先代勇者とその弟子クオン
「ぜらああぁっ!!」
轟ッ!
裂帛の気合いと共に放たれた剣撃は、堅い甲殻に覆われたロックスコーピオンを豆腐を斬る様に両断し、衝撃で他数体の魔物を言葉通りに吹き飛ばした。
「ふんっ! ……っと、漸く片付いた」
魔物の群を一掃し終わると、少年は身の丈程の長剣を地面に突き立て、ため息を漏らした。
「おうおう糞坊主! 剣の腕は及第点たが、わしの扱いがなっちゃおらん! もっとこう、宝のようにじゃな」
「うっせぇ。なぁなぁフィオナ。剣だけにサイレントの魔法とか掛けられねぇ?」
「無理ね」
「ですよねー」
黒髪の少年は、深いため息をついて知恵を備えた剣を鞘に納めた。
◇
アハトから知恵持つ剣を借り受けた俺達は、その日の内に迷宮に潜る事となった。
フィオナ曰く、あのパイモンとか言うロリ吸血鬼のせいで転移魔法陣が使えなくなったらしく、一階一階降りる事になってしまったのだ。
「はぁ……あんまり先に進まないなあ。まだ六階くらいだったよな?」
「ええ。もう少しで七階への階段よ」
本に書かれた地図を見ながらフィオナは素っ気なく返事を返す。
迷宮に潜って既に半日、強行軍で進んだものの迷宮の一階一階が広く、最短距離を進んでもまだ浅い階層を進んでいるのが現状だ。
地理が把握できていて魔物が弱い階層でこれだ。
30階辺りだと更に時間が掛かる事だろう。
「いやー、魔物の素材がたんまりだ。こりゃ最下層に行く頃には一財産できてそうだねぇ」
「姉御、純度の低い魔石とかはどうしましょう?」
「このバカチン! アタシを呼ぶときは船長とお呼び! 少しでも金に変えられるもんは集めるんだよ!」
俺が今後の事を考えている中、三バカ達は俺達が倒した魔物の素材を回収する事に専念していた。
いや、まあ素材なんて使わないんだけど、それを嬉々として拾い集める姿は海賊と言うよりも夏祭りの後のゴミ拾いに精を出すボランティアのようだった。
あれ以外とテンション上がるんだよな。
「おい糞坊主! いつまでわしを握っておるんじゃ! 鞘に納めるか、……ぬふふっ、ベルナデットちゃんと話させるんじゃ!」
「こんのエロ剣が……」
このアハトから借り受けた知恵を備えた剣なのだが、剣の癖に女に対し欲情すると言うぶっ壊れ具合で、さっきからやれベルナデットに持たせろ、やれベルナデットに使わせろとうるさいのだ。
「誰がエロ剣じゃ! わしの銘は『黒き鴉の剣』じゃと言うておるじゃろう!」
「うっせぇ! お前なんてエロ剣で十分だ! つうかたいした能力持ってねぇくせに名前がカッコ良すぎなんだよ!」
「なんじゃと!? 人の気にしている事をズケズケと!」
「人じゃなくて剣だろうが!」
こんな調子で、さっきから口論が止まらない。
、こんな事ならアイスソードにしておくんだったぜ
「アニキ、また魔物だ。真正面から……数は、七、だな」
一行の先頭を歩いていてクオンが、何処からかクナイを取り出し、柄尻の輪に指を通してクルクルと回し始める。
「よしエロ剣、仕事だぞ」
「へんっ。雑魚なんぞにわしをこき使いよって」
「使い心地は悪く無いからな。耳栓必須だが」
両手で持った、エロ剣を腰を低くして地面に水平に構える。
「さて……、左の二を俺がやる。クオン、お前は右の五だ」
「え、ちょっ、さっきからヤシロのアニキばっかり楽してない!?」
暗がりから現れた魔物の群を見て駆け出そうとすると、クオンが慌てたように叫ぶ。
「あ? なんだ? 仮にも師である俺に口答え? そんな事言うともう知らないよ?」
「師弟関係で脅さないでよ! ったく、アニキはなんでこうめんどくさがりなのか!」
愚痴りながら駆け出すクオンに並ぶように、俺は二体の魔物へ駆け出す。
魔物はロックスコーピオンにプチサラマンダー。
どちらも全長が人間以上のモンスターで、ロックスコーピオンは岩の甲殻に全身を覆われた虫で、プチサラマンダーは赤い鱗に覆われた小型の竜種だ。
どちらも強固だが魔法的な防御手段を持っていないので、常人を超越した俺の身体でゴリ押し可能な魔物だ。
チラとクオンの方を見れば、火の亜精霊と言われるウィルオウィプスを両断した瞬間だった。
◇
身体が軽い。
ヤシロのアニキに自分の身体を十全に扱えるようにする鍛錬を受けてまだ一週間も経ってない。
だと言うのに、オレの身体は以前と比べ何倍も早く動けるようになっていた。
無駄な筋肉を使わず、無駄な動きをせず、最前最速の身体捌きを行えるようになっていた。
今ならあの時の魔法使い、ゼファーとか言うのにすら勝てそうだ。
「疾ッ《シ》ッ!」
今の階層は比較的広いと言えど、ここは迷宮。
四方を占める壁や天井は、オレにとっては足場となる。
壁を蹴って天井に張り付き、獲物の背後に降り立つと同時にクナイを突き立てる。
これで二体目。
本来の武器である短刀を使っていないのは、この迷宮の魔物が軒並み堅い奴らばかりだからだ。
突き立てたクナイを抜くより早く迫って来た魔物に、懐から取り出した札を投げて貼り付ける。
「焔」
人差し指と中指を立て、息を吹きかけるように唱えると、札から青い炎が溢れ、瞬時に魔物を包み込む。
これで三。あと二体だ。
引き抜いたクナイを狼のような魔物に投げつけ、それと同時にオレは足に魔力を流し込み『縮地』でクナイを追い抜いた。
投擲されたクナイ見て回避しようとして魔物を蹴り上げ、首もとにクナイが突き刺さる。
これで四! この調子ならアニキより早く倒せるんじゃないか?
残り一体に向き直ろうとした時、オレはチラとアニキを見た。
くそっ、もう終わってる!
オレは舌打ちと共に最後の魔物にクナイを突き立てた。
◇
「いやー、やっぱ使い易いわ。折れる気配がしないぜ」
エロ剣ことレイヴンブランドを鞘に納めていると、クオンが最後の魔物を倒し終わったようで、ドスドスと音を立てて俺の方に近づいて来た。
「アニキずるい! 流石に二対五じゃあ勝てないって!」
俺の前で膝立ちし糾弾してくるクオン。
君は何を競っているんだ。あれか? 魔物を倒す早さとか? 勘弁してくれよ。俺はタイムアタック系は軒並み苦手なんだ。
「俺はむしろ魔物の処理を全部君に任せたいくらいなんだが」
「やーだ! オレはアニキと一緒に戦いたいんだ!」
どんな我が儘だよ。
「……クオン、って言ったかしら?」
俺がクオンに辟易していると、フィオナが割って入って来た。
「ん? そうだけど……」
「貴女の戦闘スタイルは斬撃と呪術よね? 堅い相手だからその武器を使っているんだろうけど、慣れない戦い方じゃあ勇の速度には勝てないわよ? 何せ、身体能力だけで『縮地』を行えるくらいふざけた身体しているんだもの。もし勝ちたいなら自分の利点、戦い方を突き詰めなければ勝てないわ」
……フィオナにしては珍しいな。他人の、それも付き合いの短い相手に助言とは。
俺はあってから数ヶ月は変態扱いだったぞ。
いや、その後も普通に変態扱いだったか。
「でも、この堅さじゃ刃こぼれも起きやすいし……」
「呆れた。……勇、貴方自分の弟子に自分の技も教えてないの?」
「な、なんだよ。……教えたぞ、一応」
抜刀技の絶影とか。
「どうせ対した技は教えてないんでしょう。貴方の技で大きなプラスになるものなんて『魔装剣』と『斬鉄』くらいじゃない。ちゃんと教えなさいな」
「ひ、酷い! 飛燕とか桜散華とかその他諸々とあるのに!」
「全部身体能力に物を言わせた攻撃じゃない。そんな物は技とは認めないわ」
「くそっ、ロマンをわからん奴め。だから胸がおっきくなら──」
「次胸の事言ったら殺すわよ」
「ご、ごめんなさい」
およそ味方に向けちゃいけない類の殺気を食らい俺は恐怖した。
「しかし斬鉄か……まだ早い気もするんだよな。クオンの身体はまだ出来上がったわけじゃあないし……いや、選択肢は多いだけ得になるしな……良し。喜べクオン。技を教えてやる」
「へ? ……い、いいのかアニキ!」
技を教えて貰えると聞き目に見えて喜ぶクオン。
俺は頷くとクオンを手招きする。
「今から教えるのは俺が編み出した技じゃあない。俺と、ある男が編み出した所謂合作で、……まぁなんだ。その斬れ味、その身で受けてみろ」
構えも取らず近寄って来たクオンに縦一線、その身体を真っ二つさせる勢いで俺は剣を振り下ろす。
「……へ?」
キラリと光る刃が、クオンの身体を引き裂いた。
お待たせしました。最新話です。
やっぱり剣技と言えば斬鉄ですよね。
ではまた次回。お楽しみに




