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闘神の子  作者: ありり
神々の戦争
33/48

抱擁

秋の午後。


城の訓練場には、剣の音が響いていた。


騎士見習いたちは汗を流しながら、何度も剣を振っている。


その中でも――

やはり目立つ少年がいた。


ホープ。


十三歳。


踏み込みが速く、迷いがない。


教官の騎士が声を上げる。


「そこまで!」


見習いたちは一斉に剣を下ろす。


休憩の時間だった。


少年たちは水を飲みながら、笑い合っている。


ガルドが大きく笑った。


「はあ!いい汗かいた!」


ルークが肩で息をしながら言う。


「お前声でかいんだよ」


ガルドが胸を叩く。


「元気だからだ!」


少し離れた場所では、セリアが弓を拭いていた。


ルークが言う。


「相変わらず当ててたな」


セリアは静かに答える。


「外す方が難しい」


ルークが笑う。


「それ言えるの、お前だけだ」


その少し離れた場所。


ホープは一人で剣を拭いていた。


まだ汗が額に残っている。


ガルドが遠くから声をかける。


「ホープ!」


手を振る。


「次は俺とやろう!」


ルークが言う。


「また潰す気か」


ガルドが笑う。


「鍛えるんだ!」


ホープが少し笑う。


「あとでな!」


そのとき、

訓練場の端に、一人の女性が立っていた。


白い衣。


長い黒髪。


城の奥方――


闘神の妻。


彼女は時々、ここへ来る。


兵や騎士たちも慣れていた。


ただ静かに訓練を見ているだけのことが多い。


セリアが気づいた。


「あ……」


ルークが振り向く。


「奥方様だ」


ガルドも見る。


「花園の人だな」


ホープもそれに気づいた。


「あ」


少し慌てて立ち上がる。


そして頭を下げる。


「奥方様」


妻は小さく微笑む。


「こんにちは」


柔らかい声。


ホープは少し照れくさそうに笑う。


「見てたんですか」


妻は頷く。


「少しだけ」


そして言う。


「強くなりましたね」


ホープは驚いた顔をする。


「え?」


「この前より」


妻は訓練場を見る。


「剣が速くなっています」


ルークが小さく笑う。


「確かに」


ガルドが言う。


「前より強い!」


セリアも静かに言う。


「動きが変わった」


ホープは少し照れる。


「本当ですか」


そして少し誇らしそうに言う。


「闘神様にまた挑めるくらいには」


その言葉を聞いた瞬間。


妻の胸が、静かに揺れる。


だが顔には出さない。


ただ優しく言う。


「きっと」


「そうなりますよ」


ホープは嬉しそうに頷いた。


そのときふと風が吹く。


少年の髪が揺れる。


その顔を見た瞬間。


妻の胸の奥で、何かが弾けた。


十三年前の夜。


小さな赤子。


泣き声。


自分の腕の中。


あの温もり。


そのすべてが、一瞬でよみがえる。


この子だ。


目の前にいる少年。


自分の子。


十三年間、触れることすらできなかった命。


胸の奥から、何かが溢れる。


理性よりも先に。


体が動いた。


妻は一歩近づく。


そして――


抱きしめた。


突然だった。


ホープの体が、腕の中に入る。


少年は完全に驚いた。


「え……?」


ルークが目を丸くする。


「おい……」


ガルドが小さく呟く。


「どうしたんだ?」


セリアも静かに見ていた。


体が固まる。


何が起きたのか分からない。


妻は何も言わない。


ただ強く抱きしめている。


震える腕で。


ホープは戸惑う。


「奥方様……?」


だが抵抗はしない。


腕の中の女性は。


とても震えていた。


そして温かかった。


しばらくして。


妻はゆっくり体を離した。


目には涙が浮かんでいる。


だがすぐに微笑んだ。


「……ごめんなさい」


少し困ったように言う。


「あなたが」


息を整える。


「とても頑張っているように見えたので」


ホープはまだ驚いていた。


だが、少し照れたように笑う。


「い、いえ……」


頭をかく。


「びっくりしました」


ガルドが小声で言う。


「羨ましいな」


ルークが小さく笑う。


「お前は黙ってろ」


ホープは少し笑う。


「でも」


少し照れながら言う。


「なんか……」


言葉を探す。


「嫌じゃなかったです」


妻の胸が静かに揺れる。


ホープは言う。


「奥方様って」


少し首を傾ける。


「なんか」


「母みたいで」


その言葉に。


妻の目が揺れた。


セリアが静かに息を飲む。


ルークもガルドも言葉を失う。


だが妻は何も言わない。


ただ静かに微笑んだ。


そして心の中で。


小さく呟く。


あなたの母ですよ。


声には出さずに。

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