神の力の覚醒
それは、突然だった。
騎士見習いの訓練場。
いつものように剣の音が響いている。
秋の風が吹き、砂が舞う。
ホープは教官の騎士と剣を交えていた。
カン――!
金属音。
踏み込み。
斬撃。
教官が後ろに下がる。
「……いい動きだ」
ホープは息を整える。
額に汗が流れる。
だがまだ余裕があった。
少し離れた場所では、他の見習いたちも訓練している。
ルークが剣を振っていた。
「はあっ!」
その横でガルドが豪快に笑う。
「もっと来い!」
教官が呆れる。
「お前は声が大きい」
少し離れた場所。
セリアが弓を引く。
シュッ――
矢が的の中心に突き刺さる。
ルークが言う。
「相変わらず当てるな」
セリアは静かに言う。
「外す方が難しい」
ガルドが笑う。
「ガハハ!弓は性に合わん!」
そんな、いつもの訓練だった。
そのとき、
空気が変わった。
――ズン……
見えない圧が落ちる。
兵たちがざわめく。
城の上空に、黒い雲が集まり始めていた。
教官が顔を上げる。
「……神だ」
ルークが言う。
「嘘だろ」
ガルドが空を睨む。
「敵か」
セリアも弓を下ろす。
その瞬間。
空が裂けた。
紫の光。
そこから、一体の神が降りてくる。
細い体。
冷たい目。
監視の神。
神の視線が――
ホープに向く。
神が低く言う。
「……見つけた」
騎士たちが剣を抜く。
「守れ!」
兵が前へ出る。
だが神は歩き出す。
一直線に。
ホープへ。
ルークが気づく。
「おい」
低く言う。
「お前見られてるぞ」
ホープが言う。
「え?」
そのとき神が言った。
「その力」
「隠しても無駄だ」
ホープが言う。
「何の話だ」
神が笑う。
「まだ知らないか」
神が腕を振る。
轟音。
騎士たちが吹き飛ぶ。
訓練場が崩れる。
砂が舞う。
ホープの目が見開く。
神がゆっくり歩く。
「神の血」
「闘神の血」
そして。
「……時の神の気配もある」
ホープが動けない。
神が手を伸ばす。
「来い」
その瞬間――
ルークが前に出た。
剣を抜く。
「ふざけんな」
神を睨む。
「こいつは俺たちの仲間だ」
ガルドも前に立つ。
地面を踏み鳴らす。
「そうだ!」
拳を握る。
「ホープに手を出すな!」
セリアが弓を構える。
矢をつがえる。
「近づくなら撃つ」
神が少し首を傾げる。
「人間」
「エルフ」
「魔族」
小さく笑う。
「無意味だ」
手を振る。
衝撃。
三人が吹き飛ばされる。
ルークが地面に転がる。
「くそ……!」
ガルドが地面に膝をつく。
「体が……!」
セリアが矢を放つ。
シュッ!
だが矢は神の前で弾かれる。
神がホープに近づく。
そのとき。
ホープの胸が――
ドクン
強く脈打った。
視界が歪む。
耳鳴り。
世界がゆっくりになる。
神が手を伸ばす。
「来い」
その瞬間。
ホープの足元の影が――
止まった。
風が止まる。
砂が宙で止まる。
落ちていた剣も。
すべて。
動かない。
ルークも。
ガルドも。
セリアも。
止まっている。
ホープだけが動いている。
「……え」
空を見る。
雲が止まっている。
自分の手を見る。
時間が。
止まっている。
その瞬間。
体の奥から力が溢れた。
闘神の力。
そして、
時の神の力。
二つが混ざり合う。
ホープが叫ぶ。
「……何だこれ!!」
その瞬間。
時間が動き出す。
爆発。
神が吹き飛ぶ。
城壁が震える。
訓練場が崩れる。
ルークが目を見開く。
「ホープ……?」
ガルドが呟く。
「今の……」
セリアが息を呑む。
「神力……」
そして城の上。
闘神が立っていた。
その目が見開かれる。
闘神は理解した。
十三年前。
恐れていたこと。
ついに。
起きた。
闘神の血。
そして、
時の神の血。
その二つを持つ存在。
闘神は低く呟く。
「……ホープ」
その声は。
ほんのわずかに震えていた。
なぜなら。
その力は――
神々が最も恐れる力だった。




