番外編④ 闘神と人間の妻 〜六年目の冬〜
冬の昼だった。
城の外では、静かに雪が降っている。
音を吸い込むような白さが、世界を包んでいた。
妻は窓辺に立ち、その雪を見つめていた。
言葉はない。
ただ、どこか穏やかな表情で。
その様子を、闘神は少し離れた場所から見ていた。
しばらくして、口を開く。
「……外に出るか」
妻が振り返る。
少し驚いたように、そしてすぐに柔らかく微笑む。
「よろしいのですか?」
「ああ」
短い返事。
闘神は続ける。
「……暖かい服にしろ」
ぶっきらぼうな声だった。
だが、妻はそれに小さく頷く。
「はい」
その声は、どこか嬉しそうだった。
⸻
雪の降る夜。
城のバルコニー。
外に出ると、冷たい空気が頬を撫でた。
妻の肩が、わずかに揺れる。
闘神は何も言わず、少しだけ歩みを寄せた。
白い息が、ゆっくりと空に溶けていく。
妻は手を伸ばし、降り積もった雪に触れる。
「……冷たいですね」
小さく呟く。
闘神は何も言わない。
ただ、その様子を見ていた。
妻はそのまま、しゃがみ込み、雪を丸め始める。
手の中で形を整えながら、どこか楽しそうに。
「……何をしている」
「雪だるまです」
妻は少しだけ楽しそうに答える。
闘神は黙ってそれを見ていたが、
やがて、隣に腰を下ろした。
何も言わず、同じように雪に手を触れる。
⸻
二人は並んで、小さな雪だるまを作っていた。
ひとつ、完成する。
妻はそれを見て、少しだけ微笑む。
「……もう一つ、作りませんか」
闘神は視線を向ける。
「なぜだ」
妻は少し考えてから、言う。
「一つだと……少し寂しい気がして」
闘神は何も言わない。
ただ、もう一度雪に手を伸ばした。
⸻
しばらくして、もう一つの雪だるまができる。
妻はそれをそっと隣に並べた。
少しだけ、間が空いている。
闘神はその間を見て――
無言で、距離を詰めた。
二つの雪だるまが、並ぶ。
妻が、ふっと微笑む。
「……いいですね」
闘神は何も答えない。
ただ、その並んだ雪だるまを見ていた。
——しばらくの間。
⸻
風が吹いて、雪が少し積もる。
二つの雪だるまは、静かに並んだまま。
その前に立つ二人の距離も――
同じように、近かった。




