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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
102/192

先代勇者とエルフの女

 翌日も、嵐は止む事はなかった。


 しかし、天候に大きな変化があった。


 「……マジか」


 バケツをひっくり返したような雨は止み、窓を揺らす風は止んだ。

 だが、このノルドヨルドの島一つを包むように、風が巻き起こっている。


 風より向こう側は暗く、雨が波打ってるのに、このノルドヨルドは心地よい風と日の光が指している。


 「なんだかラストダンジョンに来た気分だぜ」


 幻想的な光景だが、俺には不気味に見えた。

 それこそ、これからダンジョンに潜る身としては凶兆にしか思えんのだ。

 


 寝具にランタン、食材などフル装備のズィルバを連れ酒場に着いた俺は、荷物を全身に身につけ喜んでいるズィルバを店先で待たして入る。


 「さって、二人は……お、居た。……へ?」


 酒場に入ると、カウンター近くのテーブルに二人が腰掛けている。そして、見慣れぬエルフの女性も、ベルナデットらと同じテーブルに同席していた。


 くすんだ金髪で目元が半分隠れ、髪の合間から見える瞳は、髪が陰になってるせいか、とてつもなく目つきが悪い。

 猫背でよれた白衣の下はシャツに太ももが眩しい短パンに黒のニーソックス。

 ……な、なんと言うか、個性的な女性だ。

 要素をてんこ盛りにして盛ったのが崩れたような感じ?


 失礼な事を考えながら手を軽く振りながら近づくと、二人は気づいたように振り返す。

 ……エルフさんにすっげぇ睨まれてるんだけど、コレは所謂アレだよね? 元々目つきが悪くて睨んだように見えてしまうって言う女の子のコンプレックスでその実照れただけだったりする……ようには見えねぇぇぇ!!


 「アニキ~!」

 「おはようございます、ヤシロさん!」

 「お、おう。待たせたか?」


 俺が空いてる席に座ろうとしてると、エルフさんの視線が更に強まる。


 「私達も今来た所です。……ヤシロさん、嵐の事、どこまで知りましたか?」


 席に座るなりベルナデットが聞いてくる。

 こんな質問が出るくらいだ。粗方聞いたのだろう。


 「ある程度は。……なにやら学者さんがこのダンジョンに原因があると言ってるらしいが……」


 答えると、クオンとベルナデットがチラと眼光鋭いエルフさんを見る。

 ……白衣を着ている辺りもしやとは思ったが……どうやらこの人らしいな。 


 「ヤシロさんに紹介します。考古学者のフィオナさんです。彼女がこのダンジョンが原因だと突き止めた方です」


 ……フィオナ? ……ああ、同名の人か。知り合いにもエルフでフィオナって名前の奴がいたから驚いたぜ。


 「どうも、勇って言います。ユウ・ヤシロ」


 握手のために手を差し出すと、フィオナさんは手と俺を交互に見た後に深いため息をついた。


 「一緒に死線を潜り抜けた仲間に対して、随分な態度じゃない。……勇」


 「……は?」


 ギロリと鋭い視線を向けられた事よりも、俺は彼女の言葉に深い衝撃を受けた。


 「お二人はお知り合いなんですか?」


 「いや、悪いけど知らない。……知り合いに同じ名前のエルフが居るが……」


 ベルナデットの問いに否定すると、フィオナさんが腰に手を回し、何かを取り出した。

 それは鞘に納められた短剣だった。短剣にしては柄が長いのが特徴的と言えば特徴的だろう。


 「これを見ても……まだ言う?」


 フィオナさんが鞘から短剣を抜く……その剣は、


 「折れ……てる?」


 短剣などでななかった。本来もっと長い刀身なのだろうその剣は、途中で途切れていた。

 ……折れた剣だったのだ。


 「貴方なら、この魔剣の名前がわかるでしょう?」


 「……魔剣『ソウルザンバー』」


 魔力の回復を始めとした複数のレアスキル持ち……だった魔剣。

 能力こそ優秀だったものの、自重で剣が折れると言うわけのわからん結果、最終的にリーゼリオンの宮廷魔術師だったフィオナに渡ることとなった物だ。


 それをもっていると言うことはつまりこのフィオナさんが俺の知るフィオナさんって事で……。


 いやいや! 言っちゃ悪いが容姿に天と地の差があるぞ!?

 俺の知るフィオナは、ぺちゃぱいではあるが、白い肌に透けるような金の髪。切れ長の目は鋭くも威圧するものではなくて、若草色のワンピースに腰や胴に皮のベルトを巻いただけの軽装……と、エルフの見本とも言うべき容姿をしている。

 元祖俺の嫁な○ードスな島のデ○ードリ○トさんみたいな!


 「まだ信じれない様ね。……なら奥の手を出すとするわ」


 「お、奥の手?」


 信じられていない俺が言うのはアレだが、ぶっちゃけこれ以上の証拠は無いんじゃないか?


 俺が身構えていると、フィオナは指を三本立てた。

 


 「貴方がダメにした、私のパンティの数」


 「お前フィオナか!? 久しのわぁっ!?」


 フィオナ本人と俺にしかわからないある種秘密の会話で漸く本人だとわかったが、その瞬間に横から爆発にも似た勢いの殺気を感じた。


 「そのお話、……詳しく聞かせて頂けますか?」


 ゴゴゴゴゴゴと覇気を纏い立ち上がるベルナデット。その視線は俺から離れない。


 え? 俺何か地雷踏んだ?


 「フィオナさんがヤシロさんの、前の仲間・・・・だと言うのはなんとなく理解しました。勇者列伝でも、女性のエルフの仲間は出ていましたし。……問題はヤシロさん、もしかして私のパンティもご存知じゃないですか?」


 あ、そうか。返すの忘れてた。

 やべぇ、殺される。


 「勇は本当に大切な物は襟の裏に隠す癖があるわ」


 「わっ! 本当にこんな所から私の下着が!」


 フィオナのアドバイスで俺の襟裏から下着を取り出すベルナデット。


 「……ヤシロさん。次こんな事したら、怒っちゃいますからね?」


 「うぇ? ……あ、ああ。……ごめんなさい」


 銃口向けられぶっ放されると覚悟していただけに、ベルナデットの反応は拍子抜けと言うか、優しいものだった。


 「……はぁ。ダンジョンの事を、話しても良いかしら?」


 呆れたような声で切り出すフィオナ。


 「ああ、頼む。どこまでわかったんだ?」


  頭の中を切り替えフィオナに向き直る。


 「攻略がとてつもなく難しい事。……そして、このダンジョンが人造の物だと言うことまで」


 「人造? ……それにお前がいて難しいって……」


 フィオナの強さは単純な力量もあるが、その本質は斥候だ。

 しかもダンジョンのような場所で活躍する探索型。

 ことダンジョンのような場所では仲間内の誰よりも優れていた。


 そのフィオナが難しいと断言している以上、生半可ではないと言うことだ。

 踏破出来ていないのがその証明でもある。


 「勇、問題は後者……人造である方が重大よ」


 「へ? そうなの?」


 ダンジョンなんてものは人が作ったもんに魔物が住み着いたのかと思ったんだが……。


 「ちょっと待て、エルフの姉ちゃん。……誰かが迷宮・・を作り出したって事か!?」


 聞くことに徹していたクオンから、驚きの声が漏れる。


 「どういう事ですか?」


 「ベルナデットの姉ちゃん、迷宮は本来二つのパターンがあるんだ。人が作った建物を多くの魔物が集まり、結果魔物を生み出す魔物の巣になったもの。そして洞窟とかに魔物が住み着き結果迷宮になった自然の迷宮。どちらも結果は同じだけど自然に作られたものと人に作られた物と、それぞれ土台が違う。……けど、このエルフの姉ちゃんが言いたいのはその内二つじゃない。誰かが意図的に迷宮(・・)を作り出したって事だ」


 なるほど、それで人造の迷宮か。


 「で? この嵐の原因が迷宮だって理由は、人造だからなのか?」


 「ええ。……かつて、この島を根城に世界を征服しようとした魔神が居たわ。この迷宮はその魔神に対する封印装置なのよ」


 「魔神? ……それって、魔王より強いのか?」


 字面なら魔神の方が魔王より強そうだ。

 つか魔王より強い奴とか封印できるのか?


 「あり得ないわ。魔神と言うのは、人々が恐れて勝手に呼んだだけよ。仮に魔神が魔王より強かったらこんな封印装置、持たないわ。……けど、こんな物に封じ込めるくらいだから厄介なのは確かね……」



 腕を組んで唸るフィオナ。

 厄介か……厄介と言えば……


 「な、なぁ。聖剣で真下までぶち抜くってのはアリ?」


 個人的にはそれが一番厄介っちゃ厄介なんだけど。


 「ナシよ馬鹿。当然でしょう? 遺跡なのよ? 過去の技術が使われているのよ? よくもまぁ私の前でそんな鹿げた事が言えるわね? 馬鹿じゃないの?」



 あははは。……デスヨネー。

お待たせいたしました。最新話です!


新キャラ登場。これで今回の登場人物は後一人になりました。


私事ですが、第三章の文章量が他の章と比べ少なく、三巻分には足りなくなってしまいました。

三巻用に追加エピソードを書き下ろすために、本編の行進が少し遅れます。

いつも先代勇者は隠居したいを読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。



ではまた次回! お楽しみに

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