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感傷
遠い日の話
母は、気がつけばいつも南の空を見上げていたような気がする。
「ねぇお母さん、南の空には何があるの?」
それは逢の一番古い母親との記憶。
世界は輝いていて、逢は自分が愛されて当然だと思っていた。
「それはねえ逢ちゃん?南の空・・・南十字星の浮かぶ空には神様が居るのよー」
「かみさま・・・・・・かみさまがいるの?」
南の空には神様が居て、虹の麓には幸せが埋まっている。海の青は誰かの涙が溶けた色で、夕暮れの茜はお日様がさよならを言う、優しい色。
すべては輝かしい、幼き日の思い出たち。
あの日。
見上げた空は今にも泣き出しそうに曇っていた。
寒い寒い、如月の日。
輝かしい世界、色鮮やかな記憶は閉ざされた。もう戻れない。前に進むしか、道はなかった。