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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
119/192

先代勇者の恐怖心


「ですから、私は貴女が許せない。貴女が私を許せないように、私も貴女を許せない」


先ほど睨まれたお返しにとでも言いたいくらい鋭い視線を、ベルナデットはフィオナに向けていた。


「ヤシロさんの想いを無視して、戦い続けろ、なんて言う、貴女を、私は許せない」


「別に、許して欲しいとも思わないわ 」


ベルナデットの言葉を、フィオナは興味なさげに答えた。


「勇が旅している理由も、想いも、わかってはいるわ。でも、……勇は所詮、逃げているだけなのよ。運命から使命から……オリヴィから、逃げてるだけ」


そう言ったフィオナの悲しげな顔に、ベルナデットは口を噤むしかなかった。


「勇は怖いのよ。また勇者として生きて、人から裏切られるのが。また、人を嫌い憎むようになるのが。そして、オリヴィと向き合うのが」




「なんで、助けてくれなかったんですか?」


旅の途中で立ち寄ったとある村。

そこは、勇やオリヴィアを始めた一行が助けに来る前に、魔物の群に滅ぼされてしまっていた。唯一生き残った少女は暗く澱んだ瞳を勇に向け、


「……ゆるさない。ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。勇者様も聖女様も、守ってくれるって言ったのに。ゆるさないゆるさないゆるさない」


少女は心が壊れ、呪詛を吐きながら自害した。

勇は魔物を恨み、少女の呪詛に怯えながら旅を続けた。


エルフやドワーフのような亜人を迫害する村があった。

村人は亜人を奴隷のように扱い、酷使し、それで尚村八分にした。

一行は憤慨したが、村の掟だと村人達は思考を止め迫害を続けた。

身体中に痣を作り、自分らを怯えたような目で見る亜人らを見て、勇は、村人達に怒りを覚えた。



住民に重い税をかけ、私腹を肥やす領主が居た。

痩せこけ、パンすらまともに食えず、道端にうずくまって餓死した自分よりも幼い子供を勇は見た。

シルヴィアらが奮走したが国を敵にしかけ、断念する他なかった。


勇は無力感と共に、圧政を敷く貴族に対して怒りを持つようになる。



共に旅をしていた仲間、ゼファーに裏切られた。

ただただ貪欲に力を欲す魔術師のせいで、オリヴィアの背に癒えぬ傷を残してしまった。


勇は、仲間にすら猜疑心を持つようになった。



一行を陥れた村があった。

魔族に脅されてはいたが、彼らは自分可愛さに、人々のために戦う勇達を魔族に売った。

戦いで大切な仲間を失いながら、どうにか罠を乗り越えた後に、手のひらを返したように媚びへつらってくる人々を見て、勇は自分の存在に意味を見いだせなくなっていた。






「人間同士の間に、優劣なんてあんのか?」


教団が亜人や異教徒を奴隷とする様を見て、勇がそう呟いた。


「なんで、俺は戦ってるんだ?」


感謝を受けたかったからじゃない。恩を売りたかったわけじゃない。

でも、裏切られたかったわけじゃない。

心を、想いを裏切られた勇は涙ながらにそう呟いた。


「人に、救う価値なんてあるのか?」


黒い瞳をあの少女のように暗く濁らせた勇が、かすれた声でそう呟いた。




そんな勇を、……心が壊れ、人々への憎しみだけが積もり、第二の魔王となりかけた勇の心を救ったのがオリヴィアだった。

ただ抱きしめ、頭を撫でて、傍らに佇んで、オリヴィアは優しい笑みを勇に向け続けた。

それだけだ。たったそれだけ。


だが、その時の勇は何よりもその暖かさを欲していた。


人は人を傷つけることもあるだろう。苦しめることもあるだろう。

だけどそれと同じように、いやそれ以上に、人は人を癒やすことができる。


それを知った勇は、人の心に賭けることにした。


この暖かさを持った人間なら、世界は良い方向に変わって行く筈だ。


勇は奮起し、人々の未来のために魔王と戦った。その先に、自分の未来が無い事を知りながら、


だがその末に、人の暖かさを教えてくれたオリヴィアを、勇は失った。

人々の未来のために、己の未来を賭して魔王と相討とうとした勇の本心を察したオリヴィアは、魂だけの存在となり、魔王を封じ込め勇の未来を作り出した。






「……逃げている、か」


勇は小さな声で呟いた。アンジェリカの部下のチビとのっぽが同じテントでいびきをかいて寝てる中、見張り番をしているフィオナとベルナデットの声が聞こえていたからだ。


「……最低だな、俺」


こんな時、自分の人外じみた身体能力が嫌になる。


……そして、ベルナデットの想いを聞いて、自分自身が嫌になる。

ベルナデットの想いはわかっていた。

好かれた理由はわからない。だが、ベルナデットが勇へ向ける恋心を、勇は気づいていた。

気づいていた上で悟っていない振りをした。

自分がオリヴィア以外の女性を好きになることなないだろうと、そう感じているからだ。

今ベルナデットの想いが、自分の思い込みでないことを知っても、嬉しさがこみ上げて来ることはなかった。


あぁ、やっぱりそうなのか。


そう思って、自分のそっけ無さに嫌気を覚えたくらいだ。


そしてフィオナの言葉だ。


逃げている。


……その通りだ。


逃げてる。勇は、全てから逃げているのだ。

世界から、仲間から……オリヴィアから。

本当はちゃんと向かい合わなければならない。


なのに逃げている。


怖いからだ。


もう一度あの感覚を……人を嫌いになって行くあの感覚が。

仲間を信じられなくなって行く、あの感覚が。


そして……もしまたあんな風になってしまった時、自分はちゃんと戻れるのだろうか。

あの時救い出してくれたオリヴィアはもう居ない。

魂だけとなり、魔王を封じ込めている。



オリヴィアがいない以上次は無い。次は、自分が魔王と化してしまうのではないだろうか。

そんな、恐怖に捕らわれている。


どうも、最新話です。


朴念仁じゃない主人公とかウケルのだろうか……書籍版だと修正するかも。


ではまた次回。お楽しみにー

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