花園に眠る神
神の光が空へ溶けていったあと、
花園には静かな風だけが残っていた。
さっきまで戦場だったとは思えないほど、静かだった。
ホープはその場に立ったまま動かなかった。
剣を握ったまま。
目は空を見ている。
そこにはもう――
父も、母もいない。
そのとき遠くから足音が聞こえた。
「ホープ!!」
ルークだった。
訓練場から全速力で走ってきた。
その後ろからガルドも駆けてくる。
「無事か!!」
セリアも少し遅れて花園に入ってきた。
三人はそこで足を止める。
地面には神の痕跡。
裂けた大地。
そして――
闘神の剣を握ったまま立つホープ。
ルークが息を切らしながら近づく。
「おい……」
声が震えている。
「大丈夫か」
ホープは答えない。
ただ立っている。
ガルドが心配そうに言う。
「ホープ……」
そのときホープの剣が、手から落ちた。
カラン、と音を立てる。
そしてその場に膝をついた。
「……っ」
声にならない声。
肩が震える。
涙があふれる。
ルークが隣にしゃがむ。
「……」
何も言わない。
ただ、隣にいる。
ガルドが拳を握る。
悔しそうに空を見る。
セリアは静かにホープの肩に手を置いた。
その温もりに触れた瞬間。
ホープの涙があふれ出した。
止まらない。
声も出ない。
ただ涙だけが落ち続ける。
その涙は――
しばらく止まらなかった。
ルークが言う。
「……お前一人じゃない」
ガルドが言う。
「そうだ」
腕を組む。
「俺たちがいる」
セリアが静かに言う。
「ずっと」
ホープは涙を拭く。
ゆっくり立ち上がる。
空を見る。
父と母が消えた空。
静かに言った。
「……守る」
三人がホープを見る。
ホープは続ける。
「父さんが守った土地」
「母さんが愛した土地」
拳を握る。
「俺が守る」
ルークが少し笑う。
「言うと思った」
ガルドが豪快に笑う。
「なら決まりだ!」
ホープが言う。
「お前たちは……」
だがルークが遮る。
「ついていく」
セリアも言う。
「最初からそのつもり」
ガルドが笑う。
「騎士だからな!」
ホープは少し驚く。
小さく笑った。
「……ありがとう」
その日。
少年は新しい闘神になった。
⸻
数年後。
闘神の治める土地は変わらなかった。
人間。
エルフ。
魔族。
種族は違っても、同じ街で暮らしている。
市場では今日も賑やかな声が響く。
争いはほとんどない。
豊かな土地。
それは今も続いている。
そして城の中の
小さな花園。
昔、闘神の妻が世話をしていた場所。
今は――
ホープたちが世話をしている。
花はまた咲き始めていた。
その花園の奥に
二つの墓が並んでいる。
一つは――
闘神。
もう一つは――
闘神の妻。
ホープは墓の前に立つ。
花を供える。
そして静かに言う。
「父さん」
「母さん」
空を見る。
「この土地」
小さく笑う。
「守ってるよ」
風が吹く。
花が揺れる。
その風はどこか優しかった。
まるで――
二人が見守っているように。
ホープは墓を見る。
小さく言った。
「二人が」
「一緒にいられますように」
花園には今日も花が咲いている。
それは闘神の土地の平和の証だった。




