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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
100/192

先代勇者の弱点?

 「アニキのケチ」


 「うっせ」


 あの後も頑なに断っていると、クオンはジト目で俺を見ながらそう言った。


 「浅い階層だけで良いからさぁ~。ぶっちゃけさ、アニキと一緒に戦いたいんだよ」


 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 そうまで言ってくれるなら応えたくなるのが男ってもんよ。


 「だけど断る」


 「なんでだよ!」


 クオンが立ち上がり睨まれるが、俺はテコでも動かん。

 ダンジョンなんか行ってたまるか。


 俺がそう堅く決意していると、ベルナデットが俺を覗き込むように見ていた。


 「な、なんだよ」


 その口元が、笑いを抑えるようにプルプル震えているのを見て何か嫌な予感を覚えながら言うと、


 「ヤシロさん、……お化けとか苦手なタイプですか?」


 と、言いやがった。




 「だ、だだだだ誰ががががっ」

 「あぁ、やっぱりそうだったんですか」


 ニヤリと、俺の弱点を掴んだベルナデットが笑う。


 「ダンジョンと言えば暗く、踏破に失敗し死んでしまった冒険者達の怨霊が出るとも言います。『怪談と言えばダンジョン』ですしね」


 そう。それは三年前の事だった。

 元々幽霊とか苦手だったんだが、どっかの自称吟遊詩人が旅の道中で異世界怪談百物語とかやったせいで俺は幽霊がダメになったんだ。

 ……あの野郎、自称するだけあって話術に長けていて、やたらリアルに感じたんだよ。当時の俺はそれはもう怖がって数日の間……いや、この話はよそう。恥ずかしいし。


 「へぇー……アニキにも苦手なものがあぃだっ!?」


 ニシシ、と笑うクオンにデコピンして黙らせる。


 「確かに意外ですけど、私的には親近感が湧きましたね。……私はお化けは大丈夫ですが」


 「ぐぬぬ……このダメっ娘シスターめっ」 


 ニヤニヤと笑うベルナデットにもデコピンをしてやろうかこんちくしょう。


 「っ~……じゃあさアニキ、武器屋回らない?」


 悶絶していたクオンが涙目で顔を上げる。


 「武器屋?」


 「ああ。ここノルドヨルドは武具屋とか防具屋が多いことでも有名なんだ。魔石をふんだんに使った魔剣なんかが特に有名でさ。魔物の材料も良いのが手に入るから、良質な武器も多いんだ」


 なるほど確かに。

 武器や防具は一部を除いて消耗品のようなものだ。

 維持するにも研磨や仕立て直し、壊れてしまったらダンジョンに潜るのが仕事みたいな奴はすぐ新しいのが必要になる。


 多くの冒険者達が訪れる街で、多くの武具屋が集まるのは必然か。


 「アニキにもさ、新しい武器が見つかると思うんだよ!」

 「武器? ……武器ならあるぞ?」

 「へ?」

 「ほれ」


 ポーチから鞘に収まった双剣を取り出す。

ルクセリアでゴルドーの爺が仕立ててくれた双剣だ。

 思えばこの双剣で六刃将のテラキオ、ドラゴンゾンビ多数を斬り伏せて来たわけだが、世が世なら歴史に名を残すくらいの名剣だよな。


 「刀身には触るなよ? 麻痺毒が仕込まれてるらしい」

 「さ、触っていいの!?」


 触らせるつもりで出したので頷くと、緊張した様子で鞘を掴み上げた。


 「……っ、すげぇ……」


 覚悟を決めたのか、口を一文字にして剣をゆっくり抜くと、その宝石のように透ける碧色の刀身を見て、クオンが言葉を漏らす。


 抜ききった剣を酒場の灯りに照らしながらクオンは惚けたようにニマニマと笑いだした。

それはまさしく『剣に魅せられた』ようで若干危ない笑みだった。


 「おいおい、大丈夫か?」


 「はっ!? ……あ、あぁ。こんな綺麗な剣、オレ、見たの初めてだよ!」


 声を掛けるとようやく意識が戻って来たらしく、興奮した様子で喋り出す。


 「この剣の名前は?」

 「二振り合わせて『クリスタル・ヴェノム』。こっちのは青いんだぜ」

 「すげぇ! かっけぇ!」


 もう一振りの方を抜くと、蒼い刀身のソレを見てクオンが更に興奮する。


 「更にな? 両方の剣をこうすると……」


 双剣の柄頭を互いの溝にはめ込めば……双剣の刀身が赤く染まり、蛇連双刃『真紅のカルブンクルス』の出来上がり。


 「うおおぉ!!」


 もうテンションMAX。いやぁ、ここまで反応良いと気持ち良いぜ。




 「申し訳ありません。その剣、少し見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「あ?」


 突然声を掛けられ振り返ると……誰もいない。


 「こ、こっちです!」


 「あ、すんません。……えっと、君は?」


 少し視線を下に向けると、赤毛のちっこい女の子がいた。

 リリルリーより小さく、一メートルにも満たないだろう。


 「あ、申し遅れました。私、このノルドヨルドで小さな工房を開いている鍛冶師の『アハト』と申します。今日はギルドからの要請で鋼の剣を幾つか納品しに来まして、その帰りに来てみれば飾り気の無い美しい剣を見つけまして、鍛冶師の性と言いますか、興味を持ってしまいお声を掛けたしだいであります」


 早口に答えたアハトと名乗る少女は、鍛冶師らしく頬や鼻を赤く焼き、厚手の服は煤で黒く汚れていた。


 「えーと……はい」


 なんだか断れる雰囲気じゃないと思い連結したままのそれを渡すと、彼女はそれをしげしげと眺めた後に、突然分解しはじめた。


 「う、……え?」


 連結を解除し、柄から刀身を抜き、柄を幾つかのパーツに分解し、ミトンのような手袋をした手で刀身を持ち上げ、それを色々な角度から眺める。


 突然と言うか、あまりにも流れるような動作で解体し始めたために驚くばかりで言葉が出ず、気づくと彼女は分解した剣を組み直し、テーブルの上に置かれた鞘に納め直して満足したように溜息を漏らす。


 「鉱竜バジリスクの雌雄の体鉱を削りだし、連結させる事で強度を上げる術式を施した珍しい一品です。柄に埋め込まれた宝石はバジリスクの眼ですね? 呪術的な効果で対石化に有効でしょう。ですが何より素晴らしいのはやはり連結機構でしょう。本来削りだけの剣は脆く、鉄製の剣に比べ扱い難い物です。それを連結することで強度を高めるだなんて……良い作品です。眼福でした」


 彼女は恐らくドワーフやホビットの類だろう。

 鉱石や武器に精通してそうだからドワーフと見た。


 「す、凄いな……」


 「いえ、一度解体したわけですし、これくらいは普通です。それより、この剣はメンテナンスしてますか?」


 「いや、してないけど」


 鉄とかだったら血を拭いたりしないと錆びたりするのだが、この剣は水晶のような石で作られているのでメンテナンスフリー……と爺に言われていたんだが、やっぱりしないと不味い? 


 「確かに血拭きなどのメンテナンスは必要ないですが、刃の研磨はしておいた方が良いでしょう。確かに切り裂くことを主眼とした剣ではありませんが、刃が丸くなりかけてます」


 「あ、はい。ありがとう」


 「いえいえ。……所で、貴方方はこの街は初めてで?」


 チラとベルナデットとクオンを見ると二人が頷いたので俺も頷く。


 「この街には海賊もたむろしています。お気をつけてくださいね」


 そう言ってアハトはトコトコと酒場を去っていった。


 「……海賊、ね」


 アハトの言った通り、この酒場にも少数だが明らかにならず者、と言った風体の男達がいた。


 あまり呑気にしてると面倒な事に巻き込まれそうだ。


 「俺はもう宿で休もうと思うんだが……クオンとベルナデットはどうする?」


 「オレは勿論迷宮に行くぜ! 朝までには戻る」


 船の中でだったが、休まず鍛えた成果を直接感じたいのだろう。

 体を動かしたいとウズウズしてるのかクオンは俺の言葉に間を置かず即答する。


 「それなら私もクオンさんと一緒に行きます。私も強くなりたいので」


 ベルナデットもクオンと一緒か。


 「んじゃ決まりだな。明日の朝、またここで集合だ」


 「んじゃ、オレ達は行くぜアニキ!」


 俺がそう言うや否や、こっからは別行動、と俺を置いて先に迷宮に向かおうとする二人。


 おいおい、勘定はどうすんだコラ。俺持ちか? 後で請求するからな!


 諦めて勘定を払おうと俺が手を挙げた時、


 

 「ちょいと失礼するよ?」


 ガタッ! 


 ベルナデットが座っていた、俺の向かいの席に誰かが勢いよく座った。


 「久しぶりだねぇ、黒毛。アンタとこんな場所で再会するなんて」


 よく見れば、二十代を少し過ぎたくらいの女性と、その後ろに立つノッポとチビの男が二人。


 女は海賊帽に海賊風のコート。胸元をがっつり開けたシャツに黒のフリルのついたミニスカート。

 男達は揃って頭にバンダナを巻いて海賊の下っ端と言う感じだ。


 「今日会ったが運の尽き、と言いたいが、実はアンタに良い話があるんだ。……少し付きあいなよ」


 現代日本、と言うより地球では見ないようなピンク色の髪を所々ロールさせたその女海賊は胸元から金貨を取り出し、指で弄ぶ。


 「商談をしようじゃ……」


 「誰だアンタら」


 格好良く決めた所で悪いが、俺はこの人達に見覚えが無い。


 チャリン、と金貨を落とした女海賊はわなわなと震えだし、勢いよく立ち上がった。


 「ふ、ふふふふふ。そう言うわけかい。かつて死闘を繰り広げた仇敵相手に商談なんかしない……と言いたいんだねぇ? まあその気持ちはわかるさ。けどアンタにも悪い話じゃ……」


 「いや、すまん。……人違いじゃないのか?」


 割と真面目に知らないのだが……え? 何? 俺この人っちと知り合いなの? ……美人は美人だが、関わり合いになりたくない相手なんだが……。


 ん? 関わり合いになりたくない? ……そう言えば、どっかで会ったような気がする……。


 「くっ……ば、馬鹿にしてっ……『黒バラ海賊団』船長、アンジェリカ・フォン・ボルテニーの名を、忘れたとは言わせないよ!!」


 顔を赤く涙目で名乗った姿に、ようやく合点がいった。


 そう、俺はこの三人を知っている!


 「三バ海賊か! ひっさしぶりじゃん!」


 こいつらは三年前、何度か俺たちの旅を邪魔した海賊だったのだ。

お待たせしました、最新話です。


遂に百話達成!


何かお祝いにお祭り回を書こうかなとも思いましたが、んな事より本編書けと言われそうで怖いのでまた今度。


ではまた次回。お楽しみに

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