闘神への誓い
春。
雪が溶け、草が芽吹く季節。
闘神の領地の中心にある大きな城の前には、多くの人が集まっていた。
人間。
エルフ。
魔族。
種族は違っても、今日は同じ目的で集まっている。
騎士見習いの選定の日。
闘神の騎士団に入るための最初の門。
この土地を守る者になるための第一歩だった。
城門の前には、十数人の少年たちが並んでいる。
その中に――
ホープ。
13歳。
背はまだ高くない。
だが目は真っ直ぐだった。
腰には木剣。
父の形見の革手袋をつけている。
隣の少年が小声で言う。
「緊張するな……」
ホープは小さく笑う。
「少し」
だがその手は強く握られていた。
城の兵が前に出る。
「これより騎士見習いの試験を始める!」
兵たちが静まる。
兵が続ける。
「この地を守る覚悟がある者だけが前へ出ろ!」
数人の少年が顔を見合わせる。
だが誰も下がらない。
兵が言う。
「まず剣の試験だ!」
木剣が配られる。
一人ずつ前へ出る。
兵と打ち合う。
剣の腕を見るための試験。
ホープの順番が来る。
「次!」
ホープが前へ出る。
兵が言う。
「構えろ」
ホープが剣を握る。
父の声を思い出す。
剣は守るために振るう。
兵が動く。
カン!
木剣がぶつかる。
ホープが踏み込む。
兵が弾く。
もう一度。
ホープが回り込む。
兵が少し驚く。
「ほう」
数合打ち合う。
そして。
兵が剣を止めた。
「……合格だ」
ホープが息を吐く。
試験は続く。
やがて半分以上が落とされた。
残ったのは――
四人。
兵が言う。
「ここから先は」
空を見上げる。
「闘神様の御前だ」
空気が変わる。
ざわめきが起こる。
そのとき。
空が揺れた。
ドン――
空から、一つの影が降りてくる。
黒い鎧。
圧倒的な神力。
大地が震える。
その場にいた全員が膝をついた。
「闘神様……!」
闘神。
この土地の支配者。
神。
ホープも膝をつく。
だがこっそり顔を上げた。
初めて見る。
闘神。
背が高く、冷たい目。
だがなぜか。
どこか懐かしい感じがした。
闘神の目が、少年たちを見る。
一人ずつ。
そして。
ホープのところで――
ほんの一瞬だけ止まった。
だが何も言わない。
闘神が言う。
低い声。
「名を言え」
一人ずつ名乗る。
「ルークです!」
「アルドです!」
順番が回る。
ホープが言う。
「……ホープです」
闘神の目がわずかに動く。
だが表情は変わらない。
闘神が言う。
再び闘神が言う。
「騎士とは何だ」
少年たちが黙る。
誰も答えない。
そのとき。
ホープが言った。
「守る人です」
周りが驚く。
闘神がホープを見る。
「何を守る」
ホープは迷わない。
「この土地です」
少し間を置く。
「人間も」
「エルフも」
「魔族も」
空を見る。
「みんなが生きる場所」
闘神は黙る。
そして。
ゆっくり言う。
「……理由は」
ホープは答える。
「父が騎士だったから」
少し声が震える。
「神に殺されました」
静かに言う。
「でも」
拳を握る。
「父は逃げませんでした」
闘神の目がわずかに細くなる。
ホープは言う。
「だから」
真っ直ぐ見る。
「ぼくも騎士になります」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
闘神が言った。
「……立て」
四人の少年が立つ。
闘神が剣を地面に突き立てる。
「誓え」
少年たちが言う。
「誓います!」
闘神が言う。
「この土地を守ることを」
少年たちが声を揃える。
「誓います!」
闘神が最後に言う。
「命を懸けても」
ホープが言う。
「誓います!」
闘神は静かに頷いた。
「今日から」
少年たちを見る。
「お前たちは騎士見習いだ」
歓声が上がる。
だが闘神はまだホープを見ていた。
そして少年はこの日。
騎士への道を歩き始めた。




