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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
101/192

先代勇者と女海賊

 「誰が三バっ……ふふ。まあ良いさ。商談を続けようじゃあないか」


 ドカッと椅子に座り直した女海賊アンジェリカ。


 「黒毛。アンタが勇者一味の荷物番だった時から、アタシはアンタを狙ってた。憎らしい程卓越指した戦闘能力。屈辱的なまでに高い戦術眼。冒涜的なまでな貪欲さ。……正直、荷物番にしておくのは惜しいと思ったね」


 三年前、俺たちは聖剣の封印を解くために幾つかの神殿を回る必要があった。

 ゲームでもよくあるような、宝玉とか集めるアレだ。

 このアンジェリカ率いる三バ海賊は俺たちの前に何度も現れ騒ぎを起こして逃げ帰ると言う、良くわからん奴らだった。


 邪魔された時もあったし役にたったこともあるし……。


 ちなみに荷物番、ってのは勇者という身分を隠すためのフェイクだった。

 出会った頃はツンツンしていたシルヴィアから荷物番を任されていたのも理由にある。


 「んで久しぶりに会ってみりゃあ、今度は二人のガキの荷物番……アタシは悲しいよ。かつてアタシらと死闘を繰り広げた仇敵が、こんな所でくすぶってるなんてさ」


 アンジェリカの頭の中じゃ、俺はベルナデットとクオンの荷物番なわけか。

 つかいつ死闘を繰り広げた。基本的にこいつら戦闘能力は皆無に等しいんだ。


 「……アタシらと一緒に来ないかい? アタシらなら、アンタを荷物番なんて場所には置かない。副船長の座を与えても良いって思ってるんだ!」


 「断る。つうか海賊になんてなるか」


 こいつらは腐っても海賊。お尋ね者になるのは必至だ。

 只でさえ目立ちたく無い俺が海賊なんてなるわけがない。


 「ふふふ。海賊、ねぇ。悪いが黒毛、アタシらはもう海賊家業は足を洗うって決めてんのさ」


 「は?」


 「時代は空。……そう、アタシらは『空賊スカイパイレーツ』になるんだよ!」


 ババーン! と効果音の付きそうな勢いで立ち上がって空を指さす(実際に指さしてるのは酒場の天井だが)アンジェリカ。


 「決め顔の所悪いが、更に断る。飛空挺なんてリーゼリオン周辺の天空宙域しか使えないじゃねぇか。……俺はリーゼリオンの空軍になんか追われたくねぇぞ」


 もしシルヴィアに見つかったら殺されちまうよ。

 飛空挺には興味があるが、断る理由の方が大きいな。


 「……ふふ、ふふふふふ。どうやらアンタはこの三年、隠居生活でも送って来たようだねぇ。三年の間で、飛空挺の技術は天空宙域以外でも空を飛べるまでに上がったのさ!」


 「なにぃっ!?」


 俺が立ち上がる程驚くと、アンジェリカは不敵に笑ってまた着席する。


 いや、しかし……コレは本当に驚いた。

 飛空挺と言えば昨今のRPGゲームには鉄板の空中移動用の乗り物だ。

 ゲームでは空を自由自在に駆ける姿が特徴的だが、この世界での飛空挺は一部の『天空宙域』と呼ばれる空域でないと空を飛べないのだ。

 なんでも機関部の風石(魔石の属性付与版と思ってくれれば良い)がその天空宙域でしか機能しないかららしいのだが……。


 「どうだい? 少しは惹かれるだろう?」


 うん。正直すっごい興味がある。

 どう機関部を弄くれば船一つ飛べるようになるのか凄く知りたい。最新技術とか聞くだけで興奮するぜ。


 「けど船員って言うのは無理だな。俺ゆっくり旅したいし」


 「そ、そう言うと思ってねぇ……一つ取引と行こうじゃないか」


 ノッポの男が拾った金貨をひったくってまた指先で弄ぶアンジェリカ。

 ……なるほど、元よりそのつもりだったって訳か。

 船員に誘う事で敵意は無いと示す事で、断られても次の取引を有効に進める事が……ってそんな高度な取引できないか。断った時、また金貨を落としかけてたし。


 「アンタは飛空挺を弄りたい……アタシらは良質の魔石が欲しい。そこでだ、アンタにここ、ノルドヨルドのダンジョンを踏破して欲しいんだ」


 「だが断る」


 「ふふ、話が早くて助かるよ。それじゃあ明日からでも……ふぇ!?」


 俺が断ると、アンジェリカはキリッとした顔をくしゃっ、と歪めて泣きそうな顔になった。


 「な、なんで断るんだい!? アンタに大きなデメリットなんて……」


 「大ありだバカ。誰がダンジョンなんか潜るかバカ。一昨日来やがれバカ」


 テーブルのお冷やを一気に飲み干す。


 「そ、そんなに……バカバカ言わなくたって……いいじゃないかぁっ」

 「あ、姐さん!」

 「こら黒毛! おめぇのせいで姐さんないちまったじゃねぇか!」


 子供みたいに泣き始めやがった。煽り耐性無さ過ぎだろ。

 ううむ、しかし罪悪感が全く生まれん。三年前は散々邪魔してくれたからなぁ。


 「そもそも、俺達は嵐が明け次第この島から立つんだ。時間的な問題から見てもダンジョンに潜って魔石を集めるなんて無理だ」


 そう、魔石が採れるって言ったって質の良い魔石は微々たるもんだ。

 とてもじゃあないが、半日で見つけるなんて無理だ。


 「……」

 「……」

 「……」


 俺がそう宣言すると、何故か三バ海賊……もう海賊じゃないから三バカで行こう。

 何故か三バカは俺を見て固まった。


 「ぐすっ、……アンタ、今日来たばっかなのかい?」


 「え? ……ああ。ついさっき来たばっかだ。ガラリエに向かう途中に嵐に巻き込まれて」


 「……アタシらは、もう一週間もこの嵐に閉じこめられてるんだ。明日止むとは、とてもじゃないが考えられないねぇ」


 ……何?


 「ちょ、ちょっと待て! ……今、なんつった?」


 聞き間違いだと思いたい単語があった。


 「アタシらは、もうこの嵐に一週間は足を止められてるんだってんだよ! この嵐の中、海を進もうって奴は馬鹿しかいないからね」


 聞き間違いじゃなかった。


 「一週間も、閉じこめられてる!? ちょっと待ってくれ、この規模の嵐が一週間も続いてるのか?」


 そんなのはもはや異常気象だ。


 「アタシらも嵐に巻き込まれた口でねぇ……住んでる奴らに聞くところ、二週間は続いてるそうだよ」


 「にっ、二週間!? ……異常気象も良い所だ。絶対と言って良いほど、何か(・・)の影響だぞ」


 そうでも無ければなんだと言うような状態だ。


 「にしても二週間か……良く持ってるな」


 二週間もあれば食料とか諸々枯渇し始めてるはずなんだが……。


 「アタシら以外にも商船が幾つか巻き込まれてくるんだ。それにダンジョンの魔物の中には中々美味い奴もいて……まあ食料事情は今の所問題ないよ」

 

 この状態で成り立ってるのもまたすげぇな。

 にしてもこの状況、かなりヤバいな。


 「コレが異常なのはわかってる。……けど、原因がわからないと、何もできやしねぇ」


 そう。相手が古竜や魔王でも実体だったらまだ倒せば終わる。

 だが世界規模での異変となると、俺は何もできない。


 「……ダンジョン奥に異変の原因がある……みたいなんだよ」


 「ダンジョン? ……なんでそんな事がわかるんだ?」


 「学者を名乗るエルフの女がそう言ったんだよ。理由は、アタシらにはわかんないけどさ」


 ……全く、面倒な事になったぞ。このままじゃ船が出ないし、仮に脱出できるとしても捨て置く事もできない……。


 「……潜るしかねぇのか」


 お化け怖いけど。お化け怖いけど!


 「お、おい! どこに行くんだい!?」


 俺が立ち上がると、アンジェリカも慌てたように立ち上がる。


 「潜るにしても明日だ。……長丁場になりそうだからな。買えるもん買って、連れが帰って来てから潜る」


 「あ、アタシらも連れてっておくれよ。魔石がないと、アタシらの船は動かないんだ! 邪魔にならないようにするからさぁ……!」


 「……明日の朝、この酒場に集合だ。身支度済ませておけよ?」


 連れて行くのは面倒臭いが、俺は魔石の目利きが効かない。仕方無い。


 「やりましたね姐さん!」

 「ダンジョンの踏破について行けば、俺達の名もあがりやすぜ姐さん!」

 「このばかちん! ……アタシの事は、船長とお呼び!!」


 「「アイ、船長(キャプテン)!!」」


 我が世の春が来たとばかりに騒ぐ三バカ達を見て俺は早くも後悔しはじめるのだった。

お待たせしました、最新話です。


結局潜る事になりました(笑)


ではまた次回、お楽しみに。

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