜め、短槍はバジリスクの頭をちゃんと貫通し、バジリスクを岩に射止めた。

先程までの要領でやっていれば確実に肉片になってたであろう。



残り二本と残り二体。…………()が出たのだ。

本来の予定通りクエスト報酬だけでなく、モンスターの素材を入手することにしたのだ。





「こいつはお釣さ、とっときな!」


彼は自分の中の『生涯に一度は言ってみたい決め台詞best10』に入っている台詞と共に短槍を高く放り投げる。


くるくると回転しつつ放物線を描いて投げられた槍は、最後に残った一体のバジリスクの上を越えようとした所でフッ、と突然空中に現れた勇に柄頭を蹴られバジリスクの脳天を貫いてそのままバジリスクを地面に縫い付ける。





一瞬。


言葉通りの一瞬だ。三十秒とかからずに十七体居たバジリスクは、その一体も残さず彼に、先代の勇者に殲滅された。









「ドヤァ」



おっと、思わず考えてた事が口に出てたぜ。






けど、どーよ!


どーよどーよ!


凄いでしょう?圧倒的でしょう?惚れるでしょう?



ふっふーん! これがオラの実力(じつりき)って奴よ。


チートだって? んなもん当然だろバーロー。仮にも勇者だよ? これくらいして見せなきゃ勇者じゃないって!  俺たちゃ世界背負ってんだ。意地でも負けられ(・・・・)ないんだよ。



…………って格好付けたものの、やっぱり気分爽快だよ。あー、スッキリした。


現実世界では力をセーブしつつ三年もの間普通の高校生を演じていたせいかストレスみたいなのが溜まってたのだろう。オークの巣でハッチャケてたのも、多分そのせいだろう。キャラ崩壊ジャナイヨ!



にしても爺さんの槍すげぇな。結構本気で投げたのに、ひしゃげてる程度で壊れず原型を保ってやがる……。



「…………」


俺が爺さんの槍に驚いていると、いつの間にか座っていたトーレさんがよろよろと立ち上がる。


「あ、トーレさ~ん! どうでしたか?……お、俺、カッコ良かったでしたか?」


はしたないと思ったがトーレさんに優しくエロく褒めて貰おうと、思い腕を組んで流し目でキメる!


「……う…ろ…」



…………シーン。



……む、無音。あ、あれー…トーレさんスルーですか?

でも華麗にする貴女もエロいです!


「……し…だ」


じゃ、じゃ、とトーレさんが歩く音しか聞こえない。


…………あ~。なるほど。……トーレさんってば俺を優しく抱いてその胸で挟んでエロく褒めてくれる気なんですね?

それならそうと先に言ってくださいって!

ほら! 俺の腕の中にウェルカムで―――――


「うしろだっ、ユーヤ…っ」


全力で振り絞ったのだろう。トーレさんの悲痛な顔を見たのと同時に聞こえたか細い声。



「しまっ…――!?」


振り返った俺の視界には、血のように赤い(・・・・・・・)結晶を生やした竜の、大きな蛇眼が写っていた。




先代の変態ネタの空振り感がヤバイ……



感想お待ちしてます。

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あれ?刀語のヒロインいませんでした?いまw とがめ、だっけ?ちぇりおー!
[気になる点] >最強無敵の先代勇者 だけど索敵能力は皆無?
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