暴走
花園は、すでに花園ではなかった。
大地は裂け、空は歪み、神の血が地面を染めている。
その中心に――
闘神の亡骸。
そして、その横に立つ女。
闘神の妻、ホープの母。
だが、もうその姿は人間ではなかった。
彼女の周囲の空間が歪んでいる。
風が動かない。
落ちていた花びらが空中で止まっていた。
時間が――
止まっている。
神々が息を呑む。
雷の神が呟く。
「……時の神」
その名を口にした瞬間。
女がゆっくり顔を上げた。
その目は――
涙の跡を残しながらも、静かに狂っていた。
そしてゆっくり言う。
「全部」
低い声。
壊れたような静かな声。
「止める」
空を見上げる。
神々を見つめる。
「全ての時を」
「止める」
次の瞬間。
空の雲が止まる。
落ちていた神の血が止まる。
炎も。
風も。
音も。
すべて。
動かない。
世界が止まる。
神々の体も、重く固まる。
恐怖が広がる。
母は続けた。
「全部」
闘神の剣を握る。
その刃に、時の力が流れる。
「壊す」
そして静かに言った。
「全ての神を」
「壊して」
目を細める。
「全てを」
小さく微笑む。
「無にする」
神々の顔が変わる。
恐怖。
初めて。
神が恐怖を見せた。
そのとき一人だけ動く者がいた。
ホープ。
ホープが叫ぶ。
「母さん!!」
声が震える。
「やめて!!」
だが母は振り向かない。
目は神々を見ている。
ホープが走る。
「母さん!」
必死に呼ぶ。
「俺だ!」
だが母の目は揺れない。
そこにはもう。
母の意識がない。
創造の神が震えていた。
空の上。
その顔は青ざめている。
「……あり得ない」
声が震える。
「時の神の完全覚醒……」
神々がざわめく。
創造の神は歯を食いしばる。
「……所詮」
声を絞り出す。
「人間だ」
そして槍を握る。
創造の槍。
世界の法則を作る神の武器。
創造の神が叫ぶ。
「終わらせる!!」
槍が光る。
空間を裂く。
そして妻へ向けて突き出された。
その瞬間。
母の目が、わずかに動いた。
時間がさらに歪む。
槍が止まる。
母はゆっくり手を上げる。
空間を掴むように。
それから軽く振った。
槍が――
弾かれた。
次の瞬間、
槍はそのまま創造の神へ向かって飛んだ。
創造の神の目が見開かれる。
「な……」
ドン――
槍が胸を貫いた。
創造の神の体が空中で止まる。
血が溢れる。
神の血。
神々が絶叫する。
「創造神!!」
母はゆっくり歩く。
空を。
創造の神へ向かって。
時間が歪む。
重力が崩れる。
母の顔には。
微笑み。
優しい笑み。
だがそれは恐ろしく冷たい。
母は言った。
「安心して」
優しい声。
「すぐには殺さない」
創造の神の目が震える。
母は続けた。
「ゆっくり」
首を少し傾ける。
「苦しませてあげる」
「苦しむ姿をみせて」
その声は完全に狂っていた。
そのときホープが前に立つ。
母の前に。
「……やめて」
息が荒い。
涙が滲む。
「母さん」
妻の目が初めてホープを見る。
冷たい目。
感情がない。
そして言った。
静かに。
「どいて」
ホープが首を振る。
「嫌だ」
母の目が細くなる。
剣を少し上げた。
闘神の剣。
その刃に。
時の力が渦巻く。
母は言う。
低く。
警告の声。
「……これ以上」
ホープを見つめる。
それからはっきり言った。
「邪魔をするなら」
一瞬の沈黙。
「お前を撃ち抜く」




