表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

推理小説

盗見

作者: オリンポス

カンニングには魅力を感じません。

やろうって思わないんですよね。

「今日で15回目になる。わるいが俺も部活動の大会が近いし、こんなに何度も再テストはやっていられないぞ」

 色つきのサングラスをかけ、パンチパーマに白スーツで身なりを整えた、世界史の先生は苛立たしそうにそう言った。

「そうですね、ぼくも部活でレギュラーに入っていますし、こんなくだらないことで時間を費やしたくはないですね」

 紺のブレザーに茶色っぽいズボンをはいている生徒は時計を気にしていた。

 教師と生徒。

 ここの教室にはたった2人しかいなかった。教師は黒板の前、生徒はきちんと席に座っている。

「早く始めましょうよ、再テスト」

「その前に1個忠告させてくれ。泣いても笑っても再テストはこれで最後にする」

 やった。

 生徒はほくそ笑んだ。いちいち勉強などしなくても、再テストは永久に続くわけではない。なぜなら相手が必ず根負けするからだ。もうやめにしようと絶対に言ってくる。

 それまで待っていればいい。不合格になり続ければいい。

 まあ今回はそうならない、秘策が生徒にはあるようだが。

「ただし……。このテストに合格できなければ、留年と処することが職員会議で決定した」

「そうですか。たしかにたった1教科とはいえ、年平均で赤点を取り続け、おまけに再テストばかりでは、留年も免れませんよね」

 生徒は余裕の表情で承諾した。

「じゃあ始めよう。テスト用紙を取りに来て……」

 生徒はまず名前を書いた。

 それから問題を――解くふりを――はじめた。

 試験監督である世界史の先生は、夕焼けや楽しそうに下校する生徒の様子を眺めている。それを確認した生徒は、シャープペンシルの中に筒型に丸めて仕込んでおいた小さな紙を取り出し広げた。

 そこにはテストの答えが順番に書き記してある。生徒はさっそくそれを写し始めた。

「うーむ、黒板がきたないな」

 世界史の先生は眺望を終えると、潔癖症なのか、きれいなはずの黒板をさらに雑巾がけして磨いた。

 磨いているあいだ、ちらちらと生徒の手元も見た。

 しかし、生徒はすでにカンニングペーパーをポケットにしまっていたので、ばれるはずがなかった。

 世界史の先生は、何度も拭いているうちに、雑巾の汚れも気になってきたようで、

「わるい。雑巾洗ってくるからちょっと待っててくれ」

 と、教室から出ていった。

 こいつはもっけの幸いだぜ!

 生徒はそう意気込み、またまる写しを開始した。

 先生が戻ってくる頃には9割ほど答案が埋まっていた。先生は進捗状況を確認して、ふーんと声を出すと、窓の拭き掃除を始めた。

 本当にきれい好きというか潔癖症というか。

 芸能人なら坂上忍というか松居一代というか。

 作家だったら泉鏡花というかなんというか、そんな感じの人だ。

 るんるんと、鼻歌をうたっている教師を尻目に答案を完成させた生徒は、プリントを先生に渡して退室した。


 後日。

 再テストが返却された。

 点数は、78点。再テストのボーダーラインは80点以上で合格。

「……バカな」

 絶句して、肩を落とす生徒に、先生はこう言った。

「問題の順序を少しいじってみたんだ。ばれずにカンニングを果たした、卒業生の意見を参考にな。すると、カンペとか使って順番に覚えてるという意見が多かったから、変えてみたんだ」

「なんで……なんでぼくがカンニングをするって思ったんですか?」

 ハハッ……教師は笑ってから、

「壁に耳あり障子に目あり、だぜ。黒板磨いていたのはカムフラージュさ。俺の目的はあくまで、窓ガラスをきれいにして鏡のように後ろの景色を反射させ、様子をみることだったんだからな。そうやって生徒を観察してると、不正をしそうなやつ、企んでいるやつが浮き彫りになるもんだぜ」

「参ったなあ」

 生徒は苦笑した。

ちなみに。

この生徒は苦心惨憺して勉強をがんばり、なんとか学校を卒業させてもらったらしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文全体に充実感があって、いいですね。 学生時代が懐かしく思えてきました。 雰囲気が伝わってくるようで、いいですね。 [一言] ご感想をいただいていたので、ぜひとも・・・と作品を拝見しにきて…
2013/02/16 07:00 退会済み
管理
[一言]  どうもはじめまして、『盗見』読ませていただきました。  こういう知恵比べのネタはやはり面白いですね。  先生の恰好がどう見ても、知恵を出すよりも先に手を出しそうな見た目ですけど。  …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ