闘神と時の力
夕暮れ。
城の花園。
空は赤く染まり、風が静かに花を揺らしていた。
妻は一人で花の世話をしていた。
いつもの時間。
城の中でも、この場所だけは戦の匂いがない。
妻はしゃがみ、花の葉を整えている。
そのとき。
風が――
止まった。
花の揺れが止まる。
鳥の声も消える。
妻がゆっくり顔を上げる。
空気が変わっていた。
次の瞬間。
空間が裂ける。
神。
黒い衣をまとった神が、花園に現れた。
その目は冷たい。
妻を見る。
「……見つけた」
低い声。
妻は立ち上がる。
神の存在はすぐに分かった。
神はゆっくり近づく。
「人間」
冷たい声。
「お前が」
「闘神の妻か」
妻は何も言わない。
ただ神を見ている。
神は続ける。
「そして」
その目が細くなる。
「あの少年の母」
妻の胸がわずかに揺れる。
神は笑う。
「やはりそうか」
腕を上げた。
神力が集まる。
「安心しろ」
冷たい声。
「お前を殺せば」
「闘神の子は必ず現れる」
妻は一歩下がる。
だが逃げない。
そのとき
城の別の場所では、すでに異変が起きていた。
城門の近く。
ルークが剣を構えていた。
兵たちと共に立つ。
上空には別の神の影。
ルークが叫ぶ。
「城門を守れ!」
兵が言う。
「見習いは下がれ!」
ルークは首を振る。
「俺も騎士見習いだ!」
剣を握る。
「ここは通さない!」
その頃。
城の塔の上。
セリアが弓を構えていた。
遠くの空を睨む。
別の神の影が城壁へ降りようとしている。
セリアが矢をつがえる。
「ここから先は行かせない」
矢が放たれる。
神の肩に突き刺さる。
神が怒りの声を上げる。
セリアは静かに言う。
「花園には近づかせない」
さらに矢を放つ。
そして
城の西側の広場。
ガルドが兵たちと並んでいた。
巨大な神兵の影が地面に降りてくる。
ガルドが拳を握る。
「来い!」
兵が驚く。
「見習い!」
ガルドは笑う。
「ここは俺が守る!」
地面を蹴る。
「ガハハ!魔族の力見せてやる!」
城の中。
それぞれが別の場所を守っていた。
ルーク。
セリア。
ガルド。
三人は知らない。
今、花園で起きている出来事を。
そして花園。
その瞬間。
入り口から声がした。
「……何してる」
少年の声。
神が振り向く。
そこに立っていたのは――
ホープ。
剣を腰に下げている。
状況が理解できていない。
ただ、妻が危険な状況にいることは分かった。
ホープは剣を抜く。
「離れろ」
神は笑った。
「……来たか」
ゆっくり言う。
「闘神の子」
ホープの目が鋭くなる。
「何の話だ」
神は言う。
「知らないのか」
そして手を振る。
神力の衝撃。
ホープが吹き飛ばされる。
地面を転がる。
「っ……!」
神は妻を見る。
「まずはお前からだ」
神力が集まる。
妻の体が固まる。
その瞬間
ホープが立ち上がる。
血が口から流れている。
それでも走る。
「やめろ!!」
神が振り向く。
そのとき
ホープの胸が脈打つ。
ドクン
時間が歪む。
世界が遅くなる。
神の動きが、見える。
体の奥から力が溢れる。
闘神の力。
そして、時の力。
二つが暴れ出す。
ホープは叫ぶ。
「……来るなぁぁ!!」
剣を振る。
その瞬間
時間が一瞬――
止まった。
神の目が見開かれる。
「な……」
次の瞬間。
時間が動く。
斬撃。
空間が裂ける。
神の体が――
真っ二つに割れた。
神の血が空に散る。
花園に落ちる。
沈黙。
神の体が崩れる。
地面に落ちた。
完全に動かない。
ホープは立っている。
剣を握ったまま。
手が震えている。
「……え」
呼吸が荒い。
目の前の神。
動かない。
理解できない。
「……俺」
声が震える。
「今」
剣を見る。
血がついている。
「神を……」
言葉が止まる。
「殺した……?」
その後ろで。
妻は震えていた。
だが少年を見ていた。
自分の子。
十三年前、守れなかった命。
今、自分を守った。
そして、
初めて神を殺した。
その瞬間。
空の遥か上、神殿で
神々が――
この事実を知る。




