神の戦場
空が裂けていた。
黒い雲の中に、いくつもの神の影。
神々の怒りが大地に落ちてくる。
花園の花が震えていた。
闘神は剣を抜き、空を見上げている。
神々の戦いが始まる――
その瞬間。
ホープはまだ立ち尽くしていた。
頭の中が追いついていない。
神を斬ったこと。
闘神が父だと言ったこと。
神々が来ていること。
すべてが一度に押し寄せている。
そのとき足音が走った。
「ホープ!」
声。
振り向く前に――
強く抱きしめられた。
ホープの体が揺れる。
腕の中に、温もり。
顔を上げると。
そこにいたのは――
闘神の妻。
奥方。
その人だった。
ホープは驚く。
「奥方様……?」
だが抱きしめる腕は強い。
震えている。
まるで離すまいとするように。
妻の肩が震えていた。
そして、
涙がホープの肩に落ちる。
ホープは戸惑う。
「どうしたんですか」
そのとき妻が顔を上げた。
涙で濡れた目。
だが真っ直ぐホープを見ていた。
そして言った。
震える声で。
「……あなたは」
息を吸う。
十三年間、言えなかった言葉を――
初めて口にした。
「私の子です」
ホープの思考が止まる。
「……え」
妻は続けた。
涙を流しながら。
「あなたは」
手をホープの頬に触れる。
震える指。
「私の息子です」
世界が静かになる。
ホープの胸が強く脈打つ。
「……待って」
混乱している。
「俺……」
闘神を見る。
そして妻を見る。
「闘神様が父で」
指が震える。
「奥方様が……」
言葉が出ない。
妻は頷いた。
涙を流しながら。
「そうです」
そしてもう一度、抱きしめた。
今度は優しく。
でも深く。
「ずっと」
声が震える。
「ずっと……」
言葉が詰まる。
それでも言う。
「あなたに会いたかった」
ホープの体が固まる。
胸の奥が熱くなる。
理由は分からない。
だが涙が溢れそうになる。
そのとき闘神の声が落ちた。
低く。
戦場の声。
「……離れろ」
空の神々が降りてくる。
神気が大地を押し潰す。
闘神は前に出る。
剣を握る。
そして言った。
「ここから先は」
神々を睨む。
「神の戦場だ」
だがその背後では
十三年ぶりに
母と子が抱き合っていた。




