闘神の剣
世界は止まっていた。
雷は空中で固まり、
炎は形を保ったまま揺れず、
神々も、空に浮いたまま動かない。
ホープだけが動いている。
そして目の前には――
闘神の剣を振り上げたまま、
時の神である母。
その刃は、あと一瞬で振り下ろされるところで止まっている。
ホープは困惑していた。
「……何だ」
周囲を見回す。
「時間……?」
そのとき、後ろから声がした。
「ホープ」
とても静かな声。
振り向く。
そこに――
もう一人、母が立っていた。
同じ姿。
同じ顔。
同じ瞳。
ホープの目が見開かれる。
「……母さん?」
前を見る。
剣を振り上げた母。
後ろを見る。
今、声をかけてきた母。
混乱した声が漏れる。
「母さんが……二人?」
後ろの母は、少しだけ微笑んだ。
そして言った。
「ええ」
静かな声。
「どちらも私」
ホープの胸がざわつく。
母はゆっくりホープの隣に歩いてくる。
前に止まったままのもう一人の自分を見る。
言った。
「力が……大きすぎたの」
空を見る。
止まった世界。
「人間の私では」
小さく息を吐く。
「制御できなくなった」
視線をホープへ戻す。
「怒りと悲しみが」
胸に手を当てる。
「この力を暴走させた」
少しだけ目を細める。
「今、あなたが見ているあの私は」
前の自分を見る。
「止まらない私」
ホープは言葉を失う。
母は続ける。
「でも」
その目が柔らかくなる。
「私の中には」
ホープを見る。
「まだ、あなたの母としてもいる」
ゆっくりホープに近づいた。
両腕を伸ばす。
抱きしめる。
ホープの体が一瞬固まる。
だがその腕は、
花園で抱きしめてくれた時と同じだった。
温かい。
震えている。
母が言う。
「闘神様も」
目を閉じる。
「あなたも」
小さく息を吸う。
「愛している」
ホープの目から涙が落ちる。
そのとき母が手をかざした。
空間が歪む。
光が集まる。
神の力が形を作る。
そして剣が生まれる。
闘神の剣。
だがさっきまでのものではない。
新しい。
神力で創られた。
闘神の剣。
母はそれを手に取り。
ホープに渡す。
ホープは震える手で受け取る。
「……母さん」
母は言う。
静かに。
はっきりと。
「私を」
少し間を置く。
「貫いて」
ホープの呼吸が止まる。
「……え」
母は優しく微笑む。
「この暴走を止めるには」
前に止まった自分を見る。
「それしかない」
ホープは首を振る。
「無理だ」
声が震える。
「できるわけない」
母は首を横に振る。
「あなたならできる」
その目は優しかった。
「あなたは」
ホープの胸に手を当てる。
「闘神の子」
そして。
額に触れる。
「私の子」
「闘神様が守ってきたこの地を守り続けて」
その瞬間。
世界が震えた。
止まっていた時が――
再び動き出す。
雷が落ちる。
炎が動く。
神々が息を吸う。
そして。
前の母......時の神が。
剣を振り下ろす。
ホープが動く。
剣を構える。
涙が止まらない。
「……できないよ」
声が震える。
「母さん」
剣を握る。
「できない」
それでも。
戦う。
闘神の力。
時の力。
二つを使い。
涙を流しながら。
ホープは――
母と戦った。




