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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
109/192

先代勇者VS古代の魔物ビホルダー

その名を『ビホルダー』。

『土下座ヱ門』『見つめる者』『捉え離さぬ神』と仇名された、神代より生きると言われる、太古の魔物。

神と魔物の戦いにおいて、竜王ヴァフムント率いる古竜の軍団の悉くを殺し尽くし魔物。

最後には竜王により滅ぼされたと言われる、こんな場所に居て良い魔物ではない。


「なんで、あんな化け物がここに!」


全身の毛が逆立つのを勇は感じていた。


背中を冷たく光るナイフでなぞられるような、鋭い戦慄。


勇は考えるよりも早く、レイヴを地面に突き立て虚空に手を伸ばし聖剣を呼ぼうとして、その動きを止めた。


(この場所じゃあ……聖剣は使えない!)


四方を壁とするこの迷宮内では、聖剣を使う事は逆に己の足枷となる。

剣を振るうだけで周囲に破壊の衝撃波をまき散らす程の力を内包する聖剣。

そんな物を使えば、迷宮は崩れ、俺達は皆生き埋めになるだろう。


伸ばして手を握り拳にした勇は舌打ち一つ、レイヴを引き抜いて走り出す。


(やり合った事はねぇが……竜王《ヴァフムント》より強いってわけじゃあないんだろ? なら、勝機はある!)


一息で20mの距離を詰め、浮遊するビホルダーに剣を振り上げる。

先手必勝とばかりに駈け出した勇の速度は、子供の姿のせいか普段にくらべ遥かに遅く『縮地』には遠く及ばない。

しかしそれでも、常人を遥かに凌駕したその肉体はビホルダーの反応速度を超え、振り上げた剣はビホルダーの球状の身体に大きな傷をつけた。


だが、


「なっ……ごふっ!?」


ぽっかりと空いた、テニスボールほどの大きさの穴。

その穴から、おびただしい程の鮮血が吹き上がる。


「ヤシロさんっ!?」


ベルナデットの悲痛な叫び声を聞きながら、勇は自分の胸に空いた穴に気づいた。


「っらあぁっ!!」


グラリと傾いた体勢から片手を伸ばし前転、ビホルダーの真下で飛び上がりそのまま斬撃を放つ勇。

しかし振り上げた剣はゴウッ、と風切り音を残し空を切るだけだった。


「転移(ワープ)、だとぉ!?」


視界の端、虚空から這い出るように現れた、目を閉じたビホルダーに気づいた勇は足を蹴り上げ、空中で姿勢を変えて逆さまになる。


「ちぃっ! なんなんだ、これ!!」


姿勢を変えようとする瞬間、自分の前髪の一部が突然塵のように吹き飛んだのを見て、勇は片手で降り立ってから二、三転バック転をしてビホルダーから距離を取る。


ビホルダーの頭に位置する場所から伸びる目玉の触手がウネウネと動きながらも俺を捉える。

俺とビホルダーが睨みあい、互いの出方に注意していると、ドスッ、と鈍い音がして触手の内の一つに矢が突き刺さった。


「! フィオナか!」

「当然、でしょう?」


ビホルダーの絶叫が迷宮に響く中、勇は樹の弓を構え、ニヤリと笑う射手を見た。

膠着状態を破ったのは目つきの悪いエルフ、フィオナだった。


ギョロリ、と大きな目玉と触手、全ての目がフィオナに向けられ、次いでビホルダーは大きな目玉を瞑り、虚空に隠れるようにズズズ、と転移した。


「フィオナ! 後ろだ!!」

「わかってる!」


矢を筒から取り出し、弦を引き絞ったフィオナが飛び退く。

すると、フィオナが寸前まで立っていた場所を触手の目玉から放たれた鈍い光の光線が貫いた。

刹那、床が爆裂し、閃光が辺りを包む。


「今度は破壊光線ってか!? なんなんだ、こいつは!」


フィオナが矢を連射する中、勇は胸を一瞬で貫いた何か(・・)を警戒して

ジグザグに走りながらビホルダーに接近する。


「勇! 恐らく触手が!」

「だろうなっ!」


光線が触手の先についた目玉から放たれているように、あの見えない何かは触手から放たれているに違いない。

目標をビホルダー本体から頭上の触手へ変更し、勇は疾駆する。

数歩で数十メートルの距離を進むと、目玉を先につけて触手が数本、勇を捉えた。

視線が交わった瞬間弾かれるように右に跳ぶと、一瞬前に居た場所の床が、爆発するわけでもなく、消し飛んだ。

勇はその時に動いた触手を、見逃さなかった。


「……なるほど、見切ったぜっ!」


破壊光線や今床を消し飛ばした何かはそれぞれ別の触手が行っている。

そして、その触手達はそれ以外の行動を見せてはいない。

光線を放つ触手は光線のみを、消失現象を行う触手は消失現象のみを行っていた。

胸を穿たれた時に目があった触手は今まさに勇を殺そうとして床を消し飛ばした触手だった。


「これが間違じゃあなければ……っ!!」


先ずは一番危険な、消失現象を起こす触手を叩ききる!


「う、ぉおおおおっっ!!」


右肩を貫かれるが、構わず勇は吶喊する。脚や頬を削り取られ血飛沫(ちしぶき)をあげながら勇がビホルダーへ飛び掛かる。

小柄な体躯が飛び上がり、魔剣を振り下ろそうとした瞬間、勇は自身の右半身の違和感に気付いた。


「っ、石化だと……っ!」


振り上げた腕が、文字通り岩となり動かない。自分の右腕が使い物にならないと判断した勇は、右腕を砕いて魔剣を掴み、それをブーメランのように投擲した。


風を斬り進む魔剣は狙った触手や他の触手を纏めて斬り飛ばしそのまま天井へ突き刺さる。


「勇……ッ!!」


痛み故か、絶叫をあげるビホルダーにフィオナは追撃の魔法を放つ。詠唱も無く放たれた不可視の疾風の矢は、周囲に風を撒き散らしながらビホルダーへ放たれ、当たる直前で「パキン」、と何かを手折ったような音と共に消え去った。


「転移陣を消された時と同じ感触……間違いなく、魔法を無力化してる……っ」


魔法の無効化に動揺しつつも、魔法が聞かなければ弓矢をとフィオナは攻撃の手を止めない。

ドスドスと音を立てて弓がビホルダーに突き刺さるが、大したダメージにはならず怒り狂ったように勇へ襲い掛かるビホルダーを止めるには至らない。


だが、


「てめぇの方から来てくれるとはな……ぉぉらあああっ!!」


勇は砕けた筈の右腕でビホルダーの顎に当たる部位に拳を叩きつけ、更には体を回転させ、回し蹴りでビホルダーを蹴り飛ばした。


お待たせしました、最新話です。


分解されても石化されても即復活。敵からしてみれば相手にしたくない奴no.1ですね。


ではまた次回。お楽しみに!

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