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闘神の子  作者: ありり
番外編
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番外編① 闘神と人間の妻 〜三年目の贈り物〜

【番外編】


闘神と妻が結婚して、もうすぐ三年を迎えようとしていた。


城の廊下を、闘神はゆっくりと歩いていた。

戦の後の城は、どこか静かだった。


廊下の窓からは夕陽が差し込み、赤い光が石の床を染めている。


その時、背後から騎士の声がかかった。


「闘神様」


振り返ると、長年仕えている配下の騎士だった。


「もうすぐ、奥方様とご結婚されて三年になりますね」


闘神は短く頷く。


「……ああ」


騎士は少し嬉しそうに言った。


「城で小さな宴でも開いてはいかがでしょう。

兵たちもきっと喜びます」


闘神は少し考える。


だがすぐに答えた。


「必要ない」


騎士は少し驚いた顔をしたが、すぐに頭を下げた。


「……失礼しました」


闘神はそれ以上何も言わず、城の奥へ歩き出した。



私室の扉の前に立つ。


闘神は扉を開けた。


部屋の中には、柔らかな灯りが灯っていた。


窓のそばに、一人の女性が立っている。


闘神の妻だった。


妻は振り返り、闘神を見ると、穏やかに微笑んだ。


「お帰りなさいませ」


闘神は短く答える。


「……ああ」


妻はゆっくりと近づく。


その姿を見て、闘神の視線が少し止まった。


妻の服装は、質素なワンピースだった。


城の侍女たちとほとんど変わらない服。


宝石も、装飾も、何一つ身につけていない。


この城の主の妻とは思えないほど、簡素な姿だった。


闘神は思う。


――そういえば


妻が何かを欲しがったことは、一度もなかった。


ドレスも。


宝石も。


何も。


闘神は内心で小さく息を吐く。


――俺に言える雰囲気ではないな。


自分の性格を思えば、当然かもしれない。


闘神は戦場では神々すら斬る存在だ。


そんな相手に


「これが欲しい」


などと言える者はいない。


闘神は少しだけ言葉を探す。


そして言った。


「……足りないものはないか」


妻が少し首を傾げる。


「足りないもの、ですか?」


闘神は続けた。


「ドレスでもいい」


少し間を置く。


「アクセサリーでもいい」


妻は一瞬、驚いた顔をした。


だがすぐに穏やかに微笑む。


「特にありません」


闘神は少しだけ眉を動かす。


「欲しいものもないのか」


妻はゆっくり頷いた。


「はい」


迷いのない答えだった。


闘神は、少し困った。


戦いならいくらでもできる。


敵がいれば斬ればいい。


だが今は、どうすればいいのかわからない。


――何か、贈りたい。


ふと、そんな思いが胸に浮かんだ。


そして気づく。


妻に、喜んでもらいたい。


闘神は今まで、そんなことを考えたことがなかった。


戦いに生きてきた神だった。


だが今は違う。


闘神は、困ったように少し黙る。


その様子を、妻は静かに見ていた。


そして、くすっと小さく笑う。


妻はゆっくり闘神に近づいた。


そして闘神の手を取る。


闘神の手は大きく、固かった。


長い戦いの中でできた傷が、いくつも残っている。


妻はその手を優しく包む。


「……一つ、欲しいものがあります」


闘神は妻を見る。


「何だ」


妻は少しだけ照れたように笑う。


「闘神様の」


ほんの少し間を置いて、言った。


「笑っているお姿を見てみたいです」


その言葉に、闘神は思わず目を見開いた。


今まで、そんなことを言われたことはなかった。


妻は、変わらず優しく微笑んでいる。


闘神はその顔を見つめる。


この女性は何も望まない。


宝石も。


ドレスも。


自由も。


ただ、自分の笑顔を望んでいる。


闘神は、少し戸惑う。


だが――


ふっと


自然に口元が緩んだ。


ほんのわずかな微笑みだった。


戦場では決して見せない表情。


だが確かに、笑っていた。


妻の目がぱっと明るくなる。


「……嬉しいです」


本当に嬉しそうに、妻はそう言った。


闘神は少しだけ視線を逸らす。


「……そうか」


ぶっきらぼうな言葉だった。


だが、その声はどこか柔らかかった。


妻は闘神の手を握ったまま、もう一度微笑む。


部屋の外では、春の風が静かに吹いていた。


それは、二人が共に過ごす三年目の春だった。

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