表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
104/192

視線



『勇者』


 一体どれだけの希望と、願いがその一言に込められているのだろうか。

 世界を壊す魔王の対。この世界を救う救世主。

 ……その『勇者』である俺は、『救い』を求める人達を無視して、世界を見て回る旅をしている。

 『勇者』と言う言葉に込められた、呪いにも似た黒い感情から、逃げるように。



 「……! ヤシロさん!」

 「んぁ? ……どうかしたのか?」

 ぼうっとし過ぎて意識を飛ばしてしまったようで、ベルナデットに声をかけられ、俺はそこで自分が迷宮に乗り込む寸前だったと思い出した。

 「どうかした? じゃあ無いですよ! さっきから呼んでいたのに!」

 頬を膨らませ憤慨するベルナデット。

 「悪い悪い。んで? 許可は出たのか?」

 迷宮に潜ると迷宮を管理しているギルドに報告したフィオナは当然の如く止められた。

 打ち合わせ通り俺が黒のギルドカードを見せると、ギルド内は上から下への大騒ぎ。

 現場では決定できず、ギルドマスターに会ってくれと頼まれたのだが、フィオナはこれを拒否。さっさとギルドマスターに許可を貰ってこいと言ったのだ。

 相変わらず権力者嫌いは変わらないみたいだ。

 「だから呼びに来たのに、ヤシロさんったらずっとぼーっとしててっ」

 「あー、悪い悪い」

 こりゃ説教かな? と逃げるようと立ち上がると、視界の隅に黒い何かが走った。

 「コウモリ? ……なんでこんなとこに?」

 手のひらに収まりそうな体躯に、その何倍も広がる羽を持った普通のコウモリだ。

 ……そう、普通のコウモリだった。

 

 「ヤシロさん!」

 「あ、ああ。わかってるよ」

 普通のコウモリが何故こんな場所に? と思うも、迷宮から迷い込んで来たんだろうと自分を納得させて俺はフィオナやクオン達が待つ場所に歩き出す。


 コウモリから視線を外すその瞬間まで、逆にコウモリに見られているような感覚を覚えながら。



 そこは、煉瓦のようにに加工された石で建てられた小さな空間だった。

 壁に掛けられた松明の火が、奥が暗闇となっている迷宮の階段を照らす。なんとも不気味な場所だ。


 「さぁ! 『黒バラ空賊団』の初仕事だよ!」

 「「了解、姐さん!」」

 「このバカチン! 船長(キャプテン)と呼ばないか船長(キャプテン)と!」

 

 迷宮への入り口を前に、アンジェリカは腕を組んで掛け声を出す。

 いい加減突っ込む気にもなれない俺は背に大荷物を担いだズィルバのクチバシを撫でていた。

 「迷宮に入る前に、この『ノルドヨルド』迷宮を軽く説明させて貰わね」

 どこからか取り出した眼鏡をかけたフィオナが語り出す。

 「この迷宮は固定型の迷宮で、地図が有効なタイプ。地下31階まではマッピングされているわ」

 言うなり、フィオナが厚めの本を白衣の中から取り出した。

 「エルフのねぇちゃん、それって地図か?」

 「地図でもあるけど、これはこの迷宮で確認された情報の全てよ」

 クオンの言葉にフィオナは本を渡してきた。自分で確かめろって事だろう。

 クオンがページを開いて絶句した。1ページ1ページに書かれている情報量は凄まじいもので、地図の横に注訳などがびっしりと書かれていた。

 「……うわ、これ凄いや。出てくる魔物とか、階層ごとの特徴とかまで書かれてらぁ」

 つまりは攻略本って事か。まぁ内容は踏破されてないから完結してないわけでゲームの発売日に一緒に出てくる序盤攻略用みたいな奴だろう。手書きのだが。

 「地下30……フィオナ、これが浅いか深いかどうかもわからねぇんだよな?」

 「感覚的には十分深いと思えるんだけど……やはり確証はないから断定はできないわ」

 フィオナはため息を漏らし、太ももにつけた短剣用のホルスターから試験管のような細長いガラス器具を取り出した。

 「ポーション?」

 「マナポーションよ。特別製の」 

 試験管の中に入っている緑色の液体に見覚えがあった俺が問うと、フィオナが訂正する。


 「このダンジョンは十階づつに転移魔法陣が敷いてあるわ。私が敷いた」

 「なるほど、それで一気に30階まで降りるんですね?」

 ベルナデットの言葉に頷くと、フィオナは試験管を逆さにして口に薬品を流し込む。

 「くっあっ……行くわよ」

 一瞬顔をめちゃくちゃ歪めたフィオナが瞬時に表情を戻す。

 クールキャラが崩れるほど不味いのか、そのポーション。

 「──『gate』、起動」

 フィオナが魔法を始動させると、俺たちの足下に光の線が走り、魔法陣を成形して行く。

 その手際と言うか、展開速度は流石エルフと言った所か。

 「……なぁなぁアニキ。今更だけど、転移魔法って個人で使えるもんなのか?」

 その魔法陣生成の様子を眺めていたクオンが小声で聞いてくる。

 魔法使いの集中力を削がないための配慮だろう。

 「物によるが可能っちゃあ可能だな」

 転移魔法。いわゆる瞬間移動の魔法だ。

 転移魔法の中でも種類は幾つかあり、対象と対象とを結ぶ穴を開けるワームホール型。

 そして対象の場所に送るテレポート型だ。

 リズワディアの時計塔の転移魔法陣は後者のテレポート型。

 俺が手袋と武器に仕込んだのはワームホール型の転移魔法陣だ。

 個人で使用するならワームホール型が限界で、テレポート型は大掛かりな発動装置がなければ発動できないものとなっている。

 リズワディアで言うなら巨大な魔力の流れである竜脈から魔力を汲み上げる魔法陣が必要になる。

 「それじゃあ、一瞬で相手の後ろに回って『後ろだ!』って出来るのかなぁ!?」

 瞳をキラキラと輝かせるクオン。……何を言わんとしているかはわかってる。かつて俺もそこにいて、同じ想いを抱いた時もあったからな。

 中二病と言う、目に見えない病を患った時が。

 「残念だが戦闘に使えるようなもんじゃないんだよ、アレ。転移魔法は現在の座標と目的との座標を正確に知る必要がある。戦闘中にそんな集中力はそうそう働かないし、『縮地』使えばできるしな」

 それもそうかと頷いたクオン。

 転移魔法は駄目だったが、他の一般的な魔術を教えるのも良いかもな。覚えて損は無いし。

 そんな事を考えていると、ベルナデットが俺の横っ腹をちょんちょんとつついてきた。

 「ちょっ、バカっ、くすぐったいだろ」

 振り向くと、真剣な表情のベルナデットが辺りをチラチラと見回していた。

 「どうした?」

 「視線を感じます。……私達以外の」

 ベルナデットに習って俺も辺りを見るも、迷宮へ続く地下へ伸びる階段とこの部屋唯一の光源である石の壁に掛けらた幾つかの松明。

 この部屋におかしな所は見られない。

 「すまん。俺は殺気以外は察知できんのだ。……おい、クオン。クオンっ」

 三バカと一緒に攻略本を見ていたクオンを小声で呼ぶと、耳をピクッと動かし太クオンが俺に振り返り近づいて来た。

 「どうしたんだ? ヤシロのアニキ」

 コテン、と首を傾げたクオン。くそ、可愛いじゃねぇか。

 見れば見るほど整った体つきをしてやがる。勿論女の子としてな。

 胸はそれほど大きくはないが、全体にほっそりとしていて、モデル体型とでも言うべきか。

 「何自分のお弟子さんにえっちな目を向けてるんですかっ」

 俺の思考がバレたらしく、耳たぶを引っ張りながらベルナデットがジト目で俺を見る。

 久しぶりに本来のベルナデットに戻ったようで、なんだか嬉しく感じる。

 「ご、ゴメンナサイ。……クオン、視線を感じるか?」

 耳たぶを引っ張りながらクオンに聞くと、「へ?」と驚かれた。

 クオンは気配の察知を得意とするとジャンも言っていた。餅は餅屋だ。

 「視線って……シスターの姉ちゃんのアニキへの熱い視線じゃあなかったの?」

 「ちがっ、違います! 確かにずっと見てましたけど熱くないです! 冤罪です!」

 顔を真っ赤にしながら慌てふためくベルナデット。冤罪ってなんだ冤罪って!

 まぁ冗談は置いておくとして、どうやらクオンは視線には気づいていたようだ。

 「どうやら俺たち以外からの視線みたいなんだが……」

 「へー……見つけた」

 狐耳をピーンと立たせたクオンがチラと辺りを見ると、瞬時に視線の原因を突き止めた。

 「……コウモリ?」

 先ほど見たコウモリが、天井の丁度陰になっていた隅で逆さまにぶら下がっていた。

 「……どうやらアニキ達を見ていたみたいだ。オレにバレたってわかったからか今はオレにも意識を向けてるけどな」

 クオンの目つきがどんどん鋭くなっていき、しまいには軽く殺気を放ち始めた。

 「おいおい、たかがコウモリ相手にガン飛ばすなよ」

 クオンに笑って言うも、俺自身強烈な違和感を感じているのも確かだった。

 久しぶりに、嫌な予感を覚えているのだ。


「……いいえ、ただのコウモリじゃあありませんっ!!」


 ジャキッ、と俺の目でも霞んで見える程の速度で魔銃を引き抜いたベルナデットは狙いを定めるより速く魔力弾を撃ち放った。


 「な……っ!?」


 魔力弾はその弾道からコウモリを仕留めると予想されたが、その予想は大きく外れる事となる。

 

 『キキキッ……随分と好戦的な修道女じゃ。流石巫女の血統よのぉ』


 頭の中を嬲られるような感触と共に、心を蝕むような艶声が頭の中に響いて来た。

 

 ベキンッ。


 「!? ……詠唱が、掻き消されたですって……ッ!?」


 何かを手折るような音とともに、フィオナが呻く。

 

 「あ……あぁっ……!」


 そして、空中で掻き消えた魔力弾を見たベルナデットは身体を震わせながら、目の前に降り立った存在を見た。


 「なっ、なななっ、一体なんなんだい!?」

 「アンタらは黙ってろっ! ……っ!!」

 「クケーッ!」


 突然現れた存在に騒ぐアンジェリカ達の前に立ち構えを取るクオンとズィルバ。


 『キキッ、まさか我の目覚めに示し合わせるように巫女が訪れるとは。……まさに僥倖じゃのぉ!』


 ニタリと笑うソレの口から覗くのは戦慄を覚えるほど鋭い犬歯。

 コウモリの羽を腰から生やし、妖しい光を放つ金色の瞳はまるで宝石のよう。

 それは血の気が引いたような青白い肌を持つ、気が狂う程に美しい吸血姫だった。

本当に、本当にお待たせしました。最新話です。


次からは短いペースで投稿して行けると思います。


突如現れた美しき吸血姫! 彼女の言う巫女とは!? 迷宮編なのに迷宮入ってないって突っ込みは無しで頼むぜ!(懇願)


次回、『吸血鬼の姫』お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あー、まぁ姫様たちが例外だよなぁ…… 勇からすれば、いきなり力を押し付けて自分が住んでるんでもない世界の為に魔王と相打ちして死ねって言われてるようなもんだし、逃げて当たり前なんだわ じゃあてめぇがやれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ